空間になじむデザインを探求。無駄を排除したアルミ製階段手摺(中編)

森田アルミ工業株式会社の宇野健太郎さんと塩谷柾貴さんへのインタビュー。中編では前編に引き続きAluteの開発秘話について伺います。

 

鉄骨手摺を求めている人に選ばれる製品を目指して。

──造作の鉄骨手摺のように空間に溶け込むことを意識したと話されていましたが、造作品に対してAluteはどのような立ち位置なのでしょうか?

〈宇野〉Aluteを企画していた時に分かったのは、当時から造作の鉄骨手摺の人気が高く、設計段階で検討されるお客様が相当多いということがわかりました。でも、いざ見積もりを見ると金額が高くて実際には採用に至らないことが多い。そんな話も聞いていました。

鉄骨手摺は各現場に合わせてオーダーメードでつくるため、非常に手間とコストが掛かります。それに対して、僕らは規格化したアルミパーツを組み合わせるだけで、さまざまな現場に合った手摺をつくれる。製造プロセスの違いから、造作品と比べて購入しやすい価格で提供できるのが特長です。

階段に備え付けられた造作鉄骨手摺 

ただ1つだけ大事な条件がありました。それは、造作の鉄骨手摺を求めている人に「Aluteでもいい」と思ってもらえることです。

鉄骨手摺に似せることを狙ったのではなく、鉄骨手摺が持つ“無駄なものがついていない感じ”をAluteでどれだけ表現できるかを突き詰めていきました。それができなければそもそも同じ土俵に立てないので、鉄骨製より価格が安くても選ばれることはないでしょう。

それに、鉄骨手摺のようにすっきりした手摺が欲しいと思っている人に向けて、選択肢を増やして上げることが大事だと考えていました。

その後、Aluteが発売すると実際に多くの人に採用頂けるようになり、目指していたことが実現できたと感じています。

Alute 住宅階段への設置事例

 

──合理的なプロセスにより、自ずと鉄骨手摺よりも求めやすい価格で提供できたのですね。積極的にコストを下げる工夫もしていましたか?

〈宇野〉いえ。とにかく安くみたいなことは考えていませんでした。例えば、笠木と支柱をつなぐパーツや壁振れ止めのパーツなどはスチールの削り出しなんですよ。一つ一つのパーツはコストをしっかり掛かけていて、TAS Handrailよりもむしろ高級な仕様となっています。

コストダウンよりも本物に見えることを意識しているのは、ちょっとでも「変だな」と思われたらこの商品が破綻すると思ったからです。 

  

form follows function。形態は機能に従う。

──塩谷さんが開発で苦労したことはどんなことでしたか?

〈塩谷〉Aluteは僕が森田アルミ工業に入社して初めての商品開発でした。3カ月間本社がある大阪に滞在し、初期の設計と強度試験をひたすらやるハードな日々を送っていましたね。吹き抜けだけでなく階段にも対応する手摺でしたので、14段の階段を試験場で組み立て、そこに手摺を取り付けて試験をする工程がありました。それを何度も組み立ててばらしてを繰り返すのがとても大変でした。

手摺にワイヤーを掛け24時間一定の力で引っ張った時に破壊しないことを確認すると同時に、どれくらいたわむかを計測していきます。こういった試験を繰り返して、パーツの寸法を決めていくんです。

例えば床に固定する丸いプレートは、はじめ直径60mmでテストしたら全然持たなくて、最終的に85mmに落ち着きました。プレートの厚みやボルトの直径が1mm違うだけで結果が変わるので、繰り返しの検証が欠かせません。

僕はプロダクトデザイナーとして入社したので、絵を描くのが自分の仕事だと思っていましたが、建材できれいな形を目指す場合、構造もきれいでなければ成り立たないということを実感しました。

form follows function(形態は機能に従う)”という有名な言葉がありますが、まさにその世界です。泥臭い検討や検証をしながらデザインすることの重要性を知りました。

 

──自ら強度試験を行い、その結果をデザインに反映する。機能と意匠を別々ではなく、一体に捉えているんですね。

〈塩谷〉はい。ちなみにAluteの商品写真の撮影やカタログ製作も一貫して僕が担当しました。分業せずに開発担当者が「全部やる」というのが当社のカルチャーかもしれないです(笑)。

〈宇野〉最近は分業することも増えつつありますが、プロダクトデザイナーがエンジニアリングの部分に入っていく姿勢は変わりません。デザイナーが「こういう形にしたい」という理想を持ちながら、自分自身で試験を行い構造と向き合っていく。苦労はありますが、それがシンプルな形を生み出す上で有効なプロセスになっていると思います。

 

──強度試験の他にも苦労話はありますか?

〈塩谷〉この頃はとにかく無我夢中で、全てに苦労していたように思います(笑)。

〈宇野〉私は隣で、塩谷君が課題を一つ一つ解決していくのを見ていました。思いもよらない解決策を提示することもあり、それを見るのがとても面白かった。その一つにコーナーの納め方がありました。

TAS Handrailはコーナー部分の笠木の連結方法が不自然な納まりをしていて、正直あまり評判が良くなかったんですが、Aluteではコーナー部分を溶接で一体にしたパーツをつくり、その連結部分に支柱がくるようにしています。一体感のあるきれいな仕上がりは造作品のようです。

 

市場に受け入れられたAlute。新たな形態に挑戦。

──2020年にAluteを発売して3年が経ちましたが、ユーザーの反応や評価はどうですか?

〈宇野〉順調に採用頂く現場が増えているということで、お客様から一定の評価を頂いていると感じています。Aluteを設計事務所や工務店の方に見せた時に、TAS Handrailの時のような「デザインをもっとこうした方がいいよ」といった指摘がほとんどありませんでした。頑張っていい製品をつくることができて良かったなと思っています。

「丸じゃなくてフラットバーにならないですか?」「もっと細くできないですか?」という要望はありますが、それは素材の限界を超えた話になりますので、いったんアルミでできることはほとんどやれたのかな?と。

そんなAluteをもっと使ってもらいたくて、2021年に新たに壁付けタイプの企画を考え始めました。そして、その開発を再び塩谷君に依頼しました。

 

- 中編はここまでです。次回の後編では、Aluteの新シリーズである壁付けタイプの開発秘話を紹介します。

 

→コラム:空間になじむデザインを探求。無駄を排除したアルミ製階段手摺(後編)はこちら 

→Noizless 室内階段手摺「Alute」製品ページはこちら

 

宇野 健太郎(うの けんたろう)

森田アルミ工業株式会社 研究開発部・営業2部 取締役部長

プロフィール/1981年生まれ。大阪の一風変わった集合住宅『都住創』で幼少期を過ごす。2005年 東北芸術工科大学(山形)現プロダクトデザイン学科卒。同年から都内の建築設計事務所で不動産を経験。2007年 森田アルミ工業株式会社入社。

 

塩谷 柾貴(しおや まさき)

森田アルミ工業株式会社 研究開発部  リーダー

プロフィール/1990年生まれ。2016年 桑沢デザイン研究所デザイン専攻科卒。プロダクトデザイン事務所を経て2017年 森田アルミ工業株式会社入社。