暮らしの中の建築パーツ「Noizless編集部の一級建築士、内藤正宏さんの自邸訪問」(前編)
『暮らしの中の建築パーツ』では、新築やリノベーションをしたご家族の家を訪ね、それぞれの建築パーツを選んだ理由や感想をご紹介します。
第7回目はレクト一級建築士事務所(Noizlessを運営する森田アルミ工業をホールディングカンパニーとする設計事務所)の内藤正宏さんが設計を行った、山梨県甲府市に立つ内藤さんの自邸。
レクト一級建築士事務所および内藤さんが大切にしているのは、自分たちの作家性を中心に据えるのではなく、光や風、人の営みや文化が息づく「場」に、住まい手の「個性」や「想い」を重ね、バランスを整えながら、そこでしか生まれない暮らしを創造すること。
また、内藤さんは住宅の設計業務だけでなく、森田アルミ工業内で建築パーツの開発や、Noizlessプロジェクトの運営にも携わっており、建築パーツに深く精通している建築士でもあります。
そんな内藤さんが手掛けた自邸ではどのような建築パーツ選びがなされているのか、見ていきましょう。

駐車場に囲まれた土地で開放的に暮らせるコートハウス
内藤さんが家を建てた場所は甲府駅から1km圏内の住宅地。
場所柄、周辺は月極駐車場が多く、内藤さんの家の南側や、東側の道を挟んだ向かい側には駐車場が広がっています。
「すぐ西側もお隣さんのお宅の駐車スペースなので、駐車場に3方を囲まれた敷地ですね。この近くの職場に通勤をする方が月極駐車場を利用しているので、朝と夕方は車の出入りが多く、普通に開いた庭をつくってもカーテンを閉めたままの生活になることが想像できました。
そこで、外に対しては閉じながらも光を採り入れて開放感をつくり出せるように、家の中央に中庭をつくり、その両側にダイニングキッチンとリビングを配しています。
僕は設計をする時、ルールをつくってそれを踏襲していくような手法を取っているのですが、ダイニングキッチン、中庭とスタディーコーナー、リビングのサイズをそろえ、この3つでつくられるボリュームを切妻屋根の2階建て部分にくっつけるような構成にしています」(内藤さん)。
リシン吹き付けで、自然界の泥のようなテクスチャーに
では内藤さん夫婦と2人のお子さん、そして1匹の猫が暮らしているお住まい。外観から見ていきましょう。
――東側から見ると箱型の建物に見えますが、こちらが中庭を内包している部分ですね。とてもすっきりとしていて、余計な線が見えません。このグレーの壁は何が使われているのでしょうか?
〈内藤さん〉 妻と外壁について話し合う中で、自然界にある泥のような少し赤みがあるグレーの素材を使おうということになり、弾性厚吹リシンの「ジョリコートJWC-55」(アイカ工業)のT4005という色を選びました。
ジョリコートは同じアイカ工業の塗り壁材「ジョリパット」よりも安価ですし、骨材が大きめで自然素材らしい雰囲気をつくることができます。
レクト一級建築士事務所 一級建築士 内藤正宏さん。1989年生まれ。山梨県甲府市の材木屋に生まれる。2014年 芝浦工業大学大学院理工学研究科建設工学専攻卒。同年 大手住宅系組織設計事務所勤務、2019年 森田アルミ工業株式会社勤務を経て、2021年株式会社レクトを設立。
――なるほど、サイディング等と異なり継ぎ目がないので、大地からモルタルの塊が立ち上がったような、不思議な味わい深さがありますね。細かいパーツも気になるところですが、例えば土台水切りはどんなものを使っていますか?
〈内藤さん〉 土台水切りに関しては、そもそもそれ自体がない方が良いと思っていて、今回は外周部に水切りを使わないディテールにしました。
基礎を内側にずらすことで外壁が外周にそのまま垂れ下がるようにして水切りを省略しています。
ただ、中庭は逆に基礎が出っ張ってくるので、中庭側には「鋼板製 WM防鼠付シャープ水切り」(城東テクノ)を使いました。中庭は植物が主役なので、水切りがなるべく目立たないようにこの薄見付けの製品を選んでいます。
内藤さんが自らデザインした建築パーツで、見た目のバラつきを整える
――では次に家の西側に行ってみましょう。壁に付いているこの黒い箱は森田アルミ工業の製品ですよね。
〈内藤さん〉 はい、「BAKO」ですね。これは実は僕が開発した製品なんですよ。下にあるのがガスメーター用のBAKOです。目立たない場所ではありますが、自転車置き場の横で毎日目にするので、アイボリーの無骨なガスメーターを黒いBAKOで隠しています。
それに合わせる形で、上にある電気メーターもBAKOで揃えました。
隣のエアコン室外機も隠したいので、今後室外機カバーも開発して隠したいなと考えています。
――すっきりとした外観ゆえに、ガスメーターなどの設備が目立ってしまう。BAKOのシンプルな造形からは、そんなノイズを減らしたいという強い思いが感じられます。
次にポーチにある郵便受けを見てみましょう。こちらも内藤さんがデザインした製品ですよね。
〈内藤さん〉エントランスユニット「Brik」ですね。表札・ポスト・インターホンのばらつきをなくすというコンセプトで開発をしたもので、ここでは壁に埋め込むことで壁と同面(どうづら)にしています。
――壁から飛び出すことなく、すごくきれいにはまっています。
〈内藤さん〉家の全体のボリューム感やコストから、このポーチはちょっと狭くしているんですね。そこにポストが出っ張ってくると、より狭くなってしまうので、壁に埋め込んで存在感を抑えるようにしているんです。
あと、「MIYAMA桧玄関ドア」(ユダ木工)がすごく素敵なので、この玄関ドアがメインになるようにしたかったという理由もあります。
シンプルかつ温かみあふれる木製玄関ドア
――今名前が挙がった「MIYAMA桧玄関ドア」。グレーの壁によって美しく引き立てられていますね。
〈内藤さん〉毎日通る場所なので温かみを持たせたいと思い、木製の玄関ドアを選びました。ユダ木工さんの玄関ドアは断熱性能が高いですし、経年美を楽しみ手入れをしながら一緒に歩んでいくというコンセプトにも共感しています。ドアの高さが2,028mmと低めに抑えられているのもかわいらしくていいなと思いました。
ちなみにポーチの天井は玄関ドアの高さに合わせて低めにしているので、ドアを開けて中に入ると天井高が上がり、空間の広がりを感じられるようにしています。
– 前編はここまでです。次回の中編では、内藤様邸の内部をご紹介します。
※本文で紹介しきれなかった外部の建築パーツをこちらで簡単にご紹介します。
「耐外風ベントキャップ(壁汚れ低減・ワイド水切タイプ)」(株式会社メルコエアテック)。「排気のベントキャップの周りは汚れが付きやすいものですが、この製品は内側に円錐型のパーツが付いていて、室内の空気を壁がある真下ではなく斜め下に出すように設計されています。普通のベントキャップよりも出幅が大きくなりますが、壁が汚れにくいことのメリットが大きいと思い選びました」(内藤さん)。
「アイスマール」(株式会社竹村製作所)。「佇まいが円柱の棒のように見えるのがシンプルでいいなと思いました。ヘアライン仕上げの素朴さがグレーの壁になじんでいます。蛇口が360°回るので植栽や野菜に水やりをする時に使いやすいです」(内藤さん)。
「スタンダード半丸105 タニマットブラック」「丸たてとい 60Φ タニマットブラック」(株式会社タニタハウジングウェア)。「屋根の垂木をはしご掛けにすることで、切妻屋根をきれいに薄く見せています。そこに付く雨といは半丸のきれいな形のものにしたいと思い、タニタさんの製品を選びました。軒といと縦といの連結部分のシュッとした形もきれいです」(内藤さん)。
「Archi-spec TOI 軒といAG120」「Archi-spec TOI たてとい45」(パナソニックハウジングソリューションズ株式会社)。「中庭部分の屋根は0.5寸勾配で軒ゼロなので、半丸ではなく四角い雨といを選び、屋根の小口のように見せています」(内藤さん)。
この記事で紹介した建築パーツ】
ジョリコートJWC-55(アイカ工業株式会社)
鋼板製 WM防鼠付シャープ水切り(城東テクノ株式会社)
BAKOガスメーターカバー(森田アルミ工業株式会社)
BAKO 電気メーターカバー(森田アルミ工業株式会社)
Brik(森田アルミ工業株式会社)
MIYAMA桧TH玄関ドア(ユダ木工)
耐外風ベントキャップ(壁汚れ低減・ワイド水切タイプ)(株式会社メルコエアテック)
アイスマール(株式会社竹村製作所)
スタンダード半丸105 タニマットブラック
丸たてとい 60Φ タニマットブラック(株式会社タニタハウジングウェア)
Archi-spec TOI 軒といAG120、Archi-spec TOI たてとい45(パナソニックハウジングソリューションズ株式会社)
【DATA】
内藤様邸
山梨県甲府市
延床面積 114.48㎡(34.63坪)
構造 木造軸組工法
竣工年月 2024年12月
設計 レクト一級建築士事務所
施工 株式会社アイジェイエス
レクト一級建築士事務所
https://www.rect-a.com/
