階段の話
階段は心地よい空間造りから
皆さんは階段に何を求めるでしょうか。吹抜けを伴う階段は熱の移動も起こります。ひと昔前は一般的にリビングに吹抜けがあると寒いが通例でした。
冬季は暖房で温まった空気は上昇して吹抜けからは滝のように冷気が降りそそぎ快適に過ごしたいはずのリビングは不快な場所になりがちでした。断熱が不足しているので上下階で温度差が生じるためです。
近年は建物の高気密高断熱化の施工技術や温熱計算が一般的になり一定の根拠をもって吹抜けを伴うリビングを計画できるようになりました。むしろ冬季の南側の日射取得を考慮して階段と大開口を設けることで陽だまりを作る設計を考えます。階段を考えることが家全体の心地よさに直結してくるのだと思います。
インテリアとしての階段
階段は昇降設備としての役割がありますが、オブジェのような存在感を感じたことはないでしょうか。階段がディティールに至るまでしっかりとデザインされているとこの設計士さんただ物じゃないなといった感じで鑑賞することがあります。いい建築物にはいい階段があるのです。
それだけ空間の質を左右するので階段デザインは空間の見所になるので気の抜けないところです。ある意味、無意味で言われないと気が付かないようなこだわりが垣間見えるのが階段です。
一見するとお洒落な鉄骨階段も手摺のジョイントやボルト接合が設計段階で詰め切れていない物や、既製品で済ませている建物は多いです。それらノイズの積み重ねが空間の質を落としているのだと思います。
階段は華奢(きゃしゃ)にしたい
あくまで昇降器具としての機能を考えると安全に昇降ができることができれば可能な限り空間の中で軽やかに視線が抜けたり、階段の下スペースもなるべく利用できた方がいいと思います。
私の設計では手摺や階段はスチールで製作することが多いく、細いフラットバーや丸鋼を利用して工場製作した一点ものです。華奢な見た目なので揺れなどが気になりますが見えにくいところで控えを施したりして工夫をしています。
過去に設計した階段をいくつかご紹介します。
〈折り紙のようにシンプルな造形の片持ち階段〉
水平と垂直のタモ集成材を一体的に合成して壁体内で構造と接合し、キャンティレバーによって成り立っています。折り紙でも再現できるシンプルな形状のため手摺も極力部材の少ないデザインとなるようにしました。手摺はあえて太めのφ42mm程度の丸鋼を曲げて2点で支えています。廻り階段部分4段分の支柱にもなっているのである程度揺れが抑えられています。
〈彫刻のように削りだしたようなマッシブな箱階段〉
階段下をキッチンの背面収納として有効に利用した階段です。階段の低い部分は床下エアコンを収め点検ができるようになっています。箱階段の壁面仕上げはヒノキ合板12mm仕上げとして収納の扉などには木枠は付けずに合板切りっぱなしとして収めました。階段の踏板は30mm程度の集成材ですが板の厚みが主張しないようにヒノキ合板を勝ちとしてエッジの効いた形状です。
〈12mmのトラスが支える繊細な螺旋階段〉
螺旋階段は省スペースな昇降設備として有効であることと、優雅さを漂わせるオブジェのような意匠性があります。価格もそれなりに高価ではありますがそもそも作ってくれる鍛冶屋が少なく採用にはハードルがあります。建物上棟時にクレーンで釣り込み設置するので計画には注意が必要です。踏板は斜めの丸鋼と手摺の支柱が一体となって支えられています。繊細な見た目ではありますが階段全体では意外としっかりしています。