玄関周りに統一感を生み出す、ミニマルなエントランスユニット(後編)
森田アルミ工業株式会社の内藤正宏さんへのインタビュー。後編では表札のこだわりについてご紹介します。
シミュレーションサイトで表札の打ち合わせを効率化。
―ここまでポストとインターホンパネルについて詳しく解説頂きました。表札についてはどのような工夫をされましたか?
〈内藤〉ポストとインターホンパネルを統一するのは難しくなかったんですが、表札だけは全然違う要素です。でも、表札もできる限り主張をなくしたいと思いました。
そのために、インターホンパネルの粉体塗装を表札の名前が入る部分だけ剥がし、そこにプライマーを塗って、その上から名前を塗装することにしました。
わりと設計事務所では主張が強い立体的な表札が好まれず、カッティングシートをポストに貼るケースがありますが、カッティングシートはいずれ劣化して剝がれてしまいます。
表札は日本独自の文化であり、アイデンティティを現すものでもあるので、劣化しやすいものであってはいけないようにも思います。それで、カッティングシートのようなさり気なさがありつつ劣化しにくいものを目指して、塗装で仕上げています。

また、表札の文字に関しては人それぞれ好みがあるので、自分で名字を入れて、フォントや色を選べるシミュレーションサイトを用意しました。
お施主さんにはシミュレーションサイトで好きなフォントや色を選んで頂いて、次の打ち合わせの時に作成した表札のIDを教えてもらうだけで完結できるんです。
ちなみにお施主さん目線では、シミュレーションサイトで選べるものが多すぎると決定するのに苦労します。そこで、12のレイアウトをあらかじめ設定しました。

また、おすすめのフォントも和文3パターン、欧文3パターンを用意していますし、文字の色もおすすめを用意しています。それらのおすすめの中から選んでいけば、数分でかっこいい表札を自分でつくることができます。
―「おすすめ」があるのでデザインに自信がない人も安心して選べるのがいいですね。ちなみに「おすすめ」以外のフォントや色も選べますか?
〈内藤〉はい、おすすめ以外からも選べます。もちろん私たちの方である程度絞り込んだものにはなりますが、ちょっと個性的なフォントも入っています。
玄関前を美しくする、機能門柱と宅配ボックスも開発中。
―ポスト・インターホンパネル・表札、それぞれに工夫が詰め込まれているんですね。改めてBrikのコンセプトと今後の展望を聞かせてください。
〈内藤〉「玄関前を美しく」というのがBrikのコンセプトなので、表札のかっこよさ、ポストのかっこよさではなく、玄関前のきれいさにフォーカスをしています。それは「Noizless(ノイズレス)」のコンセプトと一緒で、ノイズをなくして空間を美しくしたいという思いがあります。
ちなみにBrikの企画は2021年に始まって、ニーズのリサーチや、仕様変更などを繰り返しながら、約4年半かけて発売することができました。
リサーチをする中で、「壁ではなく機能門柱に取り付けたい」というご要望を受け、機能門柱にきれいに固定できるようにビスの取り付け位置を見直したりもしました。
実は去年から機能門柱の開発も始めていて、今後1~2年以内の発売を目指しています。さらに、宅配ボックスの開発にも着手しているところで、こちらは機能門柱の後に発売したいと考えています。
―玄関前を整えるための商品が今後も展開されていくんですね。ちなみに内藤さんはレクト一級建築士事務所で住宅の設計をしながら、このような商品開発も行っているんですか?
〈内藤〉はい、今は住宅の設計とプロダクトの商品開発を半々くらいの割合で取り組んでいて、プロダクトのアイデアは、住宅の設計でお客様と向き合う中で生まれています。

ちなみに一品生産の住宅の設計と、量産するプロダクトの商品開発は全く違う頭を使います。
ただ、僕はプロダクトデザイナーの視点というよりは建築の視点でプロダクトを考えているので、細部の造形よりも引きで見た時の佇まいの美しさに興味があります。それによって「造作っぽさ」が出て既製品感が弱まり、より建築になじむ製品ができ上がっているのではないかと思っています。
あと、森田アルミ工業に入って一番驚いたのは図面の縮尺の違いでした。僕が図面を描く時はだいたい1/50。最も大きい縮尺でも1/1なんですが、森田アルミ工業では5倍や10倍に拡大して図面を描くんですね。そのスケール感の違いが、僕が考えるプロダクトのデザインにも現れていると思います。
―では最後の質問になります。『Noizless』では「普通の家(しっくりくる家)とは何か」をテーマにしていますが、内藤さんにとってそれはどんな家でしょうか?
〈内藤〉Noizlessを運営しながらも、その答えに辿り着けていないんですが、そもそもノイズというのは、見た目がごちゃごちゃしていることだけではないなと思っています。
昨年自分の家を建てたんですけど、自宅なので既製品ではないアルミの汎用部材で入り巾木をつくってみたんですね。入り巾木の出隅の角は尖っているので引っ越し前にやすりで滑らかにしたんですが、それでも子どもがその近くで寝転がると「危ない!」って0.5秒くらいの心のざわつきが起こるんです。そういうこともノイズだなと思います。

あとは、ソフトクロージングではない引き戸を閉める時、普段は気にならないのに、家族と喧嘩をしている時だと強めに閉められた時の音がすごく気になってしまうとかですね。僕はそれが嫌なので、積極的にソフトクロージングの引き戸を採用しています。
見た目だけでなく、五感すべてで感じる「心のざわつき」をなくすことがノイズレスなのだと思います。

──前編・中編・後編の3回に渡ってご紹介させて頂いた森田アルミ工業の内藤さんへのインタビュー記事は以上となります。
玄関前の必需品である、ポスト・インターホン・表札。それらは、機能や役割の違いから、バラバラに購入して集められることが多いもの。
内藤さんはそれによって生まれる違和感と向き合い、レンガ(Brick)のようにきれいに積み重なる「Brik(ブリク)」を生み出しました。そして、その挑戦はこれからも続いていきます。
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内藤正宏 一級建築士
ないとうまさひろ・1989年生まれ。山梨県甲府市の材木屋に生まれる。2014年 芝浦工業大学大学院理工学研究科建設工学専攻卒。同年 大手住宅系組織設計事務所勤務、2019年 森田アルミ工業株式会社勤務を経て、2021年株式会社レクトを設立。
