外壁で日本の原風景に回帰する(後編)
向けて建材が果たす役割についてお話を伺いました。
隅と縁が一番大事。
── 出隅(※2)の納まりは非常に美しいと思ったのですが、これはこだわった点ですか?
この出隅用につくった金具は何の変哲もないX型の金具ですが、これは建築家の粕谷淳司さんから提案をいただきました。その後、実際の現場で施工してみて、その出来栄えを確認したうえで、そのまま製品化させてもらいました。単純なアイデアですが、どの角度から見てもみえがかり(小口)が目立たない、破綻がないデザインになっています。それでいて、施工も無理なくできる。
開発段階でまだコーナーの納まりが確立されてなかった時にSOLIDOの現場に足を運ぶと、出隅の仕上げが大変だったと職人さんから怒られたこともあります。美しいだけでなく、現場にも優しくないとだめです。
こういったマテリアルは隅と縁が一番大切なので、可能な限りいろんな種類の納まりを用意しています。こんな沢山のパーツがあっても売れないと言われることもあるのですが、そういった細部まで気を配ったパーツがあるから、本体の素材を使いたいと思ってもらえるんですね。また、防水に関してもこだわっていて、見えない箇所に板金のパーツを入れることで、美しさを求める建築家が使っても、性能は担保できるようにするのがメーカーの責任だと思っています。
※2 出隅 2つの壁や、板が出会う出っ張った隅(角)のこと。
愛着が果たす持続可能性
── 日本の住宅を魅力的にしていくために、建築や建材に携わる人が今やるべきことは何でしょうか。使用可能な建築物を取り壊して大量の廃棄物を発生させた後に、大量のエネルギーを費やして生産した材料を用いて新たな建築物をつくる現在の建築や建材産業がこのままでいいと考えている人は少ないと思います。その問題には逃げずに正面から取り組んでいこうと考えています。
しかし、そもそも壊す前にどうしてもっと長く使えなかったのかということを考える必要があります。昔の建築は使えなくなるまで使いました。現代の建築は建物の寿命というよりは、愛されなくなって壊されることが多い。まずは空間を豊かにして、長く愛着がわく建築にすることで建設廃材そのものを少なくする。そのために私たちはそれに資する建築材料を提供するということができたらいいと思っています。
短期間に改装する必要がある店舗で使われる建材については、他の現場でreuseする仕組みをつくる。自社建材だけでなく、広く社会で使われなくなった材料をリサイクルして、SOLIDOをつくる。このような仕組みを脱炭素に取り組みながら実現していきたいです。
SOLIDOはリサイクルされているから持続可能性に貢献しているというのは確かにそうですが、そもそも捨てられるものを無くす、減らすことが一番大事。リサイクルは一番最後です。使えなくなるまで使ってから捨てるのが本来の姿ですが、現代は技術の力で折角長く使えるものを作ったのにそれをすぐに廃棄してしまう。昔の方が経済合理的だったのではないかなと思います。
しかし、昔に比べると人口が格段に増えました。以前のように自然素材だけで住宅を作っていたら、それこそ山をどんどん切り崩すことになる。それは現実的ではないですよね。そこは工業製品を生かしていくのが現代の姿ではないでしょうか。今そこに足りないのは愛着ではないかと。
── 愛着というのは目から鱗でした。さらに、藤田さんの口からこの後、地域性というキーワードが出てきました。原風景にも通じる話について詳しく聞きました。
昔は自然条件や地域で取れる素材によって地域ごとに家の表情が違いました。しかし、今は日本全国の住宅がどこも同じような表情になってしまった。そのうち、初めて訪れた街でも風景が似たり寄ったりだと感激がなくなってしまうのではないか。地域性というのは大切だと思うのです。それをどう全国に建材を供給するメーカーとしてやっていくのか、今はまだできていませんが、それはやらないといけないと思っています。
何年経っても時代を感じさせない家。
── 最後の質問です。藤田さんにとっての普通の家(しっくりくる家)ってどんな家ですか?
私は材料屋なので、素材に関しては人よりもうるさいと思います。私から見てしっくりくる家というのは、素朴な素材で作られた素朴な家です。別の表現でいえば、タイムレスな、時代に左右されないデザインの家。
実際に18年前に建てた自宅の外壁は、職人さんが丁寧に塗ったモルタルの上にリシン吹きしたもので、部分的に荒く挽いたレッドシダーのサイディングをオイルペイントして使っています。四角い総2階のなんの変哲もない家ですが、いつ建てたのかわからない雰囲気が気にっています。
建材メーカーも私たちのそばにいる。
── インタビュー全体を通じて、外壁材、工業製品に対する藤田さんの愛を感じました。サイディングの歴史を語っている時の藤田さんのまなざしが忘れられません。
藤田さんは建材メーカーの中で現実の課題と向き合いながらも、現状に甘んじずに日本の家をもっと変えてきたいと活動されています。SOLIDOという素晴らしいプロダクトを生み出されてもなお、さらにずっとその先を見ておられることが随所に伝わってきました。
同席されていた2名の方にも、「しっくりくる家とはどんな家ですか?」と同じ質問をぶつけてみたところ、「暮らしている人が幸せな家」「愛着を感じる居心地が良い家」という素朴な答えをいただきました。企業向けのインタビューというと、宣伝に偏りがちなのですが、皆さんユーザーとしての気持ちを素直に話してくださったと感じました。実は建材メーカーの人たちも家を建てる人たちと同じ感覚なんだと。そこにボーダーがないのだと感じました。
建材メーカーも私たちのそばにいる。
この言葉でインタビューを締めくくります。
今後もNoizlessに関わるものづくりの現場からの声を届けていきます。
Noizless 編集部
藤田 新次(ふじたしんじ)
ケイミュー株式会社 執行役員 全社技術副担当
兼 商品企画・技術開発部長
プロフィール/ 1969年京都市生まれ。
京都工芸繊維大学 工芸学部 無機材料工学科卒。
株式会社クボタを経てケイミュー株式会社へ。
セメント系素材の研究開発やリサイクル技術開発に長年従事し、
SOLIDOの企画、デザイン、開発、ブランディングに一貫して関わる。
受賞歴/ グッドデザイン・ベスト100 2016、2019
iF DESIGN AWARD 2019
JCD PRODCT OF THE YEAR 2018グランプリ、2019準グランプリ
他、グッドデザイン賞等多数