暮らしの中の建築パーツ「アトリエを中心に据えた職住一体の家」(後編)
『暮らしの中の建築パーツ』第6回目、新潟市秋葉区に暮らす明間さん家族のお住まい(設計:有限会社神田陸建築設計事務所、施工:サルキジーヌ)。後編ではキッチンを見ていきます。
キッチンは面材と取っ手を変えてリニューアル。
ここまで、アトリエとリビングを見てきましたが、最後にキッチンを見てみましょう。



〈神田さん〉それから、キッチンの壁のタイルはこの空間に合う白を提案しました。ミラタップのエボルビアンコというタイルです。それに合わせる目地は、白ではなく濃いグレーのものを使っています。階段や吊り棚の金物もそうですが、ところどころに黒系の色を入れて引き締めるようにしているんです。タイルの張る方向は明間さんご夫婦が希望された縦にしています。フローリングの張り方向ともそろい、シュッとした雰囲気になりました。
〈典子さん〉 グレーの目地は汚れが目立ちにくいのがいいですね。タイルの縦張りもスタイリッシュになって良かったと思います。
洗面にも作業にも便利な業務用シンク。
キッチンで後ろを振り返ると、ダイニングの一角の目立たない場所に、洗面スペースとして業務用のステンレスシンクが使われているのもユニークです。
〈神田さん〉元々この家の2階にあったステンレスシンクをこちらに移すつもりだったんですが、排水口の部分が外れてはまらなくなったんですね。それで同じようなものを現場監督の方が探して設置してくれたんですよ。
〈典子さん〉 ここは普段は歯磨きをしたり、洗面の用途で使っています。朝ごはんを食べた後にすぐに歯磨きができるので、生活動線としても良くなりました。あとはアトリエで絵の具を使いたいと思っていたので、この深いシンクをこの場所に設けています。今後お客さんを呼んでワークショップをする際にも役立ちそうです。
〈隆さん〉 塗料が付いた筆をキッチンで洗うのは抵抗がありますので、このシンクはすごくいいですね。
不要なものを削ぎ落とし、最後に残るエッセンスを大事にする。
元々は和室の続き間だったところを、アトリエを中心としたLDKに改築した明間様邸。神田さんに設計や建築パーツ選びで大切にしている考え方を聞いてみました。
〈神田さん〉なるべく要らないものを削いでいくことを大事にしています。それにはいろいろなやり方がありますが、僕の場合は素材をなるべく変えないことを意識していますね。
大きな建物だったらいろいろな素材を使ってみたいけど、住宅や小さな店舗であれば素材をそろえた方が統一感やしっとり感が出ると考えているからです。それに、材料の種類を絞ることでロスが減り、コストダウンにもつながるんですよね。
あとはカラーリングにおいては彩度をくすませることを重視しています。そうすると、いろんな色を使っていてもグラデーションのようになって調和するんですよ。
パーツに関してはなるべくシンプルなものを選び、デコラティブなものは避けるようにしています。
うちの社名のロゴに蝶の絵が描かれていますが、これは僕の娘が小さい頃に描いた絵なんです。蝶の絵を描く時にどんどん要らないものを削いでいってもらい、最後に辿り着いた蝶と分かる限界の絵がこれでした。
また、この蝶は「&」という文字も現していて、ただデザインとして良いだけでなく、しっかり機能も備えられていることを意味しています。
最後に残る絶対に必要なエッセンス、そして機能が押さえられていること。これを僕たちは設計理念として大事にしています。
散らかった状態がインスピレーションを与えてくれる。
最後に神田さんと明間さんご夫婦に、自分自身にとってのノイズレスな空間とはどういうものかを教えて頂きました。
〈隆さん〉僕は好奇心やインスピレーションにはモノが大事だと思っていて、以前は押入にしまっていたラジコンや本、エスプレッソマシンなどを、こうして今飾ったり並べたりしています。そして、それが居心地の良さにもつながっているんです。
民芸品や工業製品のプロトタイプがぎっしり置かれた、デザイナーの柳宗理さんのアトリエの写真も好きで、楽しそうだなあって思っていました。
ミニマリストとは逆で、僕にとってはいい具合に散らかっている状態、いろいろなものを飾ったり貼ったりできる状態がノイズレスです。
〈典子さん〉私はずっとものづくりをやっていたいタイプなんですが、それが思ったようにできる環境ができ上がり、ノイズがない状態だなあと感じています。
〈神田さん〉「ノイズレス=心地いい」と捉えるのだとすると、僕にとっては一つ色彩計画が大事になると思っています。先ほど話した彩度もそうですし、素材のテカり具合もそうです。人それぞれ受ける感覚は違うものですが、僕にとってはくすんでいたり、ツヤがない状態を心地いいと感じます。そしてそれは、予算があってもなくてもコントロールできるもの。フェアに選択ができる部分といえます。
不要なものを削ぎ落し、本当に必要なものを残すという設計理念で独特の世界観がある空間をつくり出す神田さん。その理念に基づいてリノベーションされた明間さん家族が暮らす職住一体の家は、たくさんのものがあふれながらも、心地いい調和が感じられました。
『暮らしの中の建築パーツ』では、今後もオーナー宅を訪ね、建築パーツ選びの背景や思いを掘り下げていきたいと思います。次回もお楽しみに…!
【この記事で紹介した建築パーツ】
杉造作ガラス戸
モルタル
ラワン合板
自然塗料プラネットカラー(株式会社Planet Japan)
けいそうエコナ(フジワラ化学株式会社)
アドバンスシリーズ(パナソニック)
杉造作巾木
造作吊り棚
ラワン有孔ボード
AD 7002 B27、AD 7003 B27、AS 51754、AD 1195 B27、AB 54794、AB 53963、AB 52436(コイズミ照明株式会社)
イサム・ノグチ AKARI(株式会社オゼキ)
プラネットウォール(株式会社Planet Japan)
ヨーロピアンオーク148 ワイルド(上野住宅建材株式会社)
真鍮 細ハンドル(上手工作所)
エボル ビアンコ(株式会社ミラタップ)
【DATA】
明間様邸
新潟市秋葉区
延床面積 124.63㎡(37.70坪)
構造 木造軸組工法
竣工年月 1990年頃(2025年3月リノベーション工事完了)
設計 有限会社神田陸建築設計事務所
施工 サルキジーヌ
有限会社神田陸建築設計事務所
https://www.yamamoto-architect-office.com/
