【パーツ探訪】古賀亮平さんに訊く「建築はアノニマス、主役になるのは⼈」後編

建築パーツや建材を切り⼝に、建築家の設計哲学を浮き彫りにする「パーツ探訪」。後半は、「kogazo」を主宰する古賀亮平さんに「上⾺のペントハウス」の建材を中⼼にお話をうかがいました。
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[プロフィール]1980 年福岡県⽣まれ。2003年武蔵野美術⼤学造形学部建築学科卒業。株式会社commdesign、有限会社⽉造を経て、2011年に株式会社古賀造を設⽴。
#6 ⼯業製品としての実直なタイル
床はブラスト仕上げにした御影⽯。⼀枚板で掃除がしやすい。
南側のLDK に対して、北側には⽞関、洗⾯室・浴室、トイレをレイアウトしています。これらに共通するのは、タイルや⽯。古賀さん独特のタイル使いが光ります。
浴室の壁と浴槽は、NY のサブウェイタイル⾵な仕上げですが、ここで使っているのは、「INAX」のミスティパレット。

ふだん⼿がける住宅では掃除のしやすさから⼤判タイルを⽤いることが多いが、今回のリノベーションでは、⽔回りは既存を活⽤しコンパクトだったため、空間のスケールにあわせてタイルを選んだ。
「INAX が昔からつくっていた商品なのですが、こうした実直なタイルが好きなんです。⾃分にとって、安価でシンプルなタイルのシンボルのようなもの。ただ残念ながら廃盤になってしまったのですが……。出隅の曲がり⾓にも使う役モノも豊富で、美しく収められるところも気に⼊っていたのですけれども」
「今はさまざまな種類のタイルがありますよね。⽯っぽいもの、アンティークっぽいもの、ガラスのようなもの……ただ、僕の感覚としては、⽇本のタイルは⼯業製品として釉薬をかけて焼かれ、かたちもきれいな四⾓として成⽴しているものが、いちばん正統なスタイルだと思っています」
汎⽤性の⾼いタイルですが、浴室での貼り⽅はひとひねりしています。「半マスずらした⾺貼りにしたうえで、⽬地を⿊にしているので、パキッとした印象になっていると思います」
洗⾯室の床は浴室に対するアクセントとして、NYのブランド、「サブウェイセラミックス」(BH0HS)を採⽤。1920〜1930年代のフロアタイルをオーセンティックなマーブル(⼤理⽯)としてリプロダクトしたモザイクタイル。
⽞関も同じく「サブウェイセラミックス」の⼤理⽯のタイル(BO0HS)。⼀枚⼀枚の⾊・表情が微妙に異なる。
#7 ⽔回りのパーツはクラシック派

⽔回りのパーツの好みは、「クラシックな定番品」。
⽔栓⾦物なら「セラトレーディング」のラインナップから選ぶことが多いそう。
浴室の洗⾯ボウルは、ドイツの「ビレロイ&ボッホ」。花瓶や⾷器などを⼿がけてきたドイツの⽼舗陶器メーカーによる製品です。
洗⾯室の洗⾯ボウルは、ドイツのビレロイ&ボッホ。
天板はレザー仕上げの御影⽯で、⾰のような独特な凹凸とマットな質感になる。
水栓は、VOLA VLS50DS 単水栓(セラトレーディング)。
「昔から変わらず使われ続けている普遍的なプロダクトが、結局いちばんいいと思うのです。カタログを⾒て新商品に⽬移りすることは、あまりないですね。今は多機能化しているけれども、機能が増えるほど壊れやすいリスクも⾼くなると思っていて、アナログのほうが好みです。
もちろん要望があれば採⽤しますが……。特に⾦物やハンドル類は、機能性はもとより、視界に⼊りやすく空間の印象を左右する要素でもあるので、お施主さんにも妥協せず、思い切って良いものを選んだほうがいい、とおすすめしています」
トイレの⼿洗いボウルは、イタリアのズケッティ(セラトレーディング)。
天板は茶黒の地色に白や金色の筋模様が入る大理石・ブラウンパーラー(関ヶ原石材)。
#8 クラフト感をもたらすリブ材

建具や家具の扉などさまざまなところに使われているのが、リブ材です。⾊はオスモを使って明暗2⾊のバリエーションを出しています。
「リブ材は、⼿仕事感が出るので愛⽤しています。どうしても建築はフラットな⾯が多くなってしまうので、素材に幅をもたせたい。今回も壁は⽊⽑セメント板でニュートラルなので、リブ材でクラフト感を出しています」

そしてこのリブは既製品を使っているわけではなく、製作しています。
「扉は建具屋さんにリブ材を貼ってもらってプレスしています。⽚⾯貼りにすると反るリスクがあるので、できるだけ反らないように……とお願いして両⾯でやってもらっています。プレスの過程が、いちばんの反り防⽌になるのですね」
これらのリブ材には実⽤的なメリットも。
「⾯材⾃体が引き⼿になるので、引き⼾にすると、⾦物をつけなくても好きなところに⼿を掛けて開けられるのも気に⼊っています」
⼦ども部屋の前の出窓コーナーでは、不整形なスペースを活かしてベンチ兼収納をしつらえている。下部収納の⾯にリブ材を⽤いている。
出窓に使っているのは、アウジリーナフィオリートという⼤理⽯(関ヶ原⽯材)。節のように⾒える模様は化⽯。
#9 細くてシンプルで丈夫な真鍮製ハンドル
太さは6ミリ。SS/S/M/Lの4サイズからなるラインナップ。
⻑年使っている定番品の⼀つが、⼤阪・上⼿⼯作所の真鍮製のハンドルです。
「細くて主張しすぎないものを……と探して、もう10 年くらい使い続けているかな。ほかにもシンプルで使いやすいものが、たくさん揃っています」
ちなみにこの住まいでは、⾦物はくすんだゴールドとアイボリーベージュが“トンマナ”。キッチン周り以外はゴールドに統⼀しているそうです。

#10 建築の硬さをやわらげるヴィンテージの照明

照明はヴィンテージが好みという古賀さん。
「アールデコの時代や、少し⾶んで1950 年代のデザインも好きなのですが、いずれも⼿仕事感が宿るプロダクトに惹かれます」
選ぶ照明は、遊び⼼を宿しているものもあれば、インテリアの主役になるものも。
「インテリアも幾何学的になりがちなので、⼿仕事を感じさせるアールが⼊ったデザインがあると、その硬さが少し和らぐと思うのです。また建築とは異なる理屈でつくられているところにも魅⼒を感じています」
ダイニングの照明は、ルイスポールセン/VL 45 ラジオハウス ペンダント
リビングの照明は、NY を拠点とするデザインスタジオAPPARATUS(アパラタス)のHIGHWIREシリーズ(使っているものは現在廃盤)。1920 年代の照明にオマージュを捧げクラフトマンシップを重んじたプロダクトを製作。真鍮や⾰も使われている。
寝室の壁を飾るのは、APPARATUS のCIRCUIT。

ベッドサイドには、アンビエンテックの「Turn / Brass」。

シャルロット・ペリアンのLes Arc wall lamp。ペリアンが、スキーリゾート施設「Les Arcs(レ・ザルク」の内装照明としてセレクションしたウォールランプ。
⼯務店?設計事務所?
たどり着いたのは、かつての棟梁のようなものづくり

設計施⼯を⼿がける「kogazo」は、アトリエ系設計事務所と⼯務店が合わさったような、ちょっと不思議な存在です。
「たしかに。⾃分のようなことをしている⼈って、会ったことがないような気がします」
そんな古賀さんですが、もともとは武蔵野美術⼤学で建築を学んだバックグラウンドがあります。ただ卒業後は建築家の道を選ばず、⼊ったのは施⼯の世界でした。
「当時のアトリエ設計事務所の独特の⽂化に違和感を覚えて。諸先⽣⽅の伝統を受け継いで建築をつくる未来が想像しづらかったのですね」
⼊社した会社で⾏なっていたのは、古い建物をつくり直すこと。リノベーションという⾔葉が⼀般化してなかった時代の話です。建築家の新築物件の施⼯にも携わりました。
「30歳までに独⽴しようと決めていたこともあり、“kogazo”を⽴ち上げ、まずは施⼯⼀筋でやっていました。建築家と⻑く仕事をしてきた経験は、素材や納まりを学ぶ⼟台にもなり、設計も⼿がけるようになります。設計と施⼯が分かれていると作業にしても伝達にしても労⼒が⼤きく、両⽅やったほうがスムーズなのでは、と考えるようになったのですね」
あくまで出発点は⼯務店……という古賀さんですが、やっぱりふつうの⼯務店とは何かが違う。
「やっていることは、棟梁なのかもしれません」
かつての棟梁は、⾃ら設計図の線を引き、資材を段取りし、現場で腕をふるい、全体を指揮する。そんなつくり⽅にシンパシーを感じると⾔います。
「設計も施⼯も両⽅できたほうが、合理的だと思うのです。設計も施⼯も⽚⽅だけだと労⼒が⼤きいし、ビジネス的に成り⽴ちにくいという感覚が⾃分のなかにありました」
合理的にするために、デザイナーが「どうつくるか」を知り、施⼯側は「どうやって形にするか」を知っておく必要がある。特に既存の条件に左右されるリノベーションでは、設計と施⼯が⼀体となって機能することが、クライアントにとってもメリットとなると、古賀さんは考えています。
「⼯務店が下請けとしてではなく、本来の“つくる側”に戻ると、さまざまな強みを発揮できる。⼯務店だからやれるやり⽅があると思っています」
リノベーションに対するスタンスにもその姿勢は滲み出ています。
「これだけパーツや建材が流通している時代、建築をつくる上で“選ぶ”⾏為からは⽬を背けられません。ただ建主に対して、“この中から選んでください”と選択肢を提⽰するのは、ものづくりではないと思うのですね。
それをやると、空間デザインが⽌まってしまう。こんな組み合わせをしてみたほうが素敵になるし使いやすいですよね、と提案できるのが、建築家やデザイナーとしての職能でもあると思っています」
アノニマスは狙うほど難しくなる

そんな古賀さんにとって、理想の建築のあり⽅とはどんなものでしょう?
「やっぱり設計する際に出てきてしまう、⾃分という存在を消していきたいですね。どんどん建築がアノニマスになって、最後に主役である⼈や⽣活が残ればいい」
しかしはたして、作家性は消し切れるものなのか。消すこと⾃体が作⾵になってしまわないだろうか。ディテールを消す……というのも、主張が込められた設計⾏為の⼀つであることに変わりはありません。
「⽇本⼈が⻑年住み暮らしてきた、⽥の字型の⺠家のようなものは、ある種のアノニマスだと思います。今、アノニマスと思えるプロダクトも、はじめから匿名性を狙ったものではないですよね。普遍的な電球だって、よくよく⾒れば不思議な形をしています。そんなところから物事を⾒る視点を解体して、建築に向き合ってみたいと考えています」
古賀さんにとってのノイズレスってなんですか?
「⾃分にとってのノイズは、設計者の作品性や意図のようなもの。そうしたものが出ないことが、ノイズレスに近いのではないでしょうか」
今の⽇本で当たり前のように、建築家が建てる住宅が、デザイン性の強いものになっていることにも、疑問を感じているそう。
「やはりその地域や⾵⼟に根ざして、そこで採れる⽊や⽯など、あるものをうまく使って棟梁がつくるというのが、あるべき姿だと思うのです。それを現代的にどうやるかを、探っていきたいですね。
たとえばこの家のダイニングには⼤正時代の⽔屋箪笥が置いていますが、これがノイズになるような空間づくりはしてはいけない、と思っています。なので素材にも幅をもたせて、さまざまなモノや⼈がなじんでいく空間にしたい。そんな家づくりが、⾃分がめざしていることなのかもしれません」

〈コラムで紹介したパーツ・建材〉
#関ヶ原⽯材|アウジリーナフィオリート
#上⼿⼯作所|真鍮 細ハンドル
#ルイスポールセン|VL 45 ラジオハウス ペンダント
【プロフィール】
古賀 亮平 / KOGAZO
1980 年福岡県⽣まれ。2003年武蔵野美術⼤学造形学部建築学科卒業。株式会社commdesign、有限会社⽉造を経て、2011年に株式会社古賀造を設⽴。

「下⾺のペントハウス」
東京都世⽥⾕区
延床⾯積 ◉◉㎡
ルーフバルコニー 152.00㎡
構造規模 築◉◉年・◉◉造の6階建てマンションの最上階
竣⼯年⽉ 2022年4⽉
設計・施⼯ Kogazo
