パーツ探訪「関本竜太さんに訊く、モノを選ぶことは設計者の職能」前編


指揮者がタクトを振るように設計する

「デザインとはそこに流れる空気のようなものを受け止め、掬い上げる行為ではないか」
シリーズ『パーツ探訪』の第2回目は、こんな設計哲学を大切にする、建築家の関本竜太(リオタデザイン主宰)さんにお話をうかがいます。


伸びやかでありながら高密度なつくりこみがなされた空間設計に、同業である建築のプロにもファンが多い関本さん。

今回訪れた「巣の家」は23坪の敷地に建つ2階建てのコンパクトな住まいで、関本さんの設計術とパーツへのこだわりが隅々まで貫かれています。その空間に惹かれた住まい手が寄せる声は、「新築なのにずっと前から住んでいたように思える」という最高の賛辞。

どこにいても視線が外に抜けるように絶妙に窓が設けられた、2階のLDK。ダイニングテーブルは「ミリ単位でコントロールできる」ため造作で。小上がりのリビングはダイニングのベンチも兼ねており、10人でテーブルを囲むことができる。テーブル下部はオープン収納になっており、食卓まわりをスッキリ保てる。リビングの横はワークスペース。

そんな関本さんにとってパーツや建材は、「空気」をつくる大切な要素の一つです。
「オリジナルでつくることにも興味はあるけれども、選ぶことも設計者の大切な職能です。音楽に例えれば、一つの曲がさまざまな楽器で奏でられ、指揮者がオーケストラのメンバーの役割を生かしながら音楽をつくりだすように、パーツを選んで設計します」という関本さん。

質実な美しさが宿る空間の魅力を、パーツを切り口に迫ってみます。

関本竜太
1971年埼玉県生まれ。1994年日本大学理工学部建築学科卒業。1994年〜99年エーディーネットワーク建築研究所。2000年〜01年フィンランド ヘルシンキ工科大学(現アールト大学)留学。2001年現地の設計事務所でプロジェクトに関わり、同年12月帰国。2002年一級建築士事務所リオタデザイン設立。2007年株式会社リオタデザイン代表取締役。2008年〜14年/2016年〜20年日本大学理工学部非常勤講師。日本建築家協会(JIA) 会員、北欧建築・デザイン協会(SADI) 理事

 

 

#1 水と木を共存させるハーフユニットの浴室

「巣の家」の建築面積は、11.69坪。1階は玄関と寝室、2階がLDKと水まわりという構成です。

そして浴室は、非日常を感じたいという住まい手の要望を受けて、宙に浮かぶバスガーデンを提案。外壁の板塀とアオダモが、プライバシーを守りながら開放感をもたらしてくれます。
「巣の家」という名前も、枝の先の鳥の巣が宿り木をも呑みこみ、人の住み処となったかのような佇まいをイメージしてのことだそう。

浴室・洗面・トイレは徹底的にムダを省いて一体化されていますが、寸法設計の妙はもとより、建材やパーツ選びもポイント。圧迫感を感じさせないだけでなく、腐朽対策も考慮した、関本さんのスタンダードを教えてもらいました。


-タイルの水切りと人工大理石の窓台
-nojimokuの「小幅板風羽目板」

浴室はヒノキ板張りのハーフユニット。ユニットと木部の間にタイル(#9参照)を巡らせて、水から木部を保護するのが関本さん流です。
窓台も水対策として人工大理石を採用。奥行きを深く取っているので、窓の外の景色が立体感をもって飛び込んできます。さらに、ここに飲み物などを置いて長風呂を楽しんでもらいたい、という意図もあるそう。

繊細な表情の天井は、nojimokuの「小幅板風羽目板」。表面にスリットをつけた羽目板なので張り手間が少なく済むのも特徴です。
開発にかかわったのは、関本さんの友人の建築家である小谷和也さん(マスタープラン/小谷和也設計室主宰)で、リズミカルな小幅板使いに長けた北欧建築にヒントを得て、ヒノキのもつ和風な印象を払拭するべく開発されたというストーリーがあります。

「小谷さんと一緒にフィンランドで、アルヴァ・アアルトのマイレア邸を見学した時、やけに天井の板幅に注目していまして。帰国したら、こんな風にアイデアが結実していたことに驚きました(笑)」

 

 

#2 空間をあますところなく活用する、跳ね上げ式のトイレ

 限られた面積を最大限活用するために、トイレは個室にせず、洗面・脱衣室と一体に。さらにカウンターの一部を跳ね上げ式として、トイレを使う時はカウンターを上げ、使わない時はカウンターを下げて、歯磨きのコップや入浴時の着替えを置けるよう徹底しています。

このようにトイレを個室にしない場合は、便器の選び方もポイント。

「便器は白にすると設備感が強く出てしまうので、“LIXIL サティスG” のノーブルグレーを採用。色が可愛いいし、色味が床材に合う。デザイン的にもスッキリしているのが気に入っています」

 

 

#3コンパクトな水回り空間にしっくりなじむ、エッジが薄いドイツ製の洗面ボウル

定番の一つが、200年もの歴史をもつドイツの老舗メーカー・DURAVIT (デュラビット)の「DuraSquare(デュラスクエア)」の洗面ボウル。
独自開発したセラミック素材を用いており、エッジ(縁)がわずか5㎜という薄さを実現しています。四角いフォルムを成形するにあたっても、高度な技術が採用されており、幾何学的なフォルムに対し、内側はすべらかなカーブを描いているのも特徴です。

「とにかく佇まいが美しい。この薄くてシャープなエッジを出せるのがすごいですよね。ドイツの高級ブランドならではの技術が結集しているかのようです。ハーフベッセルで水の跳ね返りを防ぎつつ、圧迫感がないのもいいですね」

排水栓がステンレスではなく洗面ボウルと同じ陶器で、白一色で統一できるのもポイントの一つ。
ただし洗面ボウルに水を貯めたい、という住まい手には別のタイプを紹介することもあるそうです。
「洗面ボウルに対する一般論ですが、そもそも水を貯めなくてもよいと思うのですよね。自分自身も、貯めたいと思ったことがない。水を貯めるとなると、ポップアップ式の排水栓や水抜き穴など、余計なモノがついてくる。下洗いをするなら風呂でやって、その分、洗面ボウルをシンプルにするのがおすすめです」

 

 

#4 シックなタイルのように見えるV目地のコルクタイル

脱衣室の床で採用することが多いのが、東亜コルクの「浴室フロア用コルクタイル〈バスコ〉(BA-305・面取・脱衣室専用)」。
コルク樫の樹皮からつくられるコルクは、ワインの栓に使われるほど耐水性が高いのが特徴で、〈バスコ〉もコルク特有の細胞構造が磁器タイル並みの高い防水性を発揮し、吸い込んだ水分も素早く蒸発させる性質を利用しています。

「コルクと聞くと茶色に粒々が散ったイメージをもたれる方が多いと思いますが、この色は着色ではなく、コルクチップを高温で焼成した炭化コルクの色。このような濃い色を水まわりの床に使うと、空間が引き締まるんです。また、気に入っているのは、ジョイントのV目地です。見た目には石やタイルのような高級感を醸し出すのに、足触りはあたたかみがあるんですよ」

 

 

#5 アルミアングルで制作した、受け金物とシームレスにつながる戸当たり

トイレと洗面室が一体になっているので、トイレを使っている時は、扉を閉めて鍵もかけておきたい。

ただしふだんは開け放したほうが、2階全体の開放感が出るし、浴室の窓越しに緑も見える。

戸当たりをつけるのは野暮だが、巾木の厚み分、壁と戸の間に隙間が生じてしまうのでやっぱり必要だし、鍵受けも納めなければならない……こんなジレンマに対する回答が、アルミアングルでつくった戸当たりです。

「コンパクトな家なので、余計な要素で煩わせたくない。ただ巾木をなくすような無理もしたくないのですね。そこで考えたのが、扉を開けても存在感を放たない、アルミアングルの戸当たりです。受け金物とシームレスに見えることも念頭におきました」

 

 

6 リビングから見ると家具、内側に立つと機能的なキッチン

キッチンの設計にも定評がある関本さん。使い勝手とデザイン性を兼ね備えているだけでなく、コンパクトな「巣の家」でも十分な収納量を確保しています。

「キッチンはステンレスですが、オープンなLDKでカウンターをフルフラットにすると、シルバーのフレームが出てしまい、設備感の強い“厨房”という印象に。水がかりも考慮して20㎜立ち上げてカウンターを設け、リビング・ダイニングから見ると家具、内側に立つと機能的なキッチン、となるように心がけています」

キッチンは大工造作ではなく家具製作で。住まい手の好みによってカスタマイズしますが、シンク下をオープンにして、分別用のゴミ箱や食洗機を設置するがスタンダード。オープンキッチンの場合、レンジフードはシンプルなデザインのARIAFINA(アリアフィーナ)「センターバルケッタ」。「巣の家」では壁付けのI型キッチンで、壁側にはコンロ周りでよく使うツールを掛けられるようにしています。

またカウンター背面にたっぷりしまえる収納と、ソフトクローズ機能のついたフラップアップの吊り戸棚を設け、素敵な食器をギャラリーのように飾れる棚も造作。
「オープン棚はキッチンをきれいに保つモチベーションになるのか、好まれる住まい手の方が多いですね」
炊飯器などのためのスライドテーブルを組み込むのも、関本さんのスタンダードです。

 

 

#7 根元に水がたまらないグースネックのセンサー付き水栓

 コロナ禍頃から要望が増えたタッチレス水栓ですが、関本さん曰く、実はセレクトが難しいとのこと。そんな関本さんの定番が、KVKの「シングルシャワー付混合栓」。

「タッチレス水栓って、思いのほか水栓の根元に水が残って掃除が面倒なんですね。よほどこまめにお手入れしないと、水垢が残ってしまいます。洗い物や料理をしたあとに水栓の根元がビショビショだと心が折れるのですが(笑)、これは撥水加工が施されているので水ジミがつきにくい。プロダクトデザインとしても秀逸だと思います」

 

 

8 こだわりあふれる水まわりの金物3選

引き出しのハンドル金物にも、関本さんのこだわりが詰まっています。
キッチンは、カウンター背面の収納のハンドルにはKAWAJUNの「プルノブ PS-01H-300」を使用。

「昔からの定番で、端部がシャープできれいなのはもちろん、把っ手をつかまず指を引っ掛けるだけでも開けやすいので自宅でも使っています」

キッチンのシンク下、および洗面室のタオル掛けに使っているのは、toolboxの長さをオーダーできる「ハンガーバー」ですが、関本さんの独特のプロダクト感がうかがえます。

「6㎜φでシャープに見えるのもポイントなのですが、toolbox独特のデザインもセレクトの理由の一つ。toolboxのプロダクトって、DIYしやすいようにつくられているモノも多いですよね。ふつうはこうしたバーは、板の裏からネジを揉んで、板の表面にネジを見せないようにつくられています。対してこのハンガーバーはDIYしやすいように表側にプレートがついていてネジで止められる仕様になっている。このコントロールされた絶妙な手づくり感がいいんですよね。完璧に洗練させるちょっと手前の、住まい手のほうに暮らしを引き戻す感じが、気に入っています」

洗面室のタオル掛けは、寸法設定にこだわりが。
「ちょっと短めに設定していて、タオルをだらっと掛けて欲しくないんですよ(笑)。なのでおのずと二つ折りにしていただけるような寸法でオーダーしています」。

 

 

#9 住まい手が選ぶことで愛着を抱けるボーダータイル

キッチンのレンジフード下や収納、洗面室のカウンター、浴室の水切りなど、さりげなくそこここにタイルが用いられていますが、これは平田タイルの「Smart」。理由をうかがうと、関本さんらしいパーツに対する考えが見受けられます。

「家づくりって住まい手の方が自分で何かを選ぶのも楽しいじゃないですか。自分で選んだものを使うと、住んでいて愛着が沸くきっかけにもなる。特にタイルは色や形が豊富で、選択の幅が広い建材です」
ただしゼロから選ぶことになると選択肢は無限で、住まい手側としても決めきれず、ストレスになってしまうことも。

「また必ずしも空間デザインに合うとは限らないので、建築家・住まい手ともに疲弊してしまうことも。ですので、“リオタデザイン”というフィルターを通したものを提示して、その中から選んでもらう……というのも一つの手だと思っています」

そんな考えにうってつけなのが、平田タイルの「Smart」です。シンプルなボーダータイルで、色が18色と豊富。空間の方向性を大きく変えることなしに、良いアクセントになり、関本さん好みの北欧デザイン風になるのも気に入っているそう。「巣の家」では住まい手の方が、淡いクリーム色や深い紺色を選びました。

「設計事務所ってどこかセレクトショップのような面ももっていると思うのです。好みのセレクトショップに行くと、あれも欲しい、これも欲しいと楽しくなるじゃないですか。設計事務所に対しても、希望のプランをつくってほしいという要望はもちろん、信頼する感性をもった相手に提案してもらいたい、というところもあるのではないでしょうか」

 

後編に続く

 

〈このコラムで紹介したパーツ〉

・風呂天井材:nojimoku - 小幅板風羽目板

・トイレ:LIXIL - サティスG

・洗面ボウル:DURAVIT - デュラスクエア

・脱衣室タイル:東亜コルク - 浴室フロア用コルクタイルBA-305

・レンジフード:ARIAFINA - センターバルケッタ

・タッチレス水栓:KVK - シングルシャワー付混合栓

・プルノブ:KAWAJUN - PS-01H-300

・タオル掛け:toolbox - ハンガーバー

・ボーダータイル:平田タイル - Smart

 

【プロフィール】 

関本竜太

1971年埼玉県生まれ。1994年日本大学理工学部建築学科卒業。1994年〜99年エーディーネットワーク建築研究所。2000年〜01年フィンランド ヘルシンキ工科大学(現アールト大学)留学。2001年現地の設計事務所でプロジェクトに関わり、同年12月帰国。2002年一級建築士事務所リオタデザイン設立。2007年株式会社リオタデザイン代表取締役。2008年〜14年 / 2016年〜20年日本大学理工学部非常勤講師。日本建築家協会(JIA) 会員、北欧建築・デザイン協会(SADI) 理事

関本さんのホームページ:https://www.riotadesign.com/

 

 【巣の家】

東京都西東京市
延床面積 76.94㎡(23.27坪)/ロフト含まず
構造 木造在来工法 地上2階建て+ロフト
竣工年月 2022年
設計・施工 株式会社宮嶋工務店