【イベントレポート】勝手にセレクト展④|再生材料がふんだんに使われたケイミューのセメント系建材SOLIDO。
5月23日に無印良品グランフロント大阪(大阪市北区)で開催された、『Noizless』vol.3発刊記念イベント「勝手にセレクト展 -Parts for Home-」のトークイベント。
イベントレポート4回目では、ケイミュー株式会社の藤田新次さんのお話を紹介します。
藤田 新次さん(ケイミュー株式会社 常務執行役員)1969年京都市生まれ。京都工芸繊維大学 工芸学部 無機材料工学科卒。株式会社クボタを経てケイミュー株式会社へ。 セメント系素材の研究開発やリサイクル技術開発に長年従事し、SOLIDOの企画、デザイン、開発、ブランディングに一貫して関わる。 藤田さんのNoizless 「建築パーツの作り手」インタビューはこちら
日本の戸建て住宅における屋根材・外壁材のシェア3割を誇るケイミュー。
〈宇野〉ケイミューの藤田さんには『Noizless』立ち上げの時から『SOLIDO』という商品でご協力を頂いていて、これまでWEBのインタビューにもご登場頂いてきました。今回もよろしくお願い致します。まずは藤田さんの自己紹介と会社のご紹介をお願いできますでしょうか?

宇野 健太郎 (森田アルミ工業・研究開発部 営業2部 常務取締役)
〈藤田さん〉はじめに会社の紹介をさせて頂きます。KMEWと書いてケイミューと読むんですけど、主にセメントでつくった屋根材や外壁材を製造販売しています。屋根材・外壁材それぞれで日本の戸建て住宅の3割くらいのシェアを持っています。あとは親会社であるパナソニックの雨といの販売も行っていまして、こちらは日本国内で6割弱くらいのシェアとなっています。

元々農機で有名なクボタと松下電工(現パナソニック)がそれぞれ外装建材事業をやっていたんですが、その2社が一緒になって2003年にクボタ松下電工外装株式会社が発足しました。その後英文会社名「Kubota Matsushitadenko Exterior Works」の頭文字を取り、2010年にKMEW(ケイミュー)という社名に変更して現在に至っています。
僕は会社の中でずっと研究者としてセメントの建材やリサイクルの研究をやってきましたが、それまでとは違うことをやりたくなり、研究の責任者をやりながら『SOLIDO』の開発を行いました。
セメントらしい素材で勝負できる建材を開発。
〈宇野〉なぜ『SOLIDO』をつくろうと思ったんですか?
〈藤田さん〉そもそも、世界のどこでも昔の住宅は近くで取れる材料で建物をつくっていたので、地域ごとに統一された材料が使われ、その土地ならではの様式ができていました。その結果、美しい街並みができていたと思うんですね。
ひるがえって現代ですね。日本では戦後、「住めれば何でもいい」という時代があり、その後日本は復活に向かっていくわけですけど、そうすると人々に「ちゃんとした家が欲しい」という欲求が出てきます。だけど供給が足らずプレハブ住宅が生まれ、ニュータウンができました。

それと並行して高速道路などの物流網が整ってきたことで、我々が今つくっているサイディングや屋根材を各地へと運べる時代になったんです。同じ規格サイズで全国同じ仕様の家がつくれることになり、我々の業界は発展していきました。
しかし近年、何人かの建築家の方に「日本の新興住宅地ではあなたたちがつくった外壁材や屋根材が一番使われているけど、それは美しいと思っているの?」と聞かれたんですね。さらに「木調やレンガ調、タイル調とかのフェイク建材ではなく、本物の建築素材をつくってくれないかな?」と言われました。
たしかに、我々の建材がたくさん使われた住宅地を海外の人が訪れた時に「日本の街並みっていいね」と言ってくれるものなのだろうか?と考えさせられました。そして、セメントらしい素材で勝負できるものをつくってやろうじゃないかと思ったんです。
そうして紆余曲折を経て、それまでのサイディングとは全然違う『SOLIDO』という建材をつくりました。セメント建材らしいムラがあり、1枚として同じものがなく、時と共に味わいを増す自然素材のような工業製品です。

セメントってエフロレッセンスというカルシウム系のあくが出てくるんですね。それをうまくコントロールすることで、1枚1枚異なるいい表情が現れています。

ちなみに『SOLIDO』にはtypeMとtypeFがありますが、これは森君という開発者がつくったものをMタイプ、僕がつくったものをFタイプとメンバーが勝手に呼んでいたのをそのまま商品名にしたものです。
素材の大部分が廃棄物でつくられる『SOLIDO』。
〈宇野〉開発も大変だったと思うんですけど、製品ができてから市場にはスムーズに受け入れられたんですか?

〈藤田さん〉いえ、スムーズじゃなかったです。そもそも社内での許可が下りず発売ができませんでしたので。しかし、それより先にとある大手カフェチェーン店さんが採用されたんですね。さらにグッドデザイン賞でベスト100に選ばれて、やっと社内で認められて発売にこぎつけることができました。この2つがなかったらお蔵入りになっていたと思います。
〈宇野〉そうだったんですね。ちなみに『SOLIDO』はリサイクル素材を使っているのも特徴ですよね。
〈藤田さん〉そうなんです。リサイクルをすごく大事にしていて、特にカフェなどの気持ちいいお店で使われる建材は、つくる過程で極力環境に負荷を掛けたくないと思い、なるべく捨てられるものでつくろうと思いました。
廃材置き場の風景
それで『SOLIDO typeF coffee』は、火力発電所の灰や古紙、自社で出る廃材、コーヒー豆のカスなど、重量比で6割くらいは廃棄されるものでつくっています。残りの3割くらいはセメントですが、セメント自体も石灰石以外はゴミからできていますので、『SOLIDO typeF coffee』の大部分はゴミからつくられているといえます。

※「SOLIDO typeF coffee」についての記載です。SOLIDOであっても、使用している材料や再生材料比率は、品種によって異なります。
石灰火力発電所
石炭灰
古紙
あと、これはだいぶ先のことになりますが、将来建物が壊される時になんとかうまく『SOLIDO』を回収してきて、またうちの工場で再生できないかなあと考えています。
リサイクルという点で今もう一つ考えているのが、今開催中の大阪・関西万博で使われている建材ですね。協賛で差し上げたからという理由もあり、コモンパビリオンなど万博の半分以上の建物にケイミューの建材が使われています。
採用頂いているのは、30年40年色が変わりませんというグレードのサイディングですが、万博の建物は1年くらいしか使われずに解体されてしまうんですね。であれば、万博レガシーとしてこれらのサイディングをどこかでリユースしたいなあと個人的に考えています。万博で使われていたサイディングが、どこかの分譲地に運ばれて使われたら社会的な意義があると思うんです。
法的、コスト的にハードルが高いので、実現するかどうかはわかりませんが。

開発拠点がある奈良県で、橘(たちばな)の栽培も。
〈宇野〉リサイクル技術を製造に活用するだけでなく、今後解体される建物から建材を回収して再活用することも考えているんですね。最後に何か他にお伝えしたいことはありますでしょうか?
〈藤田さん〉はい、では最後に一つ宣伝をさせてください。
我々の開発拠点は奈良県にあるんですが、奈良県さんはすごく良くしてくれていて、我々も奈良県に報いたいなあと思い、明日香村の耕作放棄地を利用して、日本古来の柑橘類である橘(たちばな)という小さなみかんの栽培をしています。
地域の障がい者の方を雇用して育て、橘を使ってくれるところに卸す取り組みをしているんですが、毎年収穫量が増えているので商品開発をすることになり、この度、無印良品さんとコラボレーションした『大和橘おろしぽん酢』という商品が発売されました

こちらは無印良品イオンモール橿原店(奈良県橿原市)で販売が始まり、今は大阪・京都・東京などの無印良品さんでも扱っているようですので、ぜひ手に取ってみてください。
今日はありがとうございました。
SOLID WEBサイト:www.kmew.co.jp/shouhin/solido/
〈Noizless 商品掲載ページ〉
以上、全4回に渡って「勝手にセレクト展-Parts for Home-」のトークイベントの内容をご紹介させて頂きました。
各メーカーの実務者の皆さんの熱い思いをアーカイブする目的で制作した今回のイベントレポート。既に知っている建築パーツでも、製作の裏側を知ることで見え方が変わってくるのではないでしょうか?
ぜひ、これからの家づくりに使う建築パーツを考える際の参考にして頂けたら幸いです。
