玄関周りに統一感を生み出す、ミニマルなエントランスユニット(前編)
「作り手の気持ち」第6回目は、Noizlessを運営する森田アルミ工業株式会社。Brikの開発を担当した内藤正宏さんにお話を伺いました。
森田アルミ工業は1972年にベランダ手摺や面格子をつくるアルミニウム加工業者として大阪府泉南市で創業。その後、自社で企画したオリジナルブランドの製品開発を始めます。2005年頃からデザインに注力し、現在ではエクステリア建材だけでなく多様なインテリア建材を製造販売するようになりました。
今回のインタビューでは、Noizlessでセレクトしたエントランスユニット「Brik(ブリク)」の開発の経緯について伺いました。前編・中編・後編の3回に分けてご紹介します。

Brik(ホワイト) ポスト+インターホンパネル
さまざまなパーツが混在する玄関前を整える。
―今回はエントランスユニットという文字通り、家の入口で使われる建築パーツですね。どのような経緯で開発が始まったのですか?
〈内藤〉僕は、森田アルミ工業が100%出資して設立されたレクト一級建築士事務所で住宅の設計をやっていて、以前から玄関の周りをきれいにつくりたいと考えていました。
それで、表札やインターホンの色をそろえたり、中心をそろえて配置したりするんですが、それでも引きで見るとパーツごとに奥行が違ったりして、全体として統一感がないことが気になっていたんです。
内藤正宏 1989年生まれ。一級建築士。山梨県甲府市の材木屋に生まれる。2014年 芝浦工業大学大学院理工学研究科建設工学専攻卒。同年 大手住宅系組織設計事務所勤務、2019年 森田アルミ工業株式会社勤務を経て、2021年株式会社レクトを設立。
その課題を解決するために、ある時インターホンパネルとポストを壁に埋め込むことにしました。まずはインターホンパネルとポストの素材をステンレスで統一し、次にインターホンパネルの幅をポストに合わせてオーダーしました。

ただ、インターホンパネルとポストでは厚みが違うので、インターホン側の壁の中をふかす必要がありました。それからインターホンパネルが前からビスを止める構造だったので、ビス打ちのために四周の隙間をつくらなければなりませんでした。
あとは、ポストの扉が上に開く構造で、そのスペースを確保する必要があったのですが、きれいに見えるようにインターホンパネルとスペースの高さを同じくらいにしています。
そうしてきれいにつくることができたのですが、さすがに建築側の苦労が多すぎました。それで、「ポスト・インターホン・表札が一体になっている既製品があったらいいな…」と思い、Brikの開発をスタートしたんです。
―バラバラに見えるポスト・インターホン・表札を一体にしたい…。住宅の設計者ならではの視点ですね。その時点で目指していた製品像がはっきりしていたのでしょうか?
〈内藤〉先程の事例で課題になっていたポストとインターホンパネルの厚みの違いや、ポストとインターホンパネルの間のスペース、あとは壁を掘る手間などをなくしたいと思っていました。
よりきれいに見せるために壁に埋め込んでもいいですが、壁の上に付いていてもきれいに見えるものを目指すことにしたんです。

Brikを壁に埋め込んで施工した事例。
Brikを壁の上に施工した事例。
―課題がはっきりしていたから、目標も明確だったんですね。ちなみにこの製品はどのような方をターゲットにしていますか?
〈内藤〉おそらくほとんどの人が、好きなインターホンやポスト、表札を付けたら満足すると思います。だから、それが「バラバラしてるな…」と感じる人ってかなり少ないと思うんですよ。
そもそも「バラバラしていてうるさく感じる」というのは、その空間を引きで見る設計士さんが多いと思うんですね。なので、ターゲットはデザイン感度が高い設計士さんにしています。
ただ、将来的にはバラバラしている玄関前に違和感を持つ人が増えて、施主さんも自然と選ぶようになるのではないかと思っていますし、そうなると日本の家の玄関前が一段階美しくなると考えています。
まずはイノベーターに気付いて頂き、その後にアーリーアダプター、マジョリティに広まっていくことを想定した商品ですね。Brikを発売することは、玄関前のバラバラ感をなくし、統一感をつくっていくための啓蒙活動でもあります。

段階的に開くドアでシンプルなポストを実現。
―完成した製品はとてもシンプルですが、どのようにしてデザインや仕様を決めていったのか、詳しく教えて頂けますか?
〈内藤〉ポスト・インターホン・表札がどこに付くかというと、玄関前の壁、外構の塀、機能門柱のいずれかなんですね。そこで、Brikがその全てのシチュエーションで成立するようにしたいと思いました。
まずポストの開き方の検討ですが、壁に埋め込んだ時には右や左に開く仕組みだと壁にぶつかってしまって良くないなと思いました。一方、上に開く仕組みだと、さっきの例のように上に隙間を開ける必要が出てきます。
前から上に開く構造だったらOKなんですけど、扉を上に開けると、中に入っているものがバタバタ落ちてきそうな不安があります。
それで、「前入れ前出しの下ヒンジ」という開け方にして条件をクリアすることにしました。


それから、この商品を広めるには、コストが上がり過ぎないことも重要なので、ポストとインターホンパネルをセパレートして、それぞれ単体でも売れるようにしました。
ちなみに物を入れるポストは低い位置にあった方が良く、インターホンは顔を映すためにある程度高さがあった方が合理的。それで、インターホンパネルを上に、ポストを下に配置するようにしています。

ただ、ポストとインターホンパネルを一体にした場合、人によってはインターホンの位置が低いと感じることもありますので、そういう人のために、カタログにはインターホンパネルを少しポストから離して高めに設置する場合のおすすめの間隔を載せています。

離して設置した場合も、ポストとインターホンパネルの奥行がそろっているので、規格がそろっていない製品をバラバラに購入して配置するよりもきれいに見えることが分かります。

ポストは投函物の大きさを考慮する必要があるので、インターホンパネルよりも分厚くなるんですが、Brikはポストの寸法に合わせてインターホンパネルの幅・奥行にして統一感を持たせています。
– 前編はここまでです。次回の中編では、ポストとインターホンパネルのデザインについてご紹介します。
中編はこちらから→
〈関連ページ〉
内藤正宏 一級建築士
ないとうまさひろ・1989年生まれ。山梨県甲府市の材木屋に生まれる。2014年 芝浦工業大学大学院理工学研究科建設工学専攻卒。同年 大手住宅系組織設計事務所勤務、2019年 森田アルミ工業株式会社勤務を経て、2021年株式会社レクトを設立。
