性能を高めながら、存在感を消していく。ミニマルさを追求した水切り&換気材(後編)
城東テクノ株式会社の西岡さんと吉冨さんへのインタビュー。後編では「鋼板製 軒天換気材(軒ゼロタイプ 破風レス対応)」「WM垂れ壁用スリムオーバーハング」の開発秘話について伺います。
止水材にこだわった、軒ゼロ住宅用のシンプルな軒天換気材。
──「鋼板製 軒天換気材(軒ゼロタイプ 破風レス対応)」。この製品を開発することになった経緯を教えて頂けますか?
〈商品企画チーム・西岡さん〉軒がない「軒ゼロ」の住宅が流行っている中で、破風(はふ)をなくす動きが加速し始めていたことが開発の背景です。先ほどお話した水切りと同様に、換気材をなるべく目立たなくしたい住宅会社さんは、現場対応や性能確保に苦労をされていました。また、「他社製品で軒ゼロ用の専用部材ではない換気材を使ったところ、雨漏りが発生してしまった」という声も聞いていましたので、軒ゼロの建物にふさわしいシンプルなデザインで、高い防水性能を備えた専用の換気材を開発することにしました。
「通気部材」と呼ばれるもののひとつが「軒天換気材」です。軒天換気材とは、屋根の端部、外壁との交点に取り付けられる、小屋裏や壁の内側に空気を通すための部材です。小屋裏は家の中で最も太陽に近いところであり、さらに、温かい空気は上昇して小屋裏に集まっていくため、特に空気の入れ替えが必要な場所になります。
──開発でこだわったことはどんなことでしょうか?
〈西岡さん〉通気穴から水が入らないのはもちろんのこと、換気材と他の部材の取り合いのところから水が入らないようにこだわっています。特に換気材と野地板の間は漏水が起こりやすい場所なのですが、そこにスポンジのようなEPDM止水材を圧着させる仕様にしました。現場で施工者さんが確実に圧着できるように、部材には「ウエニオシツケテトメル」という刻印も入れています。
あと、通気穴を奥まった位置に設け、下から見上げた時に細いスリットだけが見えるようにしているのもこだわったところです。
〈開発部・吉冨さん〉通気穴が貫通穴ではなくブリッジ状の穴になっていて、外から入った風が横方向に流れていく形にしているのも防水上の工夫です。そして、通気穴の先をS字の形状にすることで水が外壁の内側に入り込まないようにしています。高い位置に付く軒天換気材は強風を受けやすいため、性能試験では水切りの試験よりも強い風を当て、より厳しい条件で防水性能を確認しています。
──お客様からはどんなフィードバックがありましたか?
〈西岡さん〉「WM防鼠付シャープ水切り」と比べると見付けがある製品ではありますが、「破風をなくしてシンプルにしながらも、しっかりと防水性能を担保したい」と考える住宅会社さんから高い評価を頂いています。一方、よりシンプルなデザインを追求する住宅会社さんからは、「もっと細くしてほしい」という要望もあり、意見が分かれるところですね。
あとは、防火対応を求められており、今は防火対応品の開発を進めています。今後はさまざまな厚みの外装材、屋根勾配に対応できるラインナップを増やしていく予定です。
通気穴が目立たずスリットだけが見えるオーバーハング換気材。
──では最後に「WM垂れ壁用スリムオーバーハング」について、こちらも開発の経緯から教えてください。
〈西岡さん〉オーバーハング材は壁内へ空気を通し、同時に雨仕舞をするための部材です。建物の正面から見える見付け幅が25mmくらいというのが一般的ですが、意匠を重視する住宅会社さんから「正面から板金見付けをなくし、外壁材を垂らす納まりに対応できる製品が欲しい」という声がありました。
〈 図は一般的な垂れ壁用オーバーハング換気材の例〉オーバーハングとは英語で「突き出している」「張り出している」という意味があり、住宅では建物の上階が下階よりもせり出して設計のことを指します。オーバーハング箇所は、庇(ひさし)や屋根として機能しますがオーバーハング換気材はその最も外側の角に取り付けられる通気部材です。
元々垂れ壁用のオーバーハング材は当社でも扱っていたのですが、それは見付け幅38mmで、通気穴も目立つ製品。施工時には追加の防水処理も必要でした。
もっとデザインをすっきりさせ、防水性能もしっかり確保したい。そんな意図で「WM垂れ壁用スリムオーバーハング」の企画を始めました。
──開発でこだわったのはどんなことでしょうか?
〈吉冨さん〉西岡さんからこの企画を聞いた時に他社製品の事例も見せてもらったのですが、それは少し通気穴が見えていたのです。それを見て、穴がほとんど見えないことが訴求ポイントになると考えました。
作図した形状案は10~20種類。さらにそれらを見直して少しずつブラッシュアップしていたので、図面上には非常にたくさんの形状案が描かれました。そこから良さそうなものを絞り込んで試作に進みました。
通気穴は下向きではなく横向きに設け、下から見上げた時にほぼスリットしか見えないようにしています。スリットの幅は空気の流れと意匠性を考えて7mmにしました。
また、設置場所が外壁の裏手になるため、基本的に雨水が入り込むことはないですが、万が一壁体内の水が入った時に問題にならないように水抜き穴も設けています。
──お客様の反応はどうでしたか?
〈西岡さん〉2020年9月に発売した商品ですが、すぐに売れ出すということはなく、じわじわと広がっていった感じです。「WM防鼠付シャープ水切り」の発売後は、セットで採用されることが増えてきましたね。
GAISO WELL MACHシリーズの認知が広がってきているのを感じています。
工夫して企画開発したものを世に送り出せるよろこび。
──画期的な3つの外装部材について詳しい解説をありがとうございました。新しい建材を開発して世に送り出すことの面白さややりがいとは、どんなものなのでしょうか?
〈西岡さん〉住宅会社さんやお施主さんが困っていることにしっかりと対応をして製品をブラッシュアップしていくことにやりがいを感じています。外装部材の開発で大事なのは、やはり雨漏りしないこと。住宅会社さんとお施主さんの信頼関係を守るとても重要なパーツに携われていることも魅力です。また、住宅会社さんから聞く話は製品開発に必要不可欠で、本当は話したくない事故事例のお話を伺うこともあります。そのご恩をいい製品をつくることでお返していきたいですね。
〈吉冨さん〉自分が考えたものが世の中に出ていくことがやりがいになっています。工夫して練り上げたものが会社として出せる。その環境にいられることを、とても恵まれていると感じています。完成したものに対してさまざまな評価を頂けるのもうれしいですね。
商品開発というと、全く新しいものをゼロから生み出すことにやりがいを感じる人もいますが、僕はそれだけでなく、既に発売している製品を改良していくのも好きです。
──ありがとうございます。では最後の質問になります。『Noizless』では「普通の家(しっくりくる家)とは何か」をテーマにしていますが、西岡さんと吉冨さんにとってそれはどんな家でしょうか?
〈西岡さん〉「WM防鼠付シャープ水切り」の開発で、住宅会社さんから「線を消して洗練させていく」美意識を学びました。その積み重ねで、しっくりと居心地のいい空間ができ上がるのかなと思います。
使う部材が汎用品であれニッチなものであれ、いかに洗練させた空間をつくっていくかが設計者の腕の見せどころであり、そういう真剣な方たちに選ばれる製品づくりをしていきたいです。
〈吉冨さん〉住宅は何があればこと足りるのかな?とよく考えたりしますが、自社製品が選ばれているとうれしい気持ちになります。そこに入る製品は違和感なく使えるものであるべきですし、それらが集まることでしっくりくる家ができ上がるのかなと思います。
──前編・中編・後編の3回に渡ってご紹介させて頂いた城東テクノさんへのインタビュー記事は以上となります。
住宅の外装に使われる水切りや換気材は、外壁や玄関ドアのように目立つものではありません。
しっかりと風を通し、雨の侵入を防ぐという、機能が重視される建材です。
城東テクノの商品開発に関わるメンバーのみなさんは、そんな製品群に意匠性をプラスし、機能面を妥協することなく新しい形を模索し続けています。
「ユニークな建材で長持ち住まいをささえます。」というコーポレートスローガンの元、これからどんなデザインの外装部材を世に送り出していくのでしょうか?今後の展開も楽しみになりますね。
→Noizless WM 鋼板製 軒天換気材(軒ゼロタイプ 破風レス対応) 製品ページはこちら
→Noizless WM 垂れ壁用スリムオーバーハング 製品ページはこちら
西岡 京介
城東テクノ株式会社
営業統括部門 マーケティング部
戦略企画課 商品企画チーム 主任
吉冨 賢治
城東テクノ株式会社
営業統括部門 商品開発部
商品開発二課 課長