【イベントレポート】「Noizless vol.3」発刊記念イベント(後編)|いま語るべきノイズレス建材トークセッション

4月3日に発売予定の『Noizless vol.3』。その発刊記念イベントを、321日に株式会社NENGOさんのポーターズペイントショールーム(神奈川県川崎市高津区溝口3-2-5 BOIL2F)で開催しました。

今回のイベントでは、建築家、建材メーカー、ビルダーの3者をお招きし、それぞれの立場から家づくりや建材の考え方について語って頂きました。

登壇者は、建築家の関本竜太さん(株式会社リオタデザイン 代表取締役)、建築素材SOLIDOの開発者である藤田新次さん(ケイミュー株式会社 常務執行役員)、神奈川県を中心に住宅の設計施工を手掛けるビルダーの野口妙子さん(株式会社スタジオカーサ 取締役)のお三方。

イベントレポートの後編では、関本さん、藤田さん、野口さんのお話を紹介します。


 

〈宇野〉では最初に、関本さん、藤田さん、野口さんから簡単に自己紹介をお願いできますでしょうか?

宇野 健太郎 (森田アルミ工業・研究開発部 営業2部 常務取締役) 大阪の一風変わった集合住宅『都住創』で幼少期を過ごす。2005年 東北芸術工科大学(山形市)現プロダクトデザイン学科卒。同年から都内の建築設計事務所で不動産を経験。2007年 森田アルミ工業株式会社入社。入社以来、森田アルミのデザイン全般を担当。2015年に東京オフィス、2020年レクト設計、2022年にNoizlessの立ち上げに参画。

 

 〈関本さん〉リオタデザインの関本と申します。経歴はこちらに出ている通りになりますが、大学を卒業してからフィンランドに留学に行った経験があり、帰国後にリオタデザインを設立して現在も設計事務所を主宰しています。

設計の仕事の98%くらいが戸建て住宅になりますが、設計以外にも最近はいろいろなことをやっていて、本を出させて頂いたり、セミナーでお話をしたり、スツールの製作を行ったりしています。よろしくお願い致します。

関本竜太さん  1971年埼玉県生まれ。1994年日本大学理工学部建築学科卒業。1994年〜99年エーディーネットワーク建築研究所。2000年〜01年フィンランド ヘルシンキ工科大学(現アールト大学)留学。2001年現地の設計事務所でプロジェクトに関わり、同年12月帰国。2002年一級建築士事務所リオタデザイン設立。2007年株式会社リオタデザイン代表取締役。2008年〜14年/2016年〜20年日本大学理工学部非常勤講師。日本建築家協会(JIA) 会員、北欧建築・デザイン協会(SADI) 理事
関本さんのNoizless パーツ探訪インタビューはこちら

 

〈藤田さん〉ケイミュー株式会社の藤田と申します。日本の主に戸建て住宅の屋根材・外壁材の製造販売を行っている会社で、屋根材・外壁材においては日本の戸建て住宅の3割くらいに当社の製品をお使い頂いています。

ケイミューは2003年に株式会社クボタと松下電工(現パナソニック)が統合してクボタ松下電工外装株式会社として誕生。その後、アメリカで使われていた会社名「Kubota Matsushitadenko Exterior Works」の頭文字を取り、2010年にKMEW(ケイミュー)という社名に変更しました。

私自身はずっとマテリアルの研究に携わっていて、中でもリサイクルの技術開発に深く携わり、そこから転じて「SOLIDO」の企画開発を行うようになりました。よろしくお願い致します。

藤田 新次さん(ケイミュー株式会社 常務執行役員)1969年京都市生まれ。京都工芸繊維大学 工芸学部 無機材料工学科卒。株式会社クボタを経てケイミュー株式会社へ。 セメント系素材の研究開発やリサイクル技術開発に長年従事し、SOLIDOの企画、デザイン、開発、ブランディングに一貫して関わる。
藤田さんのNoizless 「建築パーツの作り手」インタビューはこちら

 

〈野口さん〉スタジオカーサの野口と申します。スタジオカーサは2017年に設立した設計事務所兼工務店で、神奈川県横浜市の東急東横線菊名駅の近くに事務所があります。
従業員10名あまりの小さい会社で、不動産の売買やローン付け、設計、施工、家守りをやっています。

私は今39歳ですが、27歳くらいまでは北海道の新千歳空港で国際線のハンドリング業務に携わっていました。その後アトリエ系の設計事務所で修業し、リノベーションや不動産事業を行う会社を経て、当時の二人の上司と一緒にスタジオカーサを立ち上げました。

資材価格が高騰する中でローコスト住宅が注目されていますが、お客様の資産となる家をしっかり提供していきたいと考えています。よろしくお願い致します。

野口妙子さん(株式会社スタジオカーサ 取締役 デザイナー)北海道千歳市出身。航空会社のグランドスタッフ、アトリエ系設計事務所、リノベーション会社を経て、2017年に株式会社スタジオカーサを立ち上げる。大事にしているのは「お客様のお話を因数分解し、必要を見極め自分の言葉と温度で伝えること」。 https://studiocasa-style.com


日本の家づくりは、今後どうあるべきか?

〈宇野〉ここからは登壇者のみなさんに「日本の家づくりは今後どうあるべきか?」というテーマで話して頂きたいと思います。関本さん、藤田さん、野口さんの順番でお願いできますでしょうか?


「お品書きのない料理店という価値」

〈関本さん〉住宅業界は今、価格高騰の波を受けて苦戦をしている状況で、我々設計事務所も例外ではありません。その中で我々が提供している価値ってなんだろう?と考えた時、我々設計事務所と対極にあるものとして「御用聞き」という業態があると思います。

分かりやすいたとえでいうとファミリーレストランですね。メニューを見て、ハンバーグセットを選んで、ごはんを大盛りにして…、あ、あとドリンクバーも付けちゃおうかな、みたいな。それで注文した料理が運ばれてきて、美味しいねって言って食べてお勘定して帰る。

それを僕は「御用聞き」と考えています。もちろん、それは否定されるようなものでは全くありませんが。

一方我々が提供している価値が何かというと「お品書きのない料理店」なんですね。それは高級店じゃなくてもいいんですが、気が利いたレストランに行くとコース料理がありますよね。

気が利いたシェフだと、「魚でしたら今日スズキのいいのが入ってるんですけど」とか「タコがこの季節とても美味しいんですよ」っていう話があって、「じゃあそれお願いしようかしら」という会話になる。

そうすると、どんな料理が出てくるんだろう?って楽しみになりますよね。で、出てきた料理のビジュアルからはどんな味がするのかも分からない。でも食べてみると「わー、美味しい!」ってなって、次に出てくる料理がまた楽しみになる。

我々が提供している価値というのは、そういうものに近いんですね。だから、我々はその価値を分かってもらえるように努力をしなければいけないと思うんです。

これからの家づくりはどうあるべきか?といったときに、価格高騰の中でコストダウンして安くできますという方に行きがちですが、ぶれないことがすごく大事だと思っています。逆にそこをぶらしてしまうと我々の価値がゼロになってしまうんですよ。

そうではない家づくりの価値観は世の中にあまたあるので90%はそっちに流れていく。それでも我々のところに残ってくれる方は数%は確実にいるので、そこを信じてぶれないことが大事だと考えています。

 

〈宇野〉関本さん、ありがとうございます。藤田さんはいかがでしょうか?

個性がありながらも街並みに統一感をつくる建材」

〈藤田さん〉私はずっと素材を研究してきたので、素材という部分からこれからの家づくりについて語りたいと思います。

まず、元々どこの国でも、その土地にある材料で家をつくり出してきたという事実があります。そうするとその地域に立つ家には統一感が出て、普遍的な美しさが現れる。

私も究極はそういう建築材料をつくりたいなあと思っていて、ここ10年くらい取り組みを行ってきました。

そうして作ったのがこういうセメント系の板です。

SOLIDO Noizless 商品紹介ページ

コンクリート打ち放しの建築がいいものとされているので、セメント系の素材も受け入れられるだろうと考えたんです。白華現象によって一枚一枚違う模様が出るのも、自然素材らしくていいなと思いました。

リサイクルの研究もずっとしてきたので、工場で生産時に出る廃材も材料として使うことにしました。他にも世の中で廃棄されるゴミをたくさん使おうということで、紙に再生できないような古紙をほぐして繊維にして使っていました。

でも当初社内では全くウケなくて、なかなか発売させてもらえなかったんですよ。「こんな汚い板、買う人いないよ」って。

その後初めて「いいね」と言ってくださるお客さんが現れました。コーヒーチェーン店さんだったんですが、社内で発売許可が下りていなかったセメント板を認めてくださって、累計200店くらいに採用して頂きました。

それがSOLIDOという製品です。その後、多くの建築で採用をして頂ける建材になりました。

以前は均一できれいなものが良いとされていましたが、近年は不揃いであることも好まれるようになったと感じています。SOLIDOは個性がありながらも、街並みに統一感をつくることもできる建材です。

より良い建材をつくることで、これからの日本の街並みを良くしていきたいなあと思っています。

 

〈宇野〉藤田さん、ありがとうございました。最後に野口さん、お願いします。

家づくりに主体的に取り組む手助けをしたい

〈野口さん〉日本の家づくりは今後どうあるべきか?というテーマについて、工務店の立場からお話しさせて頂きます。

まず住まい手の方はどうしても「買わされてる感」があるなあと感じています。そこで、住まい手の方がより主体的に家づくりに関われるように、取り組んでいきたいと感じています。

あと、私は「衣食足りて礼節を知る」という言葉が好きで、私はそれに住を足して「衣食住足りて礼節を知る」と捉えています。

工務店という仕事を通して住まい手の方を下支えしながら、住まい手のみなさんには、いい家づくりに主体的に取り組んでもらいたいと思いますし、それがひいては国力の増加につながるのではないかと考えています。ちょっと大きいことを言ってしまいましたが、それくらいの気概を持って工務店として住宅に携わっていきたいなと思っています。

 

これから『Noizless』が目指すべきところ

 〈宇野〉野口さん、ありがとうございます。次にお三方に伺いたいのですが、今後私たちが発行している『Noizless』がどうあるといいのかについて、一言ずつ頂けますでしょうか?

〈関本さん〉Noizlessは、私が設計をした住宅も昨年取材をして頂きました。これはすごくいい取り組みだと思っています。

関本さんのNoizless パーツ探訪インタビューはこちら

というのは、建て主さんが家づくりを進めていく時、世の中にどういう建材があるのかを知っているようで知らないと感じていて。ネットで調べればたくさんの建材が出てきますが、そこではすべてのものがフラットに出てきます。検索のワードがはまれば欲しいものが出てくるけど、どういう言葉を放り込めばいいか分からないこともある。

その中でNoizlessはセレクトショップのような役割をしていると思うんです。しかも掲載されているものが広告ではないからガチなんですよね。

ところで我々が使うものは、あくが強いものはダメなんですよ。そこには匿名性がないといけない。アノニマスなものであるかどうかが、我々がものを選ぶ基準になっているんですね。

読み人知らずのプロダクトだけど、それがどんな個性的な空間にもフィットし、定番のようにはまっていく。それはノイズレスという考え方にもつながるものだと思います。

それぞれの設計者、建築に関わる人が心の中に持っている「読み人知らずのデザイン」というものがノイズレス。そこには普遍性があります。

だから『Noizless』はもっとみんなに知られるべきだと思うんですよね。今回の第3号はぜひもっと目立つ場所に置いてほしいです。

 

〈藤田さん〉関本さんがおっしゃったように、僕も『Noizless』はセレクトショップだと思います。自分が家を建てる時にあったら良かったなあと(笑)。

僕は好きなものを調べ出すと毎日ずっとインターネットやYouTubeを見てしまいます。同じように、家づくりをする施主さんで、インターネット上で調べたり探したりするのにものすごく時間を掛ける方は少なくないと思いますので、そういう負担を軽減する役割も大きいと思います。

ですから「家を建てるなら、まずはNoizlessを」というメディアになっていくといいですよね。

 

〈野口さん〉住宅に関するメディアは、ユーザーに迎合し過ぎることで変な方向に向かっていくことがあると思います。『Noizless』は、そうではないメディアなので心強く感じていますし、私たちビルダーの立場としても何かで協業できたらうれしいですね。

 

〈宇野〉ありがとうございます。先ほど関本さんから「ぶれないこと」の大切さをお話頂きましたが、僕らも気持ちを強く持って軸をぶらさずに発信していきたい思います。

 

ご登壇いただいた関本さん、野口さん、藤田さんありがとうございました。

 

以上、前編・後編に渡って「Noizless vol.3」発刊記念イベントの内容をご紹介させて頂きました。

これからの家づくりはどうあるべきか?ぜひ自分なりの答えを考えてみてはいかがでしょうか?

 

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