「間取りの先」を考えよう

51C型

家探しでも家づくりでも、まず考えるのが間取り。日本人には便利な共通言語があって「1DK」とか「3LDK」とかで、間取りに関する会話が比較的容易に誰とでも成立させることができます。

このルーツと言えるのが「51C型」。戦後に公営住宅を不燃化すること(RC造)と、合理的でコンパクトな住まいを大量に供給していく必要性から生まれた、間取りのプロトタイププランの名称です。京都大学の西山夘三が提唱した「食寝分離論」を具現化し、ダイニングキッチン、つまり「DK」がここで発明されたと言われています。

 

カレーライスの馴染み感

感覚的には「カレーライス」に近いと思っています。西洋的なダイニングテーブルで食事をするスペースと、ちゃぶ台を片付けて押入から布団を出したら寝ることができる、江戸時代の長屋と同じ畳スペースの両方があることで、日本人に定着しやすい暮らしのカタチが見えてきたのです。

ジャガイモの入った甘いルーに、モチモチした日本米、福神漬けが添えられた、カレーライスの日本人への馴染み具合と近いものを感じます。

 

現代の「普通」の間取り

現代において標準と言えるような間取りプロトタイプはもはやありませんが、でも一般的な間取りはなんとなくみんながイメージできてしまうのが、時代性だったりします。
ダイニングキッチン、DK型は少なくて、だいたいはソファーも置けるLDK型、キッチンは対面だと嬉しいという方が多く、寝室は夫婦1つと子どもの人数分ほしくて、床は畳ではなくフローリング、収納は押入ではなくクローゼット、そのうち1つくらいウォークインクローゼットだったら良いなぁといったところではないでしょうか。マンションでも戸建てでも、概ね近い間取りが今の「普通」になっています。

 

玄関に洗面所

「間取り」から考えることは、とても便利。でも引っ張られ過ぎる面もあると思うんです。家づくりを考える時、一度、間取りのことは置いておく、この思考方法はぜひ試してみてください。いくつか例を挙げてみますね。

玄関に洗面所。
家に戻ってきたら、まず手を洗う。コロナ禍でなくても生活習慣の1つと言えると思いますが、であれば玄関に洗面所があっても良いかもしれません。なんとなく水廻りは一式、お風呂、洗面、洗濯機、トイレをひとまとめにするイメージがありますが、分けてみること、一考に値すると思います。(設備配管上はまとめた方が効率的だったり、採光要件の良いゾーンを部屋にした結果、水廻りが北側にまとまったりしますので、イメージは間違ってもいないのですが・・・)

 

キッチンに洗濯機

洗濯機、だいたい洗面所に置かれますよね。洗面脱衣室とも言いますし、お風呂の前室の役割を考えると、そこで洋服を脱いで、そのまま洗濯機に入れるのが効率的という考え方です。浴室に乾燥機を設置しているお宅だと、すぐに干せるし場所としては適切だと思います。
でも、人によってはキッチンに洗濯機を置いた方が良い場合もあり得ます。洗濯物を干すお庭やバルコニーが近かったり、洋服を畳んだり、アイロンをかける場所との関係だったり、最終的な洋服の置き場であったり、意外と「洗濯」まわりの家事のフローって複雑で多様です。

 

リビングにベッド

51C型の四畳半が居間(ちゃぶ台)にも寝室(布団)にもなったように、リビングにベッドを置くスタイル、意外と面白いかもしれませんよ。むしろ一人暮らしを経験したことがある方なら、ベッドがソファー代わりになっていた人も多いのではないでしょうか。ゆったり過ごす場所をまとめて、その分広々面積を大きくすることができるかもしれません。

 

「間取りの先」を考えよう

「間取りは〇LDKはほしくて、部屋をそれぞれ□帖以上はほしくて、キッチンは・・・」と家を建てる時には考えるもので、ごく当たり前の思考方法です。だいたい子どもが生まれたり、子どもの成長に合わせて家づくりを考えることも多いですから、部屋数は大事ですし、何帖だと狭いとか広いといった感覚も大事です。
ただ、今回例示したように、各要素を分解してみたり、日常の生活フローから自分にとって適切な関係性を探ってみることで、より住みやすい家になるはずです。


51C型の51とは1951年に生まれたプランという意味です。70年以上過去ではありますが、それでも人間の寿命で言ったら所詮1世代分の話なんです。リビングはこんな感じ、キッチンはこんな感じ、皆さんそれぞれが「普通」だと考えている家のイメージや、求めている「理想」のお家は、この70年前から進化した、さらに手前数十年での姿です。これから先5年後、10年後と、少しずつでも明らかに、「普通」も「理想」も変化するのが当たり前であることを前提に、改めて自分の家づくりに取り組んでみると、面白いのではないでしょうか。