暮らしの中の建築パーツ「アトリエを中心に据えた職住一体の家」(前編)

『暮らしの中の建築パーツ』では、新築やリノベーションをしたご家族の家を訪ね、それぞれの建築パーツを選んだ理由や感想をご紹介します。

第6回目は新潟市秋葉区の設計事務所、有限会社神田陸建築設計事務所が設計を行った、新潟市秋葉区に立つ明間さん家族の住まいです。

神田陸建築設計事務所の神田陸さんが大切にしているのは、なるべく要らないものを削いでいくこと。特に住宅においては、素材の数や彩度を抑えることで落ち着いた空気感をつくり出しています。

今回訪れた明間様邸ではどのような建築パーツ選びがなされているのか、見ていきましょう。

 

 

空間を印象的に区切る、杉材でつくった造作ガラス戸。

10年ほど前に購入したという中古の戸建て住宅に暮らす明間さん家族。ご夫婦ともに美術系の大学を卒業し、夫の隆さんは広告業界やWEB業界を経て、数年前から東京都内の組織コンサルティングの会社に所属しリモートで働いています。

一方、妻の典子さんは県内の着物メーカーでの勤務を経て、数年前から個人事業主として仕事をしながら、クラフト作家としての活動を行っています。

「二人ともものづくりが好きだから、広い環境で生活したくて戸建てを買ったんです。でも、普通の住宅なので、仕事やものづくりに向いているわけではなく、十分に使いこなせずにいました。それで、娘が小学校に上がるのを節目に整えようと思い、リノベーションをすることにしたんです。私は建築のことはあまり分かりませんが、神田さんが手掛けたカフェがとても居心地が良くて、うちもそうなるといいなと思いました」(典子さん)。

「僕は、神田さんが手掛けている建築の素材感や雰囲気に魅力を感じましたし、目の前のお客さんのことをしっかり考えて設計に取り組む姿勢を見て、お願いしたいと思いました」(隆さん)。

今回のリノベーションでは、外観にはほぼ手が加えられていませんが、玄関に入ったところから全く新しい空間に生まれ変わっています。玄関ドアを開けたところがこちら。
リノベーション前の玄関ホールの様子:奥に見える和室がアトリエに

 

風除室のような空間の正面には杉材でつくられた造作のガラス戸が見えます。

〈隆さん〉 このガラス戸の木の質感がいいですよね。モダンな雰囲気も感じます。これがあることで、周りが素敵な雰囲気になりますね。風が強い地域なので、閉じれば風除室としての役割も果たしますし、ワンクッション区切られていて安心感があります。

〈神田さん〉 僕はなにかと建具をつくりたがるんですが、想像通りパッと新しい景色ができて非常に良かったなと思います。杉材をクリア塗装していて、取っ手はシンプルな金物ですっきりと仕上げています。

有限会社神田陸建築設計事務所 代表 神田陸さん。1974年生まれ。新潟県五泉市出身。工業高校の建築科を卒業後アメリカへ遊学。1995年に山本建築設計事務所に入社。2012年に同事務所を引き継ぎ、2016年に神田陸建築設計事務所に社名を変更。2020年に新潟市秋葉区新津本町に事務所移転。2025年、佐渡分室開設。

 

モルタルとラワンが、アトリエらしい空間をつくり出す。


ガラス戸を過ぎたところが、この家の中心。土間で仕上げられたアトリエです。

〈神田さん〉 クリエイティブな仕事をする明間さんご夫婦は「アトリエで暮らす」というコンセプトを持っていました。そこで、「人が気軽に行き来できるような場にもでできたらいいよね」という話になり、床を土間にしたんです。

この土間は合板の上に防水処理をしてから60mmの厚さのモルタルを塗って仕上げています。合板の上にモルタルを塗ると、歩いた時にポンポンと軽い足触りになってしまいますので、そうならないように厚めにしているんですよ。検討を重ねて60mmにしたところ、土間らしい感触になりました。

〈典子さん〉 私は普段この土間で仕事をしています。ダイニングやリビングとひと続きの空間ですが、床が土間になっていることで気持ちが切り替わります。あと、展示のための什器を自分で作ったりもするんですが、土間はペンキを塗るのにもいいですね。今後ここにお客さんを呼んでワークショップもやってみたいです。

リノベーション前の和室の様子:こちらのスペースがアトリエ兼リビングに

 

〈神田さん〉 それから壁と天井はラワン合板をメインに使っています。ラワンは色ムラが多いので、どの色味のラワンを使うかを明間さん夫婦と話し合い、奥様の作品が映えるように赤みが少ないものを選んで張りました。「イエローラワン」と呼ばれているものです。汚れ止めとして自然塗料のプラネットカラーのクリアを塗装しています。


〈典子さん〉 そうですね。作品の写真撮りをするのに、赤みのあるラワンよりも、なるべく白に近い方が映えるかなと思って選びました。1枚1枚色が微妙に違ってつぎはぎみたいに見えるのもかわいいですよね。


〈隆さん〉 すごく落ち着く感じがありますね。僕は壁に何かを掛けたりしたくなるので、穴をあけても気にならないラフさも気に入っています。実際、散らかしても上品にまとまってくれる感じがいいですし、板と板の間の目透かしもかっこいいですね。

〈神田さん〉 あと、壁はラワン以外の場所は「けいそうエコナ」という珪藻土の塗り壁で仕上げています。厚さ2mm塗るだけでも、調湿や消臭の効果がありますし、音の反響も抑えられます。

 

スイッチや巾木は主張させず、なじませる。


モルタルの土間にラワンや珪藻土の壁など、質感豊かな素材で仕上げられた明間様邸のアトリエ。次に壁面に取り付く小さなパーツを見ていきましょう。

〈神田さん〉 スイッチについてはあまり主張しないデザインで、カラーリングを壁に合わせて選ぶようにしています。ここでは、パナソニックのアドバンスシリーズを使っていますね。

〈典子さん〉 見た目がすっきりしていて好きなデザインです。面が大きく押しやすいのもいいですね。

〈神田さん〉 それから、巾木は杉を使用していますね。ラワンの壁と同じプラネットカラーのクリアカラーを塗っています。また、すべての壁に巾木を付けるのではなく、壁をラワン合板で仕上げているところは、それ自体が巾木でもあると考えて省略しています。きれいに納めるのに大工さんが苦労するところではありますが…。

〈典子さん〉 塗り壁のところはしっかり巾木があるので掃除機をかけやすいですし、巾木が細くておしゃれだなあと思っていました。

 

 

– 前編はここまでです。次回の中編では、引き続き明間様邸のアトリエ内部をご紹介します。


【この記事で紹介した建築パーツ】

杉造作ガラス戸
モルタル
ラワン合板
自然塗料プラネットカラー(株式会社Planet Japan)
けいそうエコナ(フジワラ化学株式会社)
アドバンスシリーズ(パナソニック)
杉造作巾木

 

【DATA】
明間様邸
新潟市秋葉区
延床面積 124.63㎡(37.70坪)
構造 木造軸組工法
竣工年月 1990年頃(2025年3月リノベーション工事完了)
設計 有限会社神田陸建築設計事務所
施工 サルキジーヌ

有限会社神田陸建築設計事務所
https://www.yamamoto-architect-office.com/

サルキジーヌ
https://www.sarukiji-nu.com/