暮らしの中の建築パーツ「アトリエを中心に据えた職住一体の家」(中編)
『暮らしの中の建築パーツ』第6回目、新潟市秋葉区に暮らす明間さん家族のお住まい(設計:有限会社神田陸建築設計事務所、施工:サルキジーヌ)。中編では引き続きアトリエ内部を見ていきます。
デスクライトが埋め込まれた機能的な吊り棚。
前編ではアトリエの床や壁面の素材を紹介してきました。ここからはアトリエの中央部分を見ていきます。まずはデスクの上の天井に吊られている棚を見てみましょう。

〈神田さん〉デスクの上は使われることがない空間です。そこに吊り棚を付けることで密度を上げ、よりアトリエ感が出るようにしています。うちの事務所でも同じような吊り棚を設け、そこに建築模型を置いて使っているんですよ。
僕はあまり既製品の建築パーツを使わず造作することが多いんですが、これもそうですね。普通の丸い鋼材を使ってボルトで棚板を固定しているだけ。
鋼材のままだとメタリックな質感が目立つので、マットな黒で塗装をしています。
〈典子さん〉 神田さんの事務所を見て希望した吊り棚で、物を載せられるだけでなく、棚の下に付いているダウンライトが作業をするのにとても役立っています。この吊り棚があることで天井が低く感じられ、落ち着いて仕事ができますね。ボルトが見える無骨な感じもすごく好きです。
〈隆さん〉 吊り棚の上には本やスマートスピーカー、趣味の道具や作品を置いたり、あとはデスクの手元を動画撮影するためのアームを取り付けたり、メモを貼ったり…。いろいろな用途に使えて便利です。外にいると窓からチラッとこの吊り棚が見えるんですが、その見え方もかっこいいんですよ。
〈神田さん〉あと、デスクの隣の壁にはラワンの有孔ボードを張っていますね。
〈典子さん〉 リノベーションをする前は、和室の床の間に有孔ボードを張って使っていましたし、神田さんからのおすすめもあり張って頂きました。定規を掛けるのに重宝しています。
〈隆さん〉 僕はラジコンを掛けるのに使っています。
〈神田さん〉有孔ボードにいろいろな物が掛けられることで、コンセントや配線が目立たなくなるという効果もありますね。
照明は径の小さなダウンライトですっきりと。
次に室内の照明を見ていきましょう。ダウンライト、スポットライト、ブラケットライトなどが使われていますが、すべてブラックで統一され、空間を引き締めるアクセントにもなっています。
〈神田さん〉照明計画については、『タスク・アンド・アンビエント』の考え方(作業に必要な場所と、それ以外の場所を分けて計画する考え方)に従ってやっています。なので、全体的には暗めなんですけど、必要なところはしっかり照らせるようになっています。
照明はコイズミ照明のものを使っていて、ダウンライトは存在感があまり出ないように一般的なものよりも小さい直径50mmのものを使っています。
あとは、デスクの上の吊り棚に間接照明を付けていて、これで天井を照らすようにしていますね。
〈典子さん〉 ダウンライトの一部は角度を変えられるもの(ユニバーサルダウンライト)になっているのがいいですね。スポットライトのように壁を照らすことができます。
〈隆さん〉 夜は間接照明だけでも十分なので、そこだけ点けておくと、リビングで映画を見るのにもちょうど良かったりしますね。
〈典子さん〉 壁に付いているブラケットライトも気に入っています。この照明のおかげで塗り壁の質感が際立つんですよ。
〈神田さん〉僕らは塗り壁にブラケットライトをよく使います。時々、「この照明は要るの?」と言われたりもするんですけど、やっぱりあるといいんですよね。
〈隆さん〉 ブラケットライトは土間と相まって、外の照明みたいに見えるのもいいなあと思っています。あと、以前から使っていたイサム・ノグチの照明を階段の吹き抜け部分に付けて頂きました。夜これを一つ点けておくだけでいい明るさになります。
空間に変化をつくり出す、グレーの左官仕上げの壁。
次にアトリエの有効ボードの壁の奥に配されたリビングへ行ってみます。壁の裏側はプラネットウォールという左官材で仕上げられており、これまでのラワンや珪藻土塗り壁とは異なる雰囲気をつくり出しています。
〈神田さん〉ここの壁もラワンでも良かったかもしれないですが、ちょっと変化を付けるという意味で、プラネットウォールで仕上げました。土間のモルタルとの親和性もあります。
〈隆さん〉 時々この壁にぶつかったりもするんですけど、すごく丈夫で傷が付きません。土間側から見た時に、有効ボードの脇にちょっと見えるのも気に入っています。
〈典子さん〉 悪目立ちするのではなく上品でいい色です。ザラザラしているのかな?と思ったんですけど、触るとさらっとしていて、それでありながら質感もあるのが面白いですね。
ワイルドな幅広・節あり。オークの挽き板フローリング。
アトリエの土間が印象的な住まいですが、ダイニングやリビングに使われているオークの挽き板のフローリングも負けず劣らず存在感を放っています。
〈隆さん〉 この床すごくいいですね。リノベーション前はよくあるツルツルのフローリングでしたけど、これは裸足で歩くと無垢の質感を楽しめます。隙間もないので掃除がしやすいですね。
〈典子さん〉 娘も家に帰ってくるとすぐに靴下を脱いで過ごしています。キッチンは特にマットは敷いていませんが、水が撥ねたら拭くようにしているので、特に染みになったりもしていません。
〈神田さん〉壁・天井をラワンに決めていたので、それと相性のいい床ということでオークを選びました。節の多いグレードで、幅は少し広めの148mmにしているので見映えがしますよね。塗装は艶消しのウレタン塗装がされています。
階段の踏板もオークで、こちらは集成材ですね。それを金物で吊っていますが、金物が板にめり込まないように座金を使用しています。
〈隆さん〉 階段はめっちゃ細かいところなんですけど、使っていて踏板の溝がすごく大事なんだなと思いました。板の端がどこかが感触で分かるので安心して上り下りできます。吊り構造の階段ですが、全くグラグラしないことにも驚きました。あと、窓から朝日が入ってくると金物の格子の影が落ちてきてきれいですね。
それから僕の仕事部屋が階段を上ったところにあるんですが、下から見ると階段がちょうどいい塩梅で目隠しになっています。風もよく通りますね。
〈典子さん〉 娘も階段に足を出して座ったりして楽しんでいます。
– 中編はここまでです。次回の後編では、明間様邸のキッチンをご紹介します。
【この記事で紹介した建築パーツ】
杉造作ガラス戸
モルタル
ラワン合板
自然塗料プラネットカラー(株式会社Planet Japan)
けいそうエコナ(フジワラ化学株式会社)
アドバンスシリーズ(パナソニック)
杉造作巾木
造作吊り棚
ラワン有孔ボード
AD 7002 B27、AD 7003 B27、AS 51754、AD 1195 B27、AB 54794、AB 53963、AB 52436(コイズミ照明株式会社)
イサム・ノグチ AKARI(株式会社オゼキ)
プラネットウォール(株式会社Planet Japan)
ヨーロピアンオーク148 ワイルド(上野住宅建材株式会社)
【DATA】
明間様邸
新潟市秋葉区
延床面積 124.63㎡(37.70坪)
構造 木造軸組工法
竣工年月 1990年頃(2025年3月リノベーション工事完了)
設計 有限会社神田陸建築設計事務所
施工 サルキジーヌ
有限会社神田陸建築設計事務所
https://www.yamamoto-architect-office.com/
サルキジーヌ
https://www.sarukiji-nu.com/
