空間になじむデザインを探求。無駄を排除したアルミ製階段手摺(後編)

森田アルミ工業株式会社の宇野健太郎さんと塩谷柾貴さんへのインタビュー。
後編ではAluteの新シリーズである壁付けタイプの開発秘話を伺います。

 

壁から自然と生えているような“手摺の原型”を目指して。

──2020年に発売したAluteは支柱がある自立型。今回壁付け型の開発を始めた理由を教えてください。

〈塩谷〉実は階段手摺において“自立型”はメジャーなものではなく、むしろニッチな商品でした。そもそも階段があるところにはたいてい壁があるので、“壁付け型”の方が市場規模が大きい。

しかし、これまで壁付け型のAluteがなかったため、お客さんは他の部分に自立型のAluteを使っていても、壁の手摺だけは他社製品から選ばざるを得ず、統一感を持たせることができなかったんです。そんな市場の声を受けて壁付け型Aluteの開発に着手することになりました。 

Alute自立型手摺
 

 ──では、開発をする上で重視したことはどんなことでしょうか?

〈塩谷〉誰もが目を閉じて手摺の形を想像した時に、自然と思い浮かぶ“手摺の原型”を目指しました。他社製品を調べていくと、壁に固定するパーツ(ブラケット)が太く大きくて“ゴリッ”と生えているようなものが多く見られました。

しかし、それらはつくりやすさを優先して生まれた形のように見えました。そうではなく、僕たちは子どもが絵に描く手摺のように、壁から自然と“ニョキッ”と生えているような形にしたいと思っていました。

それから、求められる要件に、既存のAluteと同じシリーズであると認識してもらえることがありましたので、丸いパーツだけで構成することにしました。それにより兄弟感を出せると考えたからです。


カバーの存在感をなくすための最適解を探る。

──壁付け型Aluteにも特徴的なギミックはありますか?

〈塩谷〉手摺を壁にビスで固定する場合、その固定箇所を隠すカバーが必要になるのですが、それをどのように納めるのかで頭を悩ませました。最初はブラケット(壁に固定する丸いパーツ)とパイプ(くの字パーツ)部分を別々につくり、後から一体にすることでビスを隠すカバーを取り付けやすくしようとか、ただの平べったいプレートをビスの上から押し当てるだけにしようという案も考えていました。併せて、その素材を何にするか?というのも検討を重ねたことでした。

最終的には金属とほとんど見分けがつかない仕上げのPPという樹脂を採用しました。弾性のある素材なので、手で曲げながらパイプに通して取り付けることができます。その仕組みにするとブラケットのプレートに凸型のスリットが必要になりますが、それがほとんど意識されなくなるように2mmという細さにしました。スリットは細くするほど目立たなくなりますが、細すぎると樹脂カバーがねじれたり、断面が見えたりという別の問題が発生しますので、最終的にこの細さに辿り着きました。そこが特徴的なギミックです。 

ブラケットを覆うPPカバーパーツ

 

〈宇野〉カバーはなるべく単純な丸にしたいけど、後から取り付けられる仕組みじゃなければならない。そこに矛盾があるので普通は誰もその課題をクリアしようとはしないと思うんですけど、森田アルミ工業は「やれるんじゃないか?」という無邪気な気持ちで挑戦する社風があります。

そこで塩谷君が見つけ出したのが、弾性のある樹脂カバーを曲げながらはめる方法でした。「この課題をどうにか解決するんだ!」という強い意思がなければ、このやり方は出てこなかったのではないかと思います。

 

兄弟感を出すための寸法やディテールへのこだわり。

──プレート部分の存在感を消すために素材選びや細かい寸法の検討が丁寧になされていたんですね。他にも今回の壁付け型Aluteでこだわったことはありますか?

〈塩谷〉Aluteの壁付けは直径35mmのアルミ笠木(手が触れる棒部分)が付くのですが、工務店さんが同じ直径35mmの木製の丸棒を在庫していて、ブラケットだけを買い求めるというニーズがありました。それで、今回開発したブラケットはAluteのアルミ笠木にも、一般的な木製の笠木にも付けられる仕様にしています。

Aluteの笠木はブラケットの一部を内側のレール内に隠すデザインになっていますが、木製の笠木を受けられるようにカーブしたブラケットの形に合わせて、レールの内側にもカーブした空洞を設けている点もこの製品の特徴です。

笠木(パイプ)に隠れるブラケットの様子
ブラケットに市販笠木を取り付けたイメージ

 

あとはAluteの自立型と壁付け型で兄弟感を出すために、今回のブラケットの部材の直径は、自立型の笠木を受けるパーツと同じ太さにしています。ちなみにこのブラケットは世の中の一般的なブラケットと比べると非常に細いつくりなので、強度試験では材料に穴をあけるなど、あえて厳しい条件でテストをして安全性を確認しました。素材はアルミよりも粘りと強度が高い亜鉛のダイキャスト(鋳造)を選んでいます。

このブラケットの水平方向と垂直方向の部材がぶつかる部分は、丸棒がスパッと切れているように見せ、なおかつ笠木を支える垂直方向の部材が目立つようにデザインしました。それがより自然だと考えたからです。完成したものは単純な形ですが、実は設計時にはいろいろな選択肢があり、そこから最適な形を選ぶという作業を繰り返しています。

あとは、アルミの笠木の部分は“アルミ押し出し”でつくれる断面形状で、強度や肉抜き(コストを抑えるために必要のない材料を減らして空洞にすること)を考えて設計しています。お客さんが目にするところではありませんが、それらがよく考えられた断面は自ずとバランスがきれいになります。

 

求められているのは、工業製品と造作品の間。

──今回の開発で最も苦労したのはどんなことですか?また、今後の展望について教えて下さい。

〈塩谷〉ブラケットの強度を確保することが一番大変でしたね。あとは、社内でこのデザインの魅力を説明し理解を得ることも今回苦労したことでした。料理に例えると、味がしっかりしたものはおいしい・まずいの判断がしやすいですが、繊細なだしの味は判断が難しいと思うんです。今回つくったブラケットもとてもシンプルで繊細なものなので、モックアップの段階で魅力を説明するのが難しかったです。完成品ができ上がった時に初めて伝わったように思います。

〈宇野〉Aluteの企画・開発をしながら、“工業製品と造作品の間の製品”がすごく求められていることを実感しました。建材は作り手側にとって自然だけど、生活する人にとって自然なものにはなっていない製品が多い。もちろんつくりやすいことや耐久性が高いことも大事ですが、使う人にとって“ノイズがない”製品にすることを諦めずに製品開発をしていきたいです。

今回Aluteの壁付け型の開発には2年掛かりましたが、時間を掛けてでも人の心を打つ製品をつくっていきたいですね。

 

──では最後の質問になります。『Noizless』では「普通の家(しっくりくる家)とは何か」をテーマにしていますが、塩谷さんにとってそれはどんな家でしょうか?

〈塩谷〉家は30年、40年、もしかしたら100年使っていくものかもしれません。その中で人の好みや家族のライフステージが変わっていくことを考えると、その中で求められる「普通の家(しっくりくる家)」とは、拡張性がありいろんな色に染まれる家なのかなと思います。

 

 

──前編・中編・後編の3回に渡ってご紹介させて頂いた、宇野さんと塩谷さんへのインタビュー記事は以上となります。

空間に溶け込むことを目指したシンプルなデザインのAluteは、数多くの検証や検討の上に成り立っていることをうかがい知ることができました。

毎日、家や職場やお店の階段で何気なくつかんでいる手摺。それがどんなデザインでどんな構造になっているのか?そしてそこにはどんな課題があるのか?開発者の視点を想像しながら見つめてみると、手摺がそれまでとはちょっと違った見え方に変わってくるかもしれません。

 

→Noizless 室内階段手摺「Alute」製品ページはこちら

 

宇野 健太郎(うの けんたろう)

森田アルミ工業株式会社 研究開発部・営業2部 取締役部長

プロフィール/1981年生まれ。大阪の一風変わった集合住宅『都住創』で幼少期を過ごす。2005年 東北芸術工科大学(山形)現プロダクトデザイン学科卒。同年から都内の建築設計事務所で不動産を経験。2007年 森田アルミ工業株式会社入社。

 

塩谷 柾貴(しおや まさき)

森田アルミ工業株式会社 研究開発部  リーダー

プロフィール/1990年生まれ。2016年 桑沢デザイン研究所デザイン専攻科卒。プロダクトデザイン事務所を経て2017年 森田アルミ工業株式会社入社。