【暮らしの中の建築パーツ】ディテールと素材美にこだわった23坪の家(中編)

『暮らしの中の建築パーツ』第2回目、新潟市西蒲区に暮らすKさん夫婦のお住まい。中編ではリビングに使われている内装仕上げ材を見ていきます。

 

土に還る自然素材の面材

こちらの写真は、玄関からリビングを見たところです。

非常にシンプルにまとめられた空間で、床・壁・天井それぞれの素材感が際立っています。

その中のグレーの壁に注目してみましょう。ざらりとしたマットな質感の壁は『モイスNT』(アイカ工業株式会社)という、けい酸カルシウム板をベースに天然鉱物のバーミキュライト、珪藻土などが配合された素材です。

〈佐藤さん〉 モイスNTは弊社が標準仕様にしている仕上げ材で、ビニルクロスでは出せない天然素材ならではの風合いがあります。将来廃棄をする時には土に還せますし、肥料認定を取っていて土壌改良に使うこともできます。なるべく後々に宿題を残さない建材を選びたいという思いから、弊社ではモイスNTを標準仕様にしているんです。

ただ、下地に使う石膏ボードとは異なり、このモイスNT自体が仕上げ材になることから、きれいに張る高い技術も求められるのだそう。

 

〈佐藤さん〉 モイスNTの幅が91cm。建物も同じ91cmグリッドでつくってそこに張っていきますので、建物の精度も求められます。さらに、なるべく空間に雑味を出さないようにしたいので建具にもモイスNTを使用しています。

それから、弊社では家の中の温度を均一にするために『建具はあけている状態がデフォルト』という考えを持っていますが、モイスNTであれば枠を排除できるので、建具開放時にすっきりとした空間をつくることができます。

トイレの建具を開けた状態(左)と閉じた状態(右)

〈ご主人〉 表面のざらっとした感じも気に入っていますし、堅いモイスという素材を使った巾木のないデザインも好きです。そこは、サトウ工務店さんの施工事例写真を見て一番ときめいた部分でもあります。あと、モイスの角の部分がすべて面取りされて、きれいに突き付けられているのもいいですね。

 

 

無垢フローリングは、なるべく近場で採れるものを

シンプルなモイスNTの壁と調和する床材は、長野県で生産されている『あづみの松』(プレイリーホームズ株式会社)。おとなしすぎず、かといって存在感が強過ぎない、檜と杉の中間くらいの木目が特徴です。

〈佐藤さん〉 床材はなるべく無垢材を使いたくて、その中でもできれば県産材を使いたいと思っています。それが難しい場合は近県材を、もしくは国産材を…というふうに、なるべく近くで採れる材料を優先的に使おうと考えています。

新潟県産だと杉のフローリングがありますが、けっこう個性が強い。なるべくニュートラルな内装にしたくて、隣県長野のあづみの松を選びました。

あづみの松の特徴は節がほとんどないことです。それから、弊社では建材に化粧をせずに使うことが多く、このあづみの松も無塗装で使用しています。針葉樹は油分があり、使っているうちにツヤが出てきますしね。

 

〈ご主人〉 歩いていて気持ちいいですし、冬にひんやりする感じもありません。杉の床の無骨さもいいですが、松のきれいな木目がこの家に合っているなあと思います。

無塗装なので水の染みはいろんなところに付いていますが、意外と気にならないんですよ。無垢材だから、染みや汚れも表情になるのかなと感じています。

 

 

ところどころに節や干割れが見られるブナ合板の天井

次に天井を見てみましょう。玄関からLDKにかけて広がる大きな勾配天井には、『UCブナ合板』(株式会社UC Factory)が使われています。

〈佐藤さん〉 平らな天井の場合は91cmグリッドで目地をそろえられるモイスNTを使いますが、勾配天井では少し長さが伸び、目地がずれてしまうんです。それで、勾配天井ではモイスNT以外の素材で、フローリングと同じようになるべく近場で採れる材料を選定するようにしています。

以前はシナ合板を使っていましたが、今は表面に新潟県産ブナを使ったブナ合板を使っています。シナと比べると節や干割れがあるんですけど、それも無垢らしさがあっていいなと思っていて。

あと、お施主さんからお預かりしたお金はなるべく地元に還元したい。県産の素材を選ぶのにはそういう理由もあります。

〈ご主人〉 天井は床のように直接触れたりするものではないですが、ブナの質感は好きですね。室内に見える木の割合を木視率(もくしりつ)といい、それが30~40%程度だとリラックス効果が高まるそうですが、天井と床に木が使われたこのリビングは、ちょうど30~40%。実際に心地いいなと感じます。

 

 

狂いが生じやすいブナカウンターは適切な施工法で

「なるべく近場で採れるものを」という考え方で選定している内装仕上げ材。造作家具に使う木材も同様の考え方で選んでいるそうです。

〈佐藤さん〉 うちでは『スノービーチ』と呼ばれる新潟県産ブナの板材を仕入れていて、それを自社ではいで継ぎ足してカウンター材に使っています。

ただ、水をたくさん吸って育つブナは変形がしやすいため、変形を許容できる場所にだけ使うようにしています。下駄箱のカウンター材がブナの幅はぎ材ですが、変形して壁を壊さないように、載せるだけにしているんです。

洗面台も造作で、こちらには変形が少ない新潟県産杉の幅はぎ材を使っています。これは、かつて新潟県村上市にあった山新林業株式会社(※2023年に閉業)が製造していた建材です。

〈ご主人〉 カウンター材も自然素材ならではの経年変化が楽しめますし、洗面台は自然塗料で仕上げられていて水が染み込むこともない。見た目も使い勝手も気に入っています。

 

– 中編はここまでです。次回の後編では、K邸の内部に使っている建築パーツをご紹介します。

 

【この記事で紹介した建築パーツ】

豆砂利洗い出し仕上げのコンクリート土間
魚沼杉板 外壁 ウッドロングエコ(株式会社UC Factory)
魚沼杉 デッキ材 ウッドロングエコ(株式会社UC Factory)
チヨダセラフレキ(チヨダセラ株式会社)
モイスNT(アイカ工業株式会社)
あづみの松152 無地上小 フローリング 無塗装(プレイリーホームズ株式会社)
UCブナ合板(株式会社UC Factory)
ブナ材(新潟県産)幅はぎ加工
杉幅はぎ材

 

【DATA】
K邸
新潟市西蒲区
延床面積 75.63㎡(22.83坪)
構造 木造軸組工法(大型パネル工法)
竣工年月 2023年10月
設計・施工 株式会社サトウ工務店

株式会社サトウ工務店
https://www.sato-home.co.jp/