職人さんの話を理解するための「収まりワード」

職人さんの話が理解できると面白い

住宅1つの建築現場でも、たくさんの職人さんが入れ代わり立ち代わり、施工の手として入ることで、何カ月もかけて「家」になっていきます。まさにプロの仕事が繰り広げられている現場は、普段あまり耳にしない言葉がいくつも飛び交います。

よくわからないからこそのカッコよさってありますよね。でもカッコつけて話したいから違う言葉をわざわざ使っているわけではなく、良い仕事をするため、効率よく、間違いなくコミュニケーションをするための道具としての言葉なんです。

皆さんが現場に行く機会は限られると思いますが、職人さんの話が少しでも理解できると、そんなところまで気にして家づくりをしているんだ、など発見があるかもしれません。

 

「納まり」とは

さて今回は、その現場用語の中でも「納まり(おさまり)」に関わる言葉をピックアップしてみました。

「納まり」とは、簡単に言うと部材どうしの関係性のことです。現場に運び込まれた各種部材を、どのように使って、どのように組み立てていくか、現場において重要議題になることが多々あります。総じて「納まりが良い、悪い」といった表現をしますが、職人さんにとって、その良し悪しがどこでどう判断されるかが、言葉の1つ1つから感じられるかもしれません。

 

コグチとコバ

コグチを漢字変換すると「小口」になるのが普通ですが、ここでは「木口」です。木の本来のかたち、丸太から板材を切り出していくと、どのような形状であっても、年輪が表れてくる面と、そうでない面が出てきます。前者を「木口(コグチ)」、後者を「木端(コバ)」と呼びます。

 同じ側面を呼び分けているのにはワケがあります。木口側は反りや割れが生じやすい面になるため、使い方によっては、そのことを想定しながら組み立てていく必要があります。また木口側は繊維の断面が見えていて顕微鏡レベルですとストローを束ねたような状態になっているため、木端側に比べると、釘が抜けやすかったり、接着剤や塗料の吸い込みが良かったりと、同じ1つの材料なのに性質まで変わってくるから不思議なものです。

 

ミツケとミコミ

さてさて今度は板材を使って、扉の枠を造っていきましょう。イラストのような扉の外周、左右と上方向の枠、まとめて「三方枠(サンポウワク)」と呼びます。概ね、部屋側に対しては枠材の木端側が見えてきている状態になるでしょう。 

この部屋内から見た時に正面に見えてくる方の面を「見付(ミツケ)」と呼び、他方、奥行方向を「見込(ミコミ)」と呼びます。「幅」とか「厚み」とか、もっと普通の呼び方をしても良いのではないかと思われるかもしれませんが、その呼び方だと、時としてどの面のことを指すのかわからなくなるため、三方枠なり、そのモノの出来上がりに対する方向で呼ぶことが、施工時のコミュニケーションミスを防ぎます。

また、設計者さんの中には、見付と見込のサイズやバランスをこだわる方もいます。見付が細い方がシャープに見えるというのは想像できると思うのですが、これが細すぎると今度は材料の歪みが目立ち、逆にヨレヨレとした印象になることさえあります。現場において「完全なる真っ直ぐ」という概念は存在しません。職人さんは、図面上でキレイかどうかではなく、実際に出来上がった時に、すっと気にならない印象になるかを重要視されることが多く、しばしば設計者さんと意見が衝突する部分にもなります。

 

トメとイモ

2つの部材の接合方法も呼び方で区別をします。イラストの通り、45度にそれぞれの部材をカットし接合した状態を「留め(トメ)」、単純にくっつけた状態を「芋(イモ)」と呼びます。人に対して「芋野郎」と侮蔑的に使うことがありますが、この単純なくっつけ方も近い感覚なのかと思います。

では「留め」の方が優秀なのかと言えばそんなことはありません。確かに角と角でラインが結ばれ見た目はキレイですが、繊細な加工の分、ちょっとしたズレが目立ちますし、欠けも起きやすいため、現場では、ここぞというところでしか留めにはしないです。

 

カチ・マケ

さて単純に部材をくっつければ良いのかと言うと、それはそれで簡単ではありません。縦と横のどちらかが長くなりますが、それがどちらであるかの職人どうしの意思共有は現場では非常に重要な事項になります。材料を切り出す時、枠であれば見付分、板であれば板の厚み分をミリ単位で想定して作業をしなければ、現場は水平垂直が全くとれていない出来上がりになってしまいます。

この時、長い方を「勝ち」、短い方を「負け」と表現します。「どっちを勝たせますか?」みたいに使いますね。ぜひご自宅の窓枠(できれば腰窓)の4辺、縦横どちらが勝っているか確認してみてください。

 

タイルのような厚みのある素材を使う場合も、角の部分でこの勝ち負けの関係が生じます。

通常は正面から見える方を勝たせるわけですが、あえて小口の断面を見せるパターンもあります。また断面を見せたくない場合、役物(やくもの)と言って、同じ素材で作られ角用の部材を貼る方法もありますが、これはこれで役物が目立ち過ぎたり、目地割りのピッチが崩れたりするため、デザインによっては考えものです。このあたりはこだわりだすと奥が深いところですね。

 

チリ

最後はさらに細かい部分。名前もチリ、吹けば飛ぶような名前ですね。漢字では「散り」と書きます。部材どうしがぶつかるところの段差のこと、またはその寸法を指します。

扉の枠でも窓の枠でも壁から少し飛び出していると思いますが、これが散りです。ピッタリ壁と同じ方が見た目もスッキリしそうなものですが、逆です。先ほども書きましたが、完全な真っ直ぐがない世界が現場です。壁も枠もどんなに丁寧につくっても、わずかに歪みが生じます。その真っ直ぐではないモノどうしをピッタリくっつけると、ウネウネと歪みが目立つ結果になるのです。あえてどちらかをハッキリと勝たせた方がビシッと真っ直ぐに見えます。

 

職人さんの会話についていけるでしょうか

「この板のコバをミツケに三方枠、縦枠ガチで、壁とはチリ10mmで納めといて」この会話1つで扉の枠の概要がだいたい共有できます。皆さんはわかりましたでしょうか?

いきなりでは難しいかもしれませんが、実際の現場で1つ2つ会話に登場してきたら、その場の状況で意外とわかることも多いかもしれません。

また出かけた先のお店などで「納まり」を一度気にして見てみると面白いかもしれません。例えば、お茶室などは変わった納まりのオンパレードです。見付を繊細に細くしたり、枠の勝ち負けがちぐはぐになっていたり、ちょっとしたズレを小さな空間の中に無数に折り重ねることで、わびさびの世界、アートの域にまで昇華されます。普通の家であっても、お茶室であっても、リアルな素材と、ヒトの手仕事によって、図面やCGでは表現しきれない「納まり」の世界と、その世界の言葉が生まれてくることが面白いですね。

 

最後にお願い

最後に、今回のような言葉が少しわかったとしても、職人さんに対して、こうしてほしい、ああしてほしいと直接お願いをするのは、基本的にはご法度と考えてくださいね。現場には監督さんがいますし、建築士・設計士さんが入っている場合もあります。予算や段取り、そもそも着工前に取り交わした契約内容に沿って、彼らが職人さんに動いてもらっている流れを無視してしまう可能性がありますので、くれぐれも、ご注意ください。

もちろん直接、打合せをすべき相手である建築士さんや監督さんも、今回ご紹介した用語は知っていますし、よく使います。もしかしたら、お客さんであるあなたとの打合せでもついつい使ってしまう場面があるかもしれません。そんな時こそ、わかっているぜ感で、受け答えをし、驚かせてみてはいかがでしょうか。