外壁で日本の原風景に回帰する(前編)

このコラムでは、「作り手の気持ち」と題して、住宅や建築パーツに関わる作り手たちにインタビューをして、背景や想いを語っていただきます。専門用語も少し出てきますが、そこは一緒に学んでいきましょう。

第1回目は、ケイミュー株式会社から商品企画・技術開発部長である藤田新次さんにお話を伺いました。ケイミューは、屋根材・外壁材・雨といの製造・販売を手がける外装建材の大手メーカー。クボタと松下電工の住宅外装建材部門を統合して設立された会社です。NoizlessでセレクトしているSOLIDO(ソリド)の生みの親である藤田さんにサイディングの基礎的な情報からSOLIDO誕生の話、そして今後の展望について2回にわたってお話をいただきます。

サイディングはこうして日本の外壁になった。

── 窯業系(ようぎょうけい)サイディング(※1)はいつ頃広がったのですか?

高度経済成長時代に手ごろな価格で品質の安定した住宅を大量に供給するという社会的要請に合っていたことで広く普及しました。木造住宅が主流の日本において防火性能が優れていることも大きな理由です。元来、建材は地場産業であり、瓦や木材にしても建築地の近くでつくられたものを使うことが一般的でしたが、工場と物流のインフラが両方整ったことで日本全国に広く流通させることが可能になりました。ちょうど、同じ流れで成長したプレハブ住宅に採用されたことも大きかったと思います。

※1 窯業系サイディング:セメントに混和材や繊維質を混ぜた原材料を、板状に成形して養生硬化させた外壁材です。防火性能が高く、寒冷地域での耐久性や施工性も優れていることから日本全国に広がりました。


── 最初からサイディングにはテクスチャーがあったのですか?

私が入社する頃のサイディングにはあまり柄の種類がなくて、塗り壁を模した平坦な柄に目地を付けるかどうかくらいのものでした。当時の外壁仕上げはまだモルタルが一般的でしたが、タイル・レンガ柄や木を模した柄が新商品として注目された時代を経て、次第にサイディングが主流となっていきました。大きく発展していったのは、日本全国での使用に耐える高い耐久性、高度な技能がいらずに素早く工事できる施工性、そしてたくさんのデザインを同じ素材でつくれたからだと考えています。結果として、現在では日本の新築戸建住宅外壁の8割近くは窯業系サイディングとなり、海外にも輸出されるようになっています。


── いつ頃からサイディングのテクスチャーをフェイクだと気にする人が出てきたのですか?

元々、建築家はフェイクだと言ってサイディングを使ってはくれませんでした。20年前くらいから、建築家以外の人でも何かに似せたサイディングではなく素材そのものの表現を求める人が少しずつ増えてきたように思います。コンクリートや鉄といった工業製品でも本物と認識されているのに、サイディングはそうではなかったということです。

工業製品でありながら本物。

── SOLIDOは今までの壁面材とは何が決定的に違うのでしょうか。

SOLIDOは工場でつくられるセメント板なので、木や石といった自然素材とは異なります。しかし、同じ工業製品でもコンクリートや鉄は本物と認識されています。SOLIDOで追い求めたのは工業製品でありながらもその本物の素材群に加わりたいということでした。質感のあるセメント素材そのもので1枚1枚同じものがないという特長が他の量産型外壁材と全く異なるところです。


── SOLIDOはどんな住まい手に適した製品ですか?

SOLIDOは完成品ではなく実は半製品であって、設計者や施工者、住まい手の創意工夫が加わって空間として完成するものです。ですから、質感の高い素材を求め空間がどうあるべきかを考える住まい手には向いていますが、そういうことに全く興味がなく、均一な美しさを求める方にとってはただの小汚い壁でしかないかもしれません。

- SOLIDO誕生の背景はこちらのサイトに詳しく書かれているのでこちらをご覧ください。
https://www.kmew.co.jp/shouhin/solido/about/story/ep01.html

かっこいいから美しいへ。表面から内面へ。

── SOLIDOを使うことで家や暮らしにどんな変化をもたらしますか?

SOLIDOを意識するきっかけは「SNSで見かけたこの壁、かっこいいな」というのが多いかと思います。調べていくうちにSOLIDOが「世の中のいらないもの」を原材料としてつくられていることに気づく方もいるでしょう。最終的にSOLIDOのある空間で過ごすことで、普段の暮らしから「地球環境に負荷を掛けない」ライフスタイルを意識してくれたら作り手としての本望です。


Noizlessには紹介されていませんが、SOLIDOのシリーズの中にはtypeF coffeeという商品があります。その原材料の約60%は、本来であれば使われることもなく捨てられるであろう素材、例えば 火力発電所から出る灰、紙には再生しにくい古紙、コーヒーの豆かすなど からできています。新居に遊びに来てくれたお友達にもそんなSOLIDOの背景を伝えることでそこから環境に対する意識が変わるきっかけが生まれるかもしれない。それが連鎖して周りの人たちのライフスタイルの変化のきっかけになったら本当に嬉しいです。

さらに、SOLIDOの表面的な美しさだけでなく、solidな素材だからこその内からあふれ出る質感を感じ取ってもらいたいです。


── 藤田さんは最初からリサイクルや環境負荷低減への関心が人一倍高かったのですか?

いいえ、全然そうではなかったです。きっかけは技術者としていかに製品のコストを抑えるかという課題に向き合う中で安価な材料を探していると、リサイクルの検討すらされずに捨てられる材料があることに気がつきました。それがまだ3Rやリサイクルがもてはやされていなかった二十数年前のことです。やがてリサイクルが良いことだともてはやされるようになってくると、一部では高いコストや逆に環境負荷をかけてこれ見よがしにリサイクルするという風潮があって、とても違和感がありました。何が何でもリサイクルするのではなく、世の中でいらないとされたものをうまくものづくりに使って安く提供できた方が世の中でうまく循環すると考えています。

 

日本の原風景を取り戻す。

── SOLIDOは次の外壁のスタンダードになっていくのですか?

ちょっと、斜めからの回答になってしまいますが、未来のスタンダードみたいな考え以前に、現在の状態が良くないと思っています。日本の古き良き建築は、特別なものを除きその地域で入手できる素材でつくられてきました。同じ素材でつくるからこそ地域ごとの統一感もあると同時に地域毎の個性にもつながっていました。今、私たちが供給する建材でつくられている住宅は、その集合体である街並みという視点で考えると、昔に比べて劣化している状態ではないかと考えています。


日本って美しい街並みだよねと思ってもらえる、そしてそれに寄与するような建材をつくりたい。SOLIDOが街に増えて、なんだか日本の原風景に戻ってきた懐かしい気がするって言ってもらえたら最高ですよね。簡単なことではないけれど、それを目指してやっていきたいと思っています。


SOLIDOを開発するきっかけともなったのですが、建築家から「日本の街並みが美しくないのは、日本の住宅の屋根材や外壁材それぞれ3割を供給しているケイミューさんの責任だよね」と言われたことがあります。建築文化は国によって違いますが、日本の住宅地がいつかヨーロッパのように土地の歴史を反映した美しい街並みになればと思います。そこに微力ながら貢献したいですね。


── SOLIDO以外のサイディングも今後変わっていくような感じがしたのですが?

SOLIDO以外の製品をSOLIDOに近づけることは考えていません。サイディングだからこそできることに挑戦したいと思っています。そのため世の中に貢献できるような技術をいろいろと研究しています。サイディングってこんな風に世の中に貢献できるんだっていうことがそのうちお見せできると思います。


- 前編はここまでです。後編はSOLIDOの魅力を掘り下げていきながら、持続可能な社会の実現に向けて建材が果たす役割について話が続きます。

Noizless 編集部

→コラム:外壁で日本の原風景に回帰する(後編)はこちら

→Noizless SOLIDO 製品ページはこちら

 

藤田 新次(ふじたしんじ)
ケイミュー株式会社 執行役員 全社技術副担当
兼 商品企画・技術開発部長

プロフィール/ 1969年京都市生まれ。
京都工芸繊維大学 工芸学部 無機材料工学科卒。
株式会社クボタを経てケイミュー株式会社へ。
セメント系素材の研究開発やリサイクル技術開発に長年従事し、
SOLIDOの企画、デザイン、開発、ブランディングに一貫して関わる。

受賞歴/ グッドデザイン・ベスト100 2016、2019
iF DESIGN AWARD 2019
JCD PRODCT OF THE YEAR 2018グランプリ、2019準グランプリ
他、グッドデザイン賞等多数