暮らしの中の建築パーツ「Noizless編集部の一級建築士、内藤正宏さんの自邸訪問」(中編)
『暮らしの中の建築パーツ』第7回目、山梨県甲府市に暮らす内藤さん家族のお住まい(設計:レクト一級建築士事務所、施工:株式会社アイジェイエス)。中編では内部を見ていきます。
すっきりとしたワイドオークの床が迎えてくれる玄関
―ではここから家の中に入らせて頂きます。まずは玄関を見ていきましょう。節のない木目がきれいなオークの床に白い壁、正面には抽象画が飾られていて、美術館のような空間ですね。

レクト一級建築士事務所 一級建築士 内藤正宏さん。1989年生まれ。山梨県甲府市の材木屋に生まれる。2014年 芝浦工業大学大学院理工学研究科建設工学専攻卒。同年 大手住宅系組織設計事務所勤務、2019年 森田アルミ工業株式会社勤務を経て、2021年株式会社レクトを設立。
ベースの白い壁は予算の都合上量産クロスを使いました。外壁との相性から、真っ白や青白い白ではなく、ちょっとだけ赤みが入った石目調の量産クロス「VS1027」(東リ)を選んでいます。
ちなみに壁に飾っているのは、画家の妻が描いた作品なんですよ。

床には「BAYS WOLD」(森田アルミ工業)のワイドオークを使用しています。この床材は、1枚が1818mm×303mmのワンピース仕様のため、目地が減り、すっきりとした空間を演出できます。また、木造のグリッドと呼応し、空間全体に一定のリズムを生み出しやすいのも特徴です。
上がり框には床に合わせて「WOLD 専用框」(森田アルミ工業)を選んでいます。

玄関土間とホールの段差100mmに対し、この玄関框は高さが36mm。その下を少しへこませてモルタルを立ち上げることで空中に浮いているようなディテールにしました。
上がり框には集成材が使われることが多いですが、この框は表面がオークの突板(つきいた)で仕上げられていて高級感があります。
赤茶色のラワンが白ベースの空間を引き締める
―玄関だけを見ても建築パーツ選定の理由がたくさんありますね!では次に玄関ホール左手にあるリビングを見てみましょう。ぐっと天井が上がり、中庭も広がっていて一気に明るい空間になりました。天井の一部に使われている板はラワン材でしょうか?

〈内藤さん〉はい、リビングの天井はラワン材ですね。ラワンベニヤはかつら剥きでつくられているので、幅が広くて縦に長いものを1枚で使えるのが特徴です。
ベニヤというとシナもよく使われる素材ですが、より素朴な感じがするラワンの方が好きですね。リビングの天井や階段の天井、建具、あとは脱衣室やシューズインクロークの棚などにもラワンを使っています。
脱衣室に造作されたラワン仕上げの大きな棚。
スタディーコーナーの後ろに並んでいるラワンの建具は、取っ手にラワンと同系色のクルミ材を使っています。

それから、リビングのテレビの右手にある収納の扉もラワン材でつくっていますが、その中の一番窓に近い右の濃い部分は壁にラワンを張ったダミーなんですよ。
この一角がラワンの塊に見えるように、上の間接照明が入ったふかし壁の位置や窓の高さなどをそろえています。

―緻密な設計に内藤さんのラワン材への強い思いが感じられますね。ちなみにスタディーコーナーの造作デスクはまた違う木のようです。こちらは何の木ですか?

〈内藤さん〉そこはケヤキの一枚板ですね。僕は実家が材木屋で、このケヤキは実家からもらったものなんです。ケヤキは赤茶系なのでラワンと統一感が出ますし、頑丈な木材なのでデスクの天板に適しています。
照明は目立たせず、空間に埋め込むように配置
―このままLDKの照明計画も見ていきましょう。ダウンライトなどのよく見る照明があまりないですね。
〈内藤さん〉大きなコストを掛けず空間の印象を効果的に変えられるのは照明だと思っていて、1階のLDKに関してはとにかくダウンライトの数を減らそうと考えました。ただ、天井のダウンライトを減らすために壁にブラケットライトを付けるのも避けたいと思っていたんです。
そこで、天井に掘った溝に「TRIM LINE LED照明器具 TRE2-APL」(DNライティング)を設置し、リビングのテレビ前からスタディーコーナー、ダイニングテーブルの中心まで一直線に照らすようにしています。

それから、リビングのラワンの天井には照明を付けず、間接照明で天井をやわらかく照らすようにしました。
でもそれだけだと子どもにとっては照度が足りないので、コーナーの壁に1本「TRIM LINE LED照明器具 TRL-APD」(DNライティング)を付けました。この照明を点ければ、ソファで本を読む時などに後ろから照らすことができます。

中庭のデッキ材は機能と見た目のバランスを考慮
―次にリビングの隣にある中庭に目を向けてみましょう。サッシをフルオープンにして眺める景色がすごいですね。デッキが室内の床と同じ高さで続いています。

〈内藤さん〉このデッキは「バイタルデッキ」(東京工営)という建材で、リサイクルされた木材と再生プラスチックを主原料としています。天然木のデッキも考えたのですが、中庭でメンテナンスがかなり大変になるだろうと思い、この建材を選びました。
室内の床は黄色味のあるオークを使っていますが、デッキ材で黄色味があるものにすると存在感が強くなってしまうんですね。そこでバーチ色を選んでなじむようにしています。

ちなみに脱衣室の裏手に設けたテラスのデッキはアマゾンチェリーを使っていて、天然木がどのように退色や劣化が進んでいくのか経過観察をしています。色はこの1年でだいぶ落ち着いてきました。

仕様やカラーにこだわり、造作キッチンのように見せる
―次に中庭の向こう側にあるダイニングキッチンに行ってみましょう。リビングと同じ約10畳の空間ですね。とてもシンプルなキッチンが置かれていますが、これは造作でしょうか?既製品でしょうか?
〈内藤さん〉造作にできれば空間になじんでベストだと考えていましたが、既製品のキッチンでも天板と扉が同じ素材・同じ色でつくられていれば一つの塊になり、家具のように見えるのではないかとも思っていました。
その条件に該当したのが「GRAFTEKT(グラフテクト)」(TJMデザイン)でした。さまざまなバリエーションがありますが、単色で天板が薄く、シンプルな取っ手という仕様にしたことで造作キッチンのような佇まいになりました。

通常、背面には吊り戸が付くのですが、それを省略することでよりシンプルにして、キッチンと後ろのキャビネットの2つの塊を目立たせています。
また、ゴミ箱を置くスペースを後ろのキャビネットに設けるケースが多いと思いますが、それをシンク下にすることで、リビング、中庭からと斜め横から見た時でもキャビネットがきれいに見えるようにしました。
―なるほど…。既製品キッチンの仕様選びの参考になります。キッチンの後ろの壁の大判タイルの質感も素敵ですね。
〈内藤さん〉 このダイニングキッチンは南向きで明るいんですけど、将来南側の駐車場に建物が建っても光を採り込めるように、キッチンの一部を吹き抜けにしてハイサイドライトを設けています。

そこから光が入った時に壁がきれいに見えるように、「カバストーン(KAVA-1260N/603)」(マリスト)というタイルを張りました。ちなみにこの高天井にはダウンライトも入れているので、夜になっても上から光が落ちてくるんですよ。

– 中編はここまでです。次回の後編では、引き続き内藤様邸の内部をご紹介します。
※本文で紹介しきれなかったLDK内の建築パーツをこちらで簡単にご紹介します。
「ハナリ」(株式会社ニチベイ)。「ロールカーテンでありながらブラインドの機能を持っている製品です。ブラインドはたたんだ時にたたみ代の部分が目立ちますが、ハナリはロールスクリーンなのでメカの中に隠れてくれるんです。それがこの製品の最大のメリットだと感じています」(内藤さん)。
「NKシリーズ」(神保電器株式会社)。「シンプルできれいなNKシリーズはいつも使っているスイッチです。スイッチの位置は、この家の造作建具以外で使っているパナソニックの建具の取っ手の高さに合わせていて、少し低めに統一しています」(内藤さん)。
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前編はこちら→
【この記事で紹介した建築パーツ】
ジョリコートJWC-55(アイカ工業株式会社)
鋼板製 WM防鼠付シャープ水切り(城東テクノ株式会社)
BAKOガスメーターカバー(森田アルミ工業株式会社)
BAKO 電気メーターカバー(森田アルミ工業株式会社)
Brik(森田アルミ工業株式会社)
MIYAMA桧TH玄関ドア(ユダ木工)
耐外風ベントキャップ(壁汚れ低減・ワイド水切タイプ)(株式会社メルコエアテック)
アイスマール(株式会社竹村製作所)
スタンダード半丸105 タニマットブラック
丸たてとい 60Φ タニマットブラック(株式会社タニタハウジングウェア)
Archi-spec TOI 軒といAG120、Archi-spec TOI たてとい45(パナソニックハウジングソリューションズ株式会社)
石目調クロスVS1027(東リ株式会社)
BAYS WOLD(森田アルミ工業株式会社)
WOLD 専用框(森田アルミ工業株式会社)
TRIM LINE LED照明器具 TRE2-APL(DNライティング株式会社)
TRIM LINE LED照明器具 TRL-APD(DNライティング株式会社)
バイタルデッキ(東京工営)
GRAFTEKT(株式会社TJMデザイン)
カバストーン(KAVA-1260N/603)(株式会社マリスト)
ハナリ(株式会社ニチベイ)
NKシリーズ(神保電器株式会社)
【DATA】
内藤様邸
山梨県甲府市
延床面積 114.48㎡(34.63坪)
構造 木造軸組工法
竣工年月 2024年12月
設計 レクト一級建築士事務所
施工 株式会社アイジェイエス
レクト一級建築士事務所
https://www.rect-a.com/
