【暮らしの中の建築パーツ】ディテールと素材美にこだわった23坪の家(後編)
『暮らしの中の建築パーツ』第2回目、新潟市西蒲区に暮らすKさん夫婦のお住まい。後編では内部に使っている建築パーツを見ていきます。
安全性とデザインの両方が考えられた滑り止め
玄関のそばにある階段に着目してみましょう。
蹴込み板までモイスNTで統一された空間に、杉の幅はぎ材の踏板を組み合わせたシンプルな階段。よく見ると踏板には細長いパーツが付いています。
〈佐藤さん〉 弊社では株式会社HAPROTが定めている『安全持続性能®』を家づくりの指針に取り入れています。特に階段は、転倒したときに大けがにつながってしまう場所ですので、それを防止するための滑り止めが非常に重要です。
一般的には木の踏板にスリットを入れるケースが多いですが、それでは実際滑るんですよね。ゴム質など滑らない材質のものを入れるというのが、『安全持続性能®』の基準で決められています。
ただ、なかなかシンプルなデザインの滑り止めが見つからず、ゴムだけ買って自分たちでつくろうと考えていたんですよ。そう思っていた時に見つけたのがこの『Previo M』(株式会社アシスト)でした。埋め込み式でひと手間かかりますが、目立たずにシンプルに仕上げることができます。
〈ご主人〉 はだしで歩く分には大丈夫ですが、靴下をはいて上り下りすると踏板はやはり滑るんですよね。この滑り止めのおかげで、靴下でもしっかり止まりヒヤッとすることがありません。細長いパーツは杉の直線の木目にも合っています。
シンプルな造作キッチンは天板の厚さにもこだわりあり
シンプルでノイズの少ない空間を実現するために、滑り止めのような小さなパーツ選びも慎重になされているK邸。次はモイスNTが使われた造作キッチンを見てみましょう。
奥の壁側にコンロ、手前のアイランド部分にシンクがあるセパレートキッチンが空間にすっきりと溶け込んでいます。
〈佐藤さん〉 近年、家のサイズは小さくなりつつありますが、キッチンの大きさは変わりません。システムキッチンが悪いわけではないないんですが、この空間に外から来たキッチンが入ると、全体の雰囲気がキッチンに引っ張られてしまいます。
そうではなく、もっと自然にしたいなあと思い、壁と同じモイスNTを使った造作にしています。天板は新潟県上越市のシゲル工業のステンレス天板を使っていて、厚さを最小限の10mmにするオーダーをしてつくって頂いたものです。
〈ご主人〉 佐藤さんがおっしゃったように、LDKにこれだけ一体感を持たせられるのは造作キッチンならではだと思います。
それから、シンク下をゴミ箱置き場にしていますが、消臭効果があるモイスが張ってあり、においが気にならないのがいいですね。水栓はデザインと機能がいいなと思いデルタ社製のものを選びました。
サッシは黒ですっきりと。窓が目立たない納め方の工夫も
ところでK邸は断熱性能にも非常にこだわっており、UA値0.19という高い性能値を誇ります。屋根・壁・基礎の断熱を徹底しているのはもちろん、窓はすべてトリプルガラス入りの樹脂窓『トリプルシャノンIIx』(株式会社エクセルシャノン)を採用。高断熱と開放感の両方が非常に高いレベルで実現されています。
〈佐藤さん〉 窓は断熱性能を第一に考えており、気密にもこだわりたいので、引き違いではなく、気密性のいいドア式を採用しています。サッシの色は内外共に黒です。
『黒は強いんじゃないか?』と言われることもありますが、膨張色の白と比べても存在感が抑えられ、背景になってくれると考えています。ちなみにリビングのFIX窓は極力サッシが目立たなくなるように、サッシを通常よりも外側に出し、柱の中央に寄せています。
〈ご主人〉 同じような幅の開口部では、引き違い窓が使われるケースの方が多いと思いますが、開口部が2等分される引き違いよりも、このようにFIXとドアを組み合わせる方が窓が大きく見えて好きです。あと、FIX窓は枠が細くてきれいですし、寝室のFIX窓に至っては、枠がほとんど見えないように納められています。
照明は照らす役割を重視し、脇役としてとらえる
建築パーツの話は尽きることがありませんが、最後に照明を見ていきましょう。
〈佐藤さん〉 照明の目的は“照らすこと”と考え、いかに照明器具自体を主張しないようにするか?ということに気を付けています。勾配天井は斜めになるのでペンダントにして、壁のブラケットはソケットだけのシンプルなものに。それから、平らで低い天井はダウンライトですね。ルールをあらかじめ決めておき、それに合わせて照明を配しています。
ちなみにペンダントライトの根元の部分に注目すると、そこには引っ掛けシーリングの出っ張りも、それを隠すお椀状のカバーもありません。ここで使われているのは『muni Flat mount』(株式会社ビートソニック)という、文字通りフラットなカバーでさりげない仕上がりになっています。
ちなみに佐藤さん、今でこそこの『muni Flat mount』を使用していますが、以前は自分たちでこのようなカバーを作っていたのだとか。
〈ご主人〉 照明って普通は施主が選びたくなるところだと思うんですが、僕らは全然考えてなかったです(笑)。デザイナーズの照明を使っているわけではないので、そういうものと比べると価格はかなり抑えられていますし、一つ一つの照明が目立たずにいい空間ができ上がったと思います。
完璧とは、これ以上削るものがない状態
実に細部までこだわりが詰め込まれたK邸。設計をした佐藤さんに、建築パーツ選びで大事にしていることを聞いてみました。
〈佐藤さん〉 パーツ一つ一つが主役ではないという考え方がベースにあり、その家に本当に必要で、機能を発揮してくれて、邪魔にならないものを選んでいます。既製品でいいものがあればそれを使いますし、もし見つからなければつくってしまう。そもそも必要がなければ、そのパーツ自体をなくしてしまう。そういう考え方で建築パーツをとらえています。
最後に佐藤さんとKさん夫婦に、自分自身にとってのノイズレスな空間とはどういうものかを教えて頂きました。
〈佐藤さん〉 先ほどの話と重複しますが、機能的には必要だけど意匠的には目立たない方がいいものがたくさんあり、それらを削ぎ落していった空間がノイズレスな空間だと思っています。ただ、僕らはそれをどのようにしてつくっているのかをお客さんに一つ一つ説明することはありません。『理由は分からないけど、シャープな建物だね。すっきりとした空間だね』と感じてもらうことをゴールにしているからです。
〈ご主人〉 僕は5年くらい前からあらゆることでミニマルを意識するようになりました。服や車は装飾がないものを選んでいますし、仕事で資料を作る時もなるべく飾り気をなくしたり、言い回しを工夫して文字数を減らしたりしています。僕はサン・テグジュペリの『完璧とは、これ以上削るものがない状態』という言葉を大事にしていて、それこそが僕の中でのノイズレスであり、そういう空間がノイズレスな空間だと感じます。
〈奥様〉 私は元々持ち物が多い暮らし方をしていたので、あまりノイズがない空間というのがよく分かっていなかったですが、佐藤さんや大工さんが思いを込めてつくってくださったこの家を美しいなあと感じながら暮らしています。なので、ノイズレスな空間=美しい空間なのかなと思っていますし、この美しい空間をこれからも保っていきたいですね!
ノイズのない空間を追求するサトウ工務店・佐藤高志さんと、ミニマリストを自認するご主人。そして、その空間の魅力に気づき新しい暮らしを楽しんでいる奥様。それぞれの視点で建築パーツや、完成した空間について存分に語って頂きました。
『暮らしの中の建築パーツ』では、今後もオーナー宅を訪ね、建築パーツ選びの背景や思いを掘り下げていきたいと思います。次回もお楽しみに…!
【この記事で紹介した建築パーツ】
豆砂利洗い出し仕上げのコンクリート土間
魚沼杉板 外壁 ウッドロングエコ(株式会社UC Factory)
魚沼杉 デッキ材 ウッドロングエコ(株式会社UC Factory)
チヨダセラフレキ(チヨダセラ株式会社)
モイスNT(アイカ工業株式会社)
あづみの松152 無地上小 フローリング 無塗装(プレイリーホームズ株式会社)
UCブナ合板(株式会社UC Factory)
ブナ材(新潟県産)幅はぎ加工
杉幅はぎ材
Previo M(株式会社アシスト)
ステンレス天板(株式会社シゲル工業)
トリプルシャノンIIx(株式会社エクセルシャノン)
muni Flat mount(株式会社ビートソニック)
モーガルソケット ブラック(MARUMITSU)
E26 直付ソケット 黒(有限会社ミツバ電陶製作所)
スポットライト【OS256 050LR】(オーデリック株式会社)
【DATA】
K邸
新潟市西蒲区
延床面積 75.63㎡(22.83坪)
構造 木造軸組工法(大型パネル工法)
竣工年月 2023年10月
設計・施工 株式会社サトウ工務店
株式会社サトウ工務店
https://www.sato-home.co.jp/