空間になじむデザインを探求。無駄を排除したアルミ製階段手摺(前編)

「作り手の気持ち」第3回目は、Noizlessを運営する森田アルミ工業株式会社。Aluteの企画に関わった宇野健太郎さんと開発担当の塩谷柾貴さんにお話を伺いました。

森田アルミ工業は1972年にベランダ手摺や面格子をつくるアルミニウム加工業者として大阪府泉南市で創業。その後、自社で企画したオリジナルブランドの製品開発を始めます。2005年頃からデザインに注力し、現在ではエクステリア建材だけでなく多様なインテリア建材を製造販売するようになりました。

今回のインタビューでは、Noizlessでセレクトした室内アルミ手摺「Alute(アルテ)」の開発の経緯について伺いました。前編・中編・後編の3回に分けてご紹介します。

 

既存製品の課題を見つけて、空間に溶け込む手摺を目指す。

──すっきりとしたデザインが特徴的な「Alute」。いつ頃どのようなきっかけで開発されたのでしょうか?

〈宇野〉Alute2018年に開発をはじめ、20203月に発売しました。元々当社には「TAS Handrail」という室内アルミ手摺があり、Aluteはその後継品として開発を進めました。

そもそもTASは「トラス・アルミ・ステアーズ」の略で、建築家とコラボして開発し2004年に販売を始めたトラス構造の階段でした。ガラスとアルミを組み合わせたこの階段は非常に高級感があって評判が良かったのですが、その高級さ故になかなかお客様が採用するにはハードルが高い製品になっていました。そこで、10年程前に「TAS Handrail」という名前で吹抜け手摺だけを残すことになった経緯があります。

TAS Step 設置画像

そんなTAS Handrailも発売から10年以上経ち、お客さんからは「吹抜手摺だけだと採用しづらい」という声もよく聞くようになりました。そこで、デザインの刷新と階段にも設置できる新商品を開発することを決めました。

TAS Handrail 吹抜け手摺 (奥の階段手摺はTAS Step)

 

──Aluteは元々あったアルミ手摺の後継品という位置づけだったのですね。開発ではどんなことを目指しましたか?

〈宇野〉Aluteの開発を始めた2018年頃、私は営業をしながら商品企画に携わるようになっていて、「お客さんが求める商品を作ろう」という意識をより強く持つようになっていました。また、当社のWEBサイトを訪れるユーザーを分析していくと、戸建て住宅の設計の方の割合が高いことが分かっていたので、その方々に響く商品をつくることにしました。

そのために、2030の設計事務所や工務店の設計者を訪ね、TAS Handrailの改善点や、新たに構想中のアイデアへの感想をヒアリングして回りました。もちろん設計事務所や工務店によって個性やカルチャーが異なりますので、みんなが同じ意見ではありませんが、共通する要素も見えてきたんです。

TAS Handrailへの指摘で多かったのが「支柱上部の三角形状やそこの色が違うのが気になる」というもの。近年の当社のデザインの考え方では「空間に溶け込むこと」を大事にしているので、水平垂直で構成される空間において、特別な理由がない限りそれ以外の形状が含まれていることに違和感がありましたし、住宅の設計の方も空間全体で見た時に「違和感がないもの」を望んでいるのが分かりました。

TAS Handrail 製品画像

もう少し具体的にいうと、ディテールが作為的ではないものを多くの設計者が望んでいたんです。TAS Handrailはプロダクトデザイン視点では完成度が高い製品でしたが、建築視点では空間に溶け込みにくい製品になっていたという気づきが得られ、そこから新しい手摺の開発方針が導き出されました。

そして、その開発をプロダクトデザイナーの塩谷くんに担当してもらうことにしました。

 

寸法・フォルム・ディテールを突き詰め、軽やかな印象に。

──製品の方向性が固まったところで、デザインの実務を塩谷さんが進めていったんですね。具体的に宇野さんからはどんな要望を受けたのですか?

<塩谷>最初に宇野さんから大きく3つの指示がありました。1つ目は、支柱と笠木の直径をそろえてバランスを整えること。TAS Handrailは支柱が35mmなのに対して笠木が直径32mmと少し細く、それが見た目のアンバランスさにつながっていたからです。2つ目は、木製階段に取り付けられる仕様にすること。TAS Handrailは元々階段と一体に造られていたため、吹き抜け部分の手すりはありましたが、TAS以外の階段に取り付けられる仕様ではなかったんです。そして3つ目は、工業製品っぽくない、造作品のような美しさを実現することでした。

その空間のために造られた鉄骨の造作手摺のように、様々な空間に溶け込む手摺をパッケージ化された工業製品でどのように作り出すか?そのために様々なディテールを整える必要がありました。

 

──それらの要望を受けて、どのようにデザインをしていきましたか?

<塩谷> TAS Handrailでは三角の部分がありましたが、Aluteでは全てを丸いパーツで構成することで、より単純な形を目指しました。また、どうしても造作の鉄骨手すりと比べるとアルミ製手摺は材料が太くなってしまうのですが、支柱と笠木の間を細くし、目透かしを入れることで軽やかな印象にしています。

足元カバーと支柱の間も5mm程浮くように透かしを入れ、さらに、壁振れ止めも同じように細くしました。ただ、あまり細くし過ぎるとかえって目立ってしまいますので、強度を確保でき、かつちょうどいい見え方になる太さを3Dプリンタでモックアップを作って検討していきました。

それから、建築家のデザインでは中桟(なかざん)がない手すりもありますが、心理的な安心感と美しさを両立させるために2本の中桟を入れています。

 

──シンプルなデザインを実現するために、特殊なギミック(仕掛け)が使われていたりするのでしょうか?

<塩谷>支柱と笠木を接続する箇所に可動するパーツが付けられていますが、これはTAS Handrailに付いていたものを、より施工しやすい形に改良したものです。また、そのパーツの下部のほとんどが支柱に隠れる構造にして、可動部分自体が目立たないように気を遣っています。

それから、TAS Handrailでは中桟を支柱に固定するビスを正面から付けていましたが、ビスをなるべく目立たないようにしたかったので、アングルを使って中桟と支柱を固定するビスを見えないようにし、アングルと中桟を固定するビスは中桟の下に取り付けています。さらにアングルの位置調整ができる機構も備えられているのですが、そのギミックもほとんどの人が気づかないようにデザインしました。

<宇野>誰もが気付くデザインではなく、その“誰も気づかないギミック”こそが今森田アルミ工業が大事にしていることなんです。でも、たまに、そこに気付いてくれる人がいるのもうれしいですね。

 

- 前編はここまでです。次回の中編では、引き続きAluteの開発秘話を詳しくご紹介します。

 

→コラム:空間になじむデザインを探求。無駄を排除したアルミ製階段手摺(中編)はこちら

→Noizless 室内階段手摺「Alute」製品ページはこちら

 

宇野 健太郎(うの けんたろう)

森田アルミ工業株式会社 研究開発部・営業2部 取締役部長

プロフィール/1981年生まれ。大阪の一風変わった集合住宅『都住創』で幼少期を過ごす。2005年 東北芸術工科大学(山形)現プロダクトデザイン学科卒。同年から都内の建築設計事務所で不動産を経験。2007年 森田アルミ工業株式会社入社。

 

塩谷 柾貴(しおや まさき)

森田アルミ工業株式会社 研究開発部  リーダー

プロフィール/1990年生まれ。2016年 桑沢デザイン研究所デザイン専攻科卒。プロダクトデザイン事務所を経て2017年 森田アルミ工業株式会社入社。