【暮らしの中の建築パーツ】ディテールと素材美にこだわった23坪の家(前編)
『暮らしの中の建築パーツ』では、新築やリノベーションをしたご家族の家を訪ね、それぞれの建築パーツを選んだ理由や感想をご紹介します。
第2回目は新潟県三条市の工務店、株式会社サトウ工務店が設計施工を行った、新潟市西蒲区に立つKさん夫婦の住まいです。
サトウ工務店の代表・佐藤高志さんは、『デザイナーズ工務店の木造住宅納まり図鑑』(2019年発刊、エクスナレッジ)という著書も持ち、住宅における美しいディテールを追求してきた設計の実務者です。
一体どのような建築パーツ選びがなされているのか、さっそく見ていきましょう。
土間コンクリートは、風景になじむ豆砂利洗い出し仕上げ
「建築や住宅は好きだけど、家を所有することへの興味はなかった」というご主人ですが、新潟市西蒲区に新しいコンセプトの分譲地ができることを知り、心機一転、新築を考え始めたといいます。
「新しくできたこの分譲地では杉板の外壁が推奨されています。その根底にある、街並みに統一感をつくり出そうというコンセプトに共感しました。家づくりをサトウ工務店さんに依頼したのは、佐藤さんが手掛ける洗練されたデザインの住宅に惹かれたからです」(ご主人)。
2023年の秋に完成したK邸は、敷地面積60坪の角地に立つ延床面積23坪の家。
こちらが東側の外観です。
まず駐車スペースを見てみると、一般的なコンクリートではなく、豆砂利洗い出し仕上げになっています。
〈佐藤さん〉 この街のガイドラインでは、外壁に杉板を使うことを推奨していますので、その風景になじむように、砂利を入れてコンクリートを洗い出す仕上げにしました。自然な表情が現れますし、敷地内の砂利を敷いている部分ともなじみます。
株式会社サトウ工務店 代表 佐藤高志さん。1968年新潟県三条市生まれ。家業である工務店に入社し、設計から現場監理までを一貫して担当。2010年同社代表に。ウッドステーション株式会社が生産・供給を行う大型パネルのユーザー会「みんなの会」会長。新潟建築コミュニティ「住学(すがく)」発起人。耐震等級3、断熱等級7、大型パネルを標準とし、住まいの高性能化、高品質化、生産性向上に取り組む。他工務店、設計事務所への構造計算、技術サポートなどBtoB事業も行っている。
Kさんご夫婦
新潟県産の杉板は、地産地消の外壁材
建物の外壁は縦張りの杉板で、継ぎ目を隠す押し縁付き。シャープなフォルムの外観に、意外にも伝統的な自然素材が似合っています。
〈佐藤さん〉 先行してこの分譲地に立っている建物が魚沼杉のウッドロングエコ仕上げということで、同じ仕様にしています。杉材は数十年後も採れる持続可能な素材ですから、20年後30年後に傷んだ箇所を部分的に交換できます。単純に釘で打っているだけなので持続可能な工法とも言えますね。
〈ご主人〉 自分の中でも外壁は杉板一択でした。劣化していくというより、経年変化して違う姿になっていくのを楽しめるのがいいなと思っていて。その辺を車で走っていると、杉板を張った古い家が多く見られます。何十年も張り替えずに使えることが証明されていて、コスト的な面でも魅力を感じます。
〈奥様〉 私は性能のこととかはよく分からないですが、朝仕事に行くときに家を振り返るとかっこいいなあと思いますし、夜の雰囲気も美しいな…と感じていて。そういう外観の家に住めることに満足しています。
デッキの腐朽を防ぐために、ビスの打ち方にひと工夫
次に建物にぐっと近づいてみました。メインの開口部の前は、濡れ縁のようなウッドデッキ。さらにその先にもウッドデッキが続いています。
“野遊び”をテーマにしているこの分譲地。義務ではありませんが、ウッドデッキを設け、自然と親しめる形の家が推奨されています。
〈佐藤さん〉 外壁と同じようにデッキにも魚沼杉を使用しています。杉なので耐久性はハードウッドと比べて劣りますが、この街の中心の広場のデッキに魚沼杉が使われていたので、それに合わせることにしました。
ちなみに木が腐りやすいところというのは、水が溜まって乾きにくい場所なんですよ。そこから腐朽菌が繁殖するからです。ウッドデッキの場合はビス穴が弱点になるので、脳天から打たず、専用の治具を使って脇のところから細いビスを打っています。
〈ご主人〉 上にビス穴がないので、脳天打ちのデッキよりもきれいに見えますよね。ウッドデッキを支える脚の部分が細い金属でできていて、庭から家を見た時に木の板が浮いているように見えますし、それが建物とマッチしているなあと思います。
甥っ子姪っ子がうちに遊びに来ると、よくこのデッキを楽しそうに走り回っています。それから、洗った座布団などを干すのにも重宝しています。
段差ゼロの玄関には、セメント由来のフレキシブルボードを活用
次に玄関ドアを開けて内部へと入ってみました。こちらが玄関です。
靴をさっと脱いでさっと入れるコンパクトな玄関ですが、なんと床との段差がありません。土間に使われている素材は、フレキシブルボードと呼ばれるセメントに補強繊維を混ぜて作られた不燃ボードで、緩やかな傾斜をつけながらドア側から床側へとシームレスにつながっています。
〈佐藤さん〉 弊社は住宅の安全性にも力を入れていて、そのために上がり框を極力ゼロに近づけたいと思っていました。それで、玄関土間に床下空間をつくり、土間をフロアレベルまで上げています。
以前は土間部分をウッドデッキにしていたのですが、より玄関らしい表情にしたくて今回フレキシブルボードを採用しました。実は当初は6cmの段差を付ける予定でしたが、途中で段差をゼロにしたくなって、このように傾斜を付けた仕上げにしました。
今回もそうですが、ダメだと言われたら直すことを前提に、弊社では勝手に新しいことをやってしまうケースがあります(笑)。
〈ご主人〉 普通のコンクリート土間の玄関と違い、冷たくないのがいいですね。それから、フレキシブルボードとフローリングの間に見切りがなく、きれいにつながっているのも好きです。
〈奥様〉 段差がないのでお掃除ロボットがそのまま玄関まで掃除してくれるのも便利ですね(笑)。
– 前編はここまでです。次回の中編では、K邸の内装仕上げ材をご紹介します。
【この記事で紹介した建築パーツ】
豆砂利洗い出し仕上げのコンクリート土間
魚沼杉の外壁 ウッドロングエコ(株式会社UC Factory)
魚沼杉 デッキ材 ウッドロングエコ(株式会社UC Factory)
フレキシブルボード チヨダセラフレキ(チヨダセラ株式会社)
【DATA】
K邸
新潟市西蒲区
延床面積 75.63㎡(22.83坪)
構造 木造軸組工法(大型パネル工法)
竣工年月 2023年10月
設計・施工 株式会社サトウ工務店
株式会社サトウ工務店
https://www.sato-home.co.jp/