工務店スタッフが手掛けた自邸。建築パーツから垣間見えるのは“力まない暮らし”(前編)

Noizlessでは建築パーツにまつわる話を深堀りして紹介していますが、実際の暮らしの中で、建築パーツはどのような役割を果たしているのでしょうか?

新シリーズ『暮らしの中の建築パーツ』では、新築やリノベーションをしたご家族の家を訪ね、それぞれの建築パーツを選んだ理由や感想をご紹介します。

第1回目は新潟市中央区の建築会社、株式会社モリタ装芸がリノベーションを行った小倉直之さん・佳子さん夫婦の住まいです。

実は直之さんと佳子さんは共にモリタ装芸で働くスタッフ。直之さんはリノベーション部門で設計・営業・現場監理を担当しており、佳子さんは新築住宅部門の営業を担当しています。

小倉直之さん・佳子さん夫婦。

家づくりのプロがつくり上げた自邸。一体そこにはどんなこだわりが詰め込まれているのでしょうか?さっそく見せていただきましょう。

 

鋳物師がつくるオーダー表札のための外壁

小倉さん夫婦が2023年の夏にリノベーション工事を終えて暮らし始めた家は、実は中古住宅として販売されていた築6年の自社施工の建物。3間×5間のシンプルな総2階のフォルムが特徴です。

縁あって購入したその中古物件を、自分たち仕様にフルリノベーションを行いました。こちらが正面の外観です。

外壁を白い金属サイディングに張り替えたところが大きな変化ですが、直之さんの最も大きなこだわりは表札にありました。

鈍い色を放つ表札は、新潟県柏崎市の鋳物工房「五代晴雲 原惣右エ門工房」でオーダーした蝋型鋳造法でつくられた表札

「原惣右エ門工房さんの表札は、僕がモリタ装芸に中途で入社して最初に担当したお客様が選んだものでした。12~13年前のことですが、蝋型鋳造法で唯一無二の表札ができ上がることに惹かれ、いつか自分が家を持つときには原さんに表札を依頼しようと決めていたんです」(直之さん)。

直径120mm程の楕円の上に、「小倉」の文字が浮かび上がっています。表情あふれる表札に合わせ、背景の壁は塗り壁材『ジョリパット』(アイカ工業株式会社)を選択。ざらざらとした岩肌仕上げが表札を引き立てていました。
ポーチの軒天に使われている木は『桧の小幅羽目板』(株式会社共栄木材)。「ここではレッドシダーのような存在感は出したくなくて、節のない桧を選びました。和の趣がある表札との調和も意識しています」(直之さん)


赤レンガタイルで仕上げられたワークスペース

一方、足元は、どことなくレトロ感のある『赤レンガタイル』で仕上げられています。直之さんは理想とする床用タイルを半年ほどかけて探し、ようやく見つけたのがこの赤レンガタイルだったといいます。

そのタイル床は玄関土間へと続き、そのままさらに奥の室内へ連続。

うっかり土足で上がりそうになってしまいますが、玄関で靴を脱いで上がるのが正しい使い方です。

 「昔のマンションの共用部のような場にしてみたくて、1階の手前半分ほどを赤レンガタイルで仕上げました。うちは2階リビングの家なので、階段を上がると家らしくなるんですが、ここはもっと外に近い感覚で使えます。オフィスのような場でもあるので、ここで仕事をすると捗りますね。ちなみに、冬は足元が冷たくなるというデメリットもあります(笑)」(直之さん)。

ちなみにこのタイルのメーカー名は内緒とのこと。「自分に合った建材を苦労して探すのも価値があることだと思います」と直之さんは話します。 

 

 

床材店おすすめのチークの5段ヘリンボーン

1階の奥の床は『チークのヘリンボーン』(アンドウッド株式会社)

「手前の赤レンガタイルが小さい材料なので、奥のフローリングも小さい材料を使いたいと思いヘリンボーンにしました。5枚を一組にした5段ヘリンボーンは、床材店アンドウッドさんのおすすめ。赤レンガタイルとの相性を考えて、樹種は色の濃いチークを選びました」(直之さん)。

奥には4.25畳の個室が2部屋並んでおり、洗面台に近い奥の部屋はドレッサーが造られています。

このドレッサーは、L型金具で合板を壁に取り付けているだけの簡単な仕組みですが、金具を受ける壁側に独自のギミックが見られます。

「これは、僕がこの家のリノベーションをする時に考えた『柱システム』というものです。壁に張ったボードの継ぎ目を隠すために押し縁を付けているのですが、その押し縁に、一定間隔の穴を開けたアルミの板を埋め込みました。その穴にホームセンターで売っているL型金具を取り付ければ簡単に棚を増やせます。

メーカー既製品の可動棚の場合、メーカー指定の棚受け金具を使う必要がありますが、この仕組みならホームセンターで売っている安価な金具で対応できます。ちなみに棚板に使っている合板は建築時に出る端材を活用しました」(直之さん)。

既製品パーツでは飽き足らず、建築パーツを自ら創り出す。設計者の強い意志が感じられます。この直之さんが考案した「柱システム」は玄関の靴棚にも使われています。

「それから、先ほどの個室や玄関の壁に使っている灰色のボードは『モイスNT』(アイカ工業株式会社)と呼ばれるもので、けい酸カルシウム板をベースに天然鉱物のバーミキュライト、珪藻土などが配合されています。調湿性に優れているのが特徴ですが、消臭作用も高いと感じています」(直之さん)。

– 前編はここまでです。次回の後編では、小倉邸のリビングがある2階をご紹介します。

 

【この記事で紹介した建築パーツ】

蝋型鋳造法オーダー表札原惣右エ門工房
ジョリパットアイカ工業株式会社
モイスNTアイカ工業株式会社
桧の小幅羽目板
株式会社共栄木材
チークのヘリンボーンアンドウッド株式会社

 

DATA
小倉邸
新潟市中央区
延床面積 97.71㎡(29.50坪)
構造 木造軸組工法
竣工年月 2016年(20236月リノベーション工事完了)
設計・施工 株式会社モリタ装芸