巾木の話
無意識に影響する巾木
巾木――あまり聞きなれない言葉ですが、皆さんのお家にもほぼ必ずついています。壁の足元についている板といえば何となくあったなと思うはずです。そんな存在感の薄い巾木ですが、実は空間デザインにものすごく影響しています。空間に入ったとき、「何故かすっきりしている」「かっこいい」逆に「普通だな」などと感じることがあります。それは、巾木のような空間の細部を感覚的に読み取っているからです。しかし、巾木自体は普段意識するものではないので、家づくりの中でいざ選択を迫られたときに何を基準にしていいか判断に困ることでしょう。では、そもそも巾木とは何のためについているのでしょうか。
機能とデザインを両立した小さな巾木
巾木の機能とデザイン
巾木には2つの機能があります。日常生活においては、掃除機などを掛けるときに、傷や汚れから壁を守る保護の役割、そして施工時には、床と壁の継ぎ目に隙間ができないようにする役割です。どちらも大切ですが、近年は掃除をロボット掃除機に任せることも増え、壁面は保護の必要性が減っているとも考えられます。その点を踏まえると、一般的な巾木のイメージから、もう少しデザインを広げて、例えば、巾木がない(ように見える)デザインもできます。しかし、そういった場合は後々隙間ができるなどの経年劣化にも影響するので施工性の考慮が必要ですし、壁の仕上げ材料によってディティール(納め方)を変えなければなりません。こうしたディティールをきちんと落とし込むことで、空間の質やデザイン様式が変化し、同時に巾木の存在が変わってきます。空間に緊張感の有無が生まれるのはこうした細部の違いからです。
高さ6cm の溝のある一般的な巾木
巾木のあり方
私は、緊張感のある空間とは、面と線の水平垂直が一部の隙も無い状態だと解釈しています。面には余計なものが無く、線は限りなく鋭くエッジが効いている。建築の中で巾木は線として扱われますが、線が太くてはエッジが効かずノイズになります。究極的に言えば、緊張感のある空間のために視覚的には巾木が付いていないように見せるのもありです。ここで理想と日常がぶつかり合う。巾木なし派はロボット掃除機で掃除をするから問題ないといい、巾木あり派は経年劣化で隙間が空くという。さらに、世の中にはどちらの意見も丁寧に取り入れ、建築士も納得する巾木を製作しているメーカーもあります。デザインが良いことが前提で、しかも安く、施工も簡単にという点で我々も溜飲を下げる。結局はどの方法も正解で、自分の落としどころを、どこにするかが大切です。とはいえ、それで全て終わるかというとそうではなく、よりエッジのきいたモノづくりは生き続けるのです。