暮らしの中の建築パーツ「白とグレージュを基調とした穏やかな住まい」(後編)
『暮らしの中の建築パーツ』第3回目、新潟市江南区に暮らすOさん夫婦のお住まい。後編では床見切りや巾木(幅木)、窓台などを見ていきます。
美しさ・機能・施工性・コストバランスに優れた床見切り& 巾木
中編までは壁や床などの比較的目立つ部分を見てきましたが、後編ではより細かい部分に注目してみましょう。まずは、床材の種類が切り替わる場所に付けられる床見切りです。よく見ると床材と床材の取り合いの部分に金属の細い線が見えます。

〈松尾さん〉 床見切りは特にお客さんから希望がない場合は、なるべく目立たずすっきりしているアルミのフラットバーを使うことが多いですね。厚さ12mmのフローリングの場合は見付けが3mmのフラットバーを使用しています。以前はステンレス素材のものを使ったこともありますが、「アルミの方が横からビスが打ちやすく、しっかり固定できる」という大工さんの声を受けて今はアルミを使っています。
巾木はライン幅木(LIXIL)ですね。

昔はこのようなシンプルな既製品の巾木がなかったので、無垢の木を加工して現場で白塗装をしてつくっていました。そうすると現場塗りになるので、多少のムラが出るんですね。それはそれで手作り感があって好きだったんですけど、そもそも製材所の方が小さい巾木をつくるのに苦労をされていました。
ですから、見付け4mm×高さ30mmのライン巾木が発売された時はすごくいい巾木が出たなあ!と思いましたね。造作するよりもコストを抑えられますし、木質でできていて大工さんが現場でカットしやすいのも特長です。
見付け10mmの窓台ですっきりと
床見切り、巾木を見てきましたので、次に窓台を見てみましょう。こちらも薄くすっきりとしており、存在感が抑えられています。

〈松尾さん〉 窓台は主にスマート10(LIXIL)を使っています。窓台は20mmくらいの見付けのものが多いですけど、この窓台は見付けが10mmしかないので薄い線だけに見えます。ちなみに、見える部分は10mmですが、奥の下地の部分は20mmなので強度の心配はありません。
階段の手すりになる笠木の部分や玄関の上がり框などを、同じ考え方で造作をすることがありますが、造作をしても既製品を使っても仕上がりが変わらない場合は既製品を使うようにしています。
〈ご主人〉 床見切りや巾木、窓台などは野暮ったいのは嫌だなと思っていましたが、松尾さんがそのあたりをすべて考えて建材を選ばれているので、特に私たちから何かを要望することはありませんでしたね。それぞれのパーツが小さく細く目立たずいいなと思っています。

物干しハンガーや懸垂バーもシンプルさを重視
次に2階に上がってみました。2階ホールは物干しスペースとして使われており、天井にはランドリーハンガー(カワジュン)とsimple laundry bar SEN(森田アルミ工業)が吊り下げられています。

〈ご主人〉 ランドリーハンガーはいくつか候補を挙げた中で最もデザイン性がいいものを選びました。何も干してなくてもインテリアの一つとして素敵なのがいいなと思っています。
〈奥様〉 物干し竿は端に色が付いたパーツがあるものが多いですが、そうではなく、なるべくシンプルなものがないかと調べていく中でsenに辿り着きました。senは白と黒の2色がありましたが、洗濯物を干す空間は白がいいなと思い白を選びました。

〈ご主人〉 それから、2階の廊下にはぶら下がるためのバーを天井に取り付けて頂きました。ぶら下がったり、ストレッチをしたり、懸垂をしたりできるバーを付けたいと松尾さんに相談してご提案を頂いたものです。朝起きてすぐにここにぶら下がると背筋が伸びてすごく気持ちいいですよ。気持ちが上がった時は懸垂もします。

〈松尾さん〉 このようなパーツはオーダーでつくることもできますが、そうすると既製品の3倍くらいの価格になってしまうんです。デザイン的にストレスのないシンプルなもので、色のバリエーションもあるロフトはしごLL-SUPER(中島鉄工建設)をご提案して選んで頂きました。力がかかるパーツなので、梁に直接固定をしています。

空間×パーツの調和で生まれる心地よさ
Oさん夫婦が理想とする空間を目指して選んだ建築パーツと、松尾さんが建築のプロの視点で提案する建築パーツ。それらが融合したO邸はあらゆる調和が取れているのが特徴です。設計をした松尾さんに、設計や建築パーツ選びで大事にしていることを聞いてみました。
〈松尾さん〉 設計をする上では、まずはお客さんがどんな建物や空間が好きか、そのイメージをつかむことが大切だと思っています。その上で、空間と使っているパーツが調和することを大事にしていますね。空間全体を見た時に「なんでここだけこうなったんだろう?」と感じないパーツ選びを心掛けています。ただ、ちょっと変わった要素が逆にいいアクセントになる場合もあり、判断が難しいところですが(笑)。
パーツを選ぶ流れとしては、空間から決めることもありますし、お客さんから使いたいパーツを教えて頂いてから、アドバイスをしながら決めていくこともあります。あとは機能面と耐久面は注意しています。あまりデザインが複雑なものだと壊れやすいんじゃないかな?と心配になることもありますので。

最後に松尾さんとOさん夫婦に、自分自身にとってのノイズレスな空間とはどういうものかを教えて頂きました。
〈ご主人〉 「平穏だと思える瞬間」や「居心地のいい状態」が私にとってノイズレスであり、そうなれる空間がノイズレスな空間ですね。
〈奥様〉 私も同じように思っています。リラックスできる場所であり、帰ってきたくなる場所であり、穏やかに暮らせる場所。そんなイメージですね。

〈松尾さん〉 私はストレスを感じない空間でしょうかね。それは見た目もそうなんですけど、使い勝手もとても大事だと思っています。生活を始めてから「これすごく使いにくいな…」と感じてほしくないですし、「ここをもうちょっとこうすれば良かった…」という後悔もなるべくないようにしたい。そういう家をつくっていきたいと思っています。
25年以上に渡る住宅設計の経験から、バランスのいい家づくりを大事にする松尾さんと、穏やかでリラックスできる住まいを目指したOさん夫婦。価値観を共有しながら吟味した建築パーツについて、詳しく解説して頂きました。
『暮らしの中の建築パーツ』では、今後もオーナー宅を訪ね、建築パーツ選びの背景や思いを掘り下げていきたいと思います。次回もお楽しみに…!
【この記事で紹介した建築パーツ】
ガルバリウム鋼板 極み-MAX® K005(JFE鋼板株式会社)
ウィルウォールT&Gパネル(チャネルオリジナル株式会社)
エコ・ウッド・トリートメント(ブライトン株式会社)
ジエスタ2 M17型 K2仕様(株式会社LIXIL)
vik(森田アルミ工業株式会社)
ポリエステル化粧合板 LP-682(アイカ工業株式会社)
kacu(森田アルミ工業株式会社)
ビニルクロス XB-152(リリカラ株式会社)
ビニルクロス SP2836(サンゲツ)
ラスティックフェイス(株式会社ノダ)
メラミン化粧板 LJ-10186(アイカ工業株式会社)
オルロノフ(株式会社サンワカンパニー)
クッションフロア E2146(シンコール株式会社)
Wall Hook(MOEBE)
アルミ製フラットバー
ライン幅木(株式会社LIXIL)
スマート10(株式会社LIXIL)
ランドリーハンガー(カワジュン)
simple laundry bar SEN(森田アルミ工業株式会社)
ロフトはしごLL-SUPER(中島鉄工建設)
【DATA】
O邸
新潟市江南区
延床面積 106.54㎡(32.16坪)
構造 木造軸組工法
竣工年月 2022年3月
設計・施工 株式会社Craft
株式会社Craft
https://www.craft-niigata.com/
