工務店スタッフが手掛けた自邸。建築パーツから垣間見えるのは“力まない暮らし”(後編)

『暮らしの中の建築パーツ』第1回目、新潟市中央区に暮らす小倉直之さん・佳子さん夫婦のお住まい。後編では2階のLDKに使われている建築パーツを見ていきます。


傷が味わいになるポーターズペイントの壁

リビングがある2階に上がってみました。

少しグレーがかった壁と天井が光を柔らかく反射しているのが分かります。これはNoizlessでも紹介をしてきた塗料『ポーターズペイント』(ポーターズペイントジャパン)を使った仕上げです。

「私たちはクロスの良さも知っていますが、リビングや1階のラウンジは塗装にしてみたかったんです。ポーターズペイントは同じ白でもたくさんの種類があり、それぞれに名前が付いているのも面白いなと思いました。

4種類のサンプルを作って頂いた中から『Meringue(メレンゲ)』を選び、目の粗い石英が入った『ストーンペイント』にして頂きました。

講習を受け、会社の同僚にも手伝ってもらいながら自分たちですべて塗装しました。特に大変だったのは、きれいに養生をすること。塗装をする職人さんたちの苦労が分かりました」と話すのは、2階部分のほとんどを一人で塗り上げたという佳子さん。

日中の自然光を反射する様子もいいですが、夜照明に照らされると表面の陰影が一層際立ちます。 「こすり傷や汚れが付きやすいですが、それも住んでいるうちに味わいとして受け入れられるようになりました。後から違う色を塗り重ねられるのもポーターズペイントの楽しみですね」(佳子さん)。

  

針葉樹合板の壁とミズナラのフローリング

リビングの壁は全てがポーターズペイントではなく、節がない針葉樹合板も使われています。

針葉樹合板というと、構造用合板として使われる、節が多くて荒々しいラーチ合板を想像してしまいますが、小倉さんの家で使われているのは無節のすっきりとした針葉樹合板です。残念ながら、こちらも「メーカー名は内緒」ということでした。 

床は『ミズナラのプライウッド』(アンドウッド)

「これは以前マンションリノベーションで使ったことがあり、その時に一目ぼれしました。オークに似た木目で、洋にも和にも合うし、いい意味で存在感がない。

リビングにはいろいろなものが置かれますが、何を置いても受け止めてくれる床材ですね」(直之さん)。

 

造作ソファには、ふかふかのツイード調ファブリックを採用

リビングの一角にはヌックのような空間が設けられています。実はここは元々ベランダだった場所。床の立ち上がりや垂れ壁が、かつてベランダであったことを静かに伝えてくれます。この立ち上がりを生かして造られたのが大きな造作ソファです。1.5畳の広さがあるこのソファはベッド替わりにもなるのだそう。

生地は『ホームツイード』(MORIDEN)という温かみのあるファブリック。ポリエステルがメインですが、ウールリング糸が使われておりツイード調の質感を楽しめます。

数年前に直之さんがこの生地に出合い、以降、モリタ装芸の造作ソファで使われる定番の素材になったのだそう。

  

天然素材由来のリノリウムを使った造作キッチン

L字型の造作キッチンは、食べることやお酒を飲むことが大好きな小倉さん夫婦のこだわりが詰まったスペースです。

窓辺のキッチンでは、外の景色を眺めながら料理ができるのがポイント。L字型の広い天板は作業がしやすく、2人で一緒に作業をするのにも都合がいいそうです。

壁面には1階にも見られた『柱システム』があり、棚には調味料や食器がずらりと並んでいます。

引き出しの白い面材は、亜麻仁油などの天然素材で作られるリノリウムが張られています。

完全な白ではなく、少しベージュ色が入ったナチュラルな色味は「マッシュルーム」という名前の色。奥に張られている『白いタイル』(ニッタイ工業)と比較すると、色味の違いがよく分かります。

「白すぎない面材は昔の家具のようでもあり、懐かしさを感じさせます。また、あえて造作キッチンの枠を現すことで立体感を表現しました。引き出しの取っ手にはシンプルな『把手の金物』(toolboxを使っています」(直之さん)。

ダイニングテーブルを囲むように配されたキッチンは、食事の準備や片付けもスムーズ。キッチンを隠すのではなく、あえてオープンにするレイアウトに、「気取らず、力まずに暮らしたい」という二人の価値観が現れています。

 

力みのない、楽しい暮らしを目指して

細かい所を見ていくと、小倉さん夫婦の思い入れがある建築パーツがまだまだたくさんありますが、今回はこのへんで…。

お二人の建築パーツ選びの根底にあるのは「力まない」という考え方。

「最初に用途を細かく決めるのではなく、後からどうとでも変えていけるような楽な暮らしをしたいと思っていました。それがポーターズペイントの壁や、独自の柱システムだったりします。

あとは、何を置いても違和感のない『適当』に暮らせる家が理想でした。洗練されたデザインではなく、アナログ感だったり懐かしい感じを大事にしています」(直之さん)。

素材感や質感にこだわりながらも、住む人にも訪れる人にも緊張感を与えることがない小倉邸。その秘密は、抜けを許容することにあるのかもしれませんね。

 『暮らしの中の建築パーツ』では、今後もオーナー宅を訪ね、建築パーツ選びの背景や思いを掘り下げていきたいと思います。次回もお楽しみに

 

 

 

【この記事で紹介した建築パーツ】

蝋型鋳造法オーダー表札原惣右エ門工房
ジョリパットアイカ工業株式会社
モイスNTアイカ工業株式会社
桧の小幅羽目板
株式会社共栄木材
チークのヘリンボーンアンドウッド株式会社
ミズナラのプライウッド(アンドウッド株式会社
ポーターズペイントポーターズペイントジャパン
ホームツイード株式会社森傳
白いタイルニッタイ工業株式会社
把手の金物株式会社TOOLBOX

 

DATA
小倉邸
新潟市中央区
延床面積 97.71㎡(29.50坪)
構造 木造軸組工法
竣工年月 2016年(20236月リノベーション工事完了)
設計・施工 株式会社モリタ装芸

 

⇦コラム前編はこちらから