【パーツ探訪】古賀亮平さんに訊く「建築はアノニマス、主役になるのは⼈」前編

シンプルに良い建築をつくりたい−−こう語るのは、「kogazo」を主宰する古賀亮平さん。美⼤の建築学科を卒業したのち、建築家ではなくあえて施⼯の道を選び、設計施⼯という⽴場で住宅から店舗、リノベーションから新築まで幅広く⼿掛けています。

「強い作品性を放つ建築はつくりたくないんです。アノニマスなくらいのスタンスで、住まい⼿に寄り添うものづくりがしたい」と語る古賀さん。リノベーションした築55 年強の⾃邸を訪ね、パーツから浮き彫りになるユニークな設計思想を探ります。

[プロフィール]1980 年福岡県⽣まれ。2003年武蔵野美術⼤学造形学部建築学科卒業。株式会社commdesign、有限会社⽉造を経て、2011年に株式会社古賀造を設⽴。

今回訪れた古賀さんの⾃邸「下⾺のペントハウス」は、築55年ほどの中古マンション。

6階建ての最上階で、南側にある150㎡近い屋上テラスと北側にあるインナーガーデンが気に⼊って購⼊しました。南側に⾯するLDK は、⾒付け(幅)が細いビル⽤サッシが使われており、屋上テラスの眺めがサッシで妨げられないのも魅⼒。
こうした既存のポテンシャルを活かしつつ、スケルトン・インフィルで、4LDKから開放的なワンルームのLDKにつくり変えました。

南側の屋上テラス。友⼈と炎を囲んでお酒を楽しんだり、暑い時期は⼦ども⽤プールを出して遊んだりすることも。アウトドアリビングとして多⽬的に活⽤している。
リビングの⼀⾓にはロフトを設け、下部は⼦供部屋、階段を上がった上部はワークスペースに。

実際に仕事でも中古マンションのリノベーションを⼿掛けることが多い古賀さん。

「このくらい築年数が経っていると敬遠されがちですが、広い屋上テラスやビル⽤サッシを使った開⼝部は、古い物件ならでは。ふつうのマンションでは共⽤部は触ることができませんから。そうした個性を⽣かして、スケルトン・インフィルに近いかたちでプランニングをし直しました」と語ります。

 

 

#1 ⼤判の⽯のように⾒える⽊⽑セメント板

主張が強い躯体に対し、床はオーク材の上に⽩を混ぜたオイルを塗装し、無塗装のような印象に仕上げた。ビル⽤サッシの軽やかなデザインを活かすため、インナーサッシの類は設けなかった。天井に断熱材を⼊れて対策している。

プランニングと同時に決めていったのが、LDKの素材。
開放的な窓や、躯体のコンクリートを⽣かすため、床・壁・天井はグレーやベージュを基調とした、控えめなトーンにまとめています。

壁や梁のコンクリートは、既存の左官仕上げを機械で剥がしていったところ、印象的な表情に。その痕跡を活かすために、壁には控えめな表情の「⽊⽑セメント板」を素地で使いました。

「⽊⽑セメント板を使ったのは、デザイン的な⽬的だけでなく、コストコントロールや性能的な理由もあります。ワンルームにしたLDK が広い分、声が響いてしまうので吸⾳効果も欲しかった。また塗装の天井とはニュアンスを変えたかった、という意味合いもあります」

ただ不思議なのが、⽊⽑セメント板が⽯を貼っているように⾒えること。「3×6(サブロク)板を横張りにしているのですが、板と板の突き合わせ部分に、アルミのフラットバー(3ミリ)を差し込んでいるんです。⽬地がラインとして際⽴つので⼤判の⽯を貼っているように⾒えるでしょう。何パターンか納め⽅を検討して、この⼊れ⽅にしました」

 

 

#2 ワイン⾊のマーブルで彩られた⼤理⽯のキッチン

キッチンは、シンクとコンロの⼆列配列で、シンク側にはカウンターも設け、朝ごはんや軽⾷を取れるように。

壁・床・天井の素材をニュートラルにすると、遊びが効かせられるのが嬉しいところ。
「住宅なので家具や照明を含め、どんなものを置いても受け⽌めてくれるような、ゆるさがあったほうが⼼地よいと思うのです」

そんな⽂脈で、空間の中で⽬を引くのが、⼤理⽯のキッチン。
これは「カラカッタヴィオラ」という種類で、クリーミーな⽩を基調にワインのようなバーガンディ⾊が差し⾊となっている⼤理⽯です。

「壁を控えめにした分、キッチンが空間のアクセントとなるように考えました。⼀⾒、模様は1⾊に⾒えるかもしれませんが、鉄や銅が混じっているので、近づいてよく⾒ると、バーガンディ⾊だけじゃなく、緑⾊に⾒えるところもあるんですよ。岐⾩の関ヶ原⽯材さんに直接⾒にいって決めました」

「⼤理⽯はその背景を考えるとすごくロマンがある素材ですよね。ただし、使うのなら悪⽬⽴ちするのではなく、素材の表情が素直に引き出すような使い⽅をしたい。⼤理⽯をキッチンに使う場合は、そのようなことを考えながら、周辺の素材やパーツにも留意します」

キッチンはカウンターの上にスチールラックを置かなくて済むように、⼤きめのサイズにつくって、シンク内に⽔切りカゴをセットしている。キッチンがすっきり⾒えるだけでなく、⽔でカウンターが濡れることもなく重宝している。

 

アルネ・ヤコブセン VOLAの水栓

ちなみにキッチンには、VOLA (セラトレーディング)洗⾯室⽤の⽔栓(VL590G 湯⽔混合栓セット)を使っています。

「キッチン⽤の⽔栓って、最近は便利なものがたくさん出てきているけれども、その分サイズ感も重々しい。もうちょっとシンプルかつ⼩ぶりでいいんじゃないか、とも思うのですね。洗⾯室⽤の⽔栓をあえて使っていますが−−キッチン⽤とは⽔量が違うのかもしれません−−必要最⼩限の機能は満たしてくれて、不便を感じたことはありません」

またアルネ・ヤコブセンのデザインも採⽤した理由の⼀つ。「曲線がきれいなんですよね。このLDK は四⾓いデザインが多い空間なので、きれいな曲線でアクセントをつくりたかった、ということもあります」

 

 

#3 IKEAをアレンジしたキッチン収納

コンロはリンナイ。上部の吊⼾棚右⼿にはレンジフードが収まる。レンジフードが隠れることで、キッチンがインテリアとなじむ。

⼤理⽯でラグジュアリーな雰囲気のキッチンですが、「実は引き出しの中⾝はIKEAなんですよ」と笑う古賀さん。

「ふだん収納類は造作しますが、その際、⾦物にはオーストリア製のブルムのレールを使います。開け閉めの気持ちよさがまったく違うんですよ」

そして実はIKEAの引き出しには、このブルムが使われているとか。

「引き出しは前板がない状態で購⼊できるので、⾯材は家具屋さんに床と同じオークで製作してもらい、レールは⾼性能なスイス製。引き出しの中⾝でちょっとだけコストダウンする、という具合です。もちろんIKEAという⼤⼿メーカーならではの良さもあり、中の仕切りやトレーも豊富に選べる。総じて使い勝⼿がいいんです」

⼤理⽯を引き⽴てるために、取⼿には⾦物を使わず彫り込んで、全体のバランスをとっているのもポイントです。

 

 

#4 ⼤開⼝を軽やかにしつらえるスイス製カーテン

軽やかで開放的な既存の開⼝部には、どんなしつらえ(ウィンドウトリートメント)がふさわしいか。
古賀さんが選んだのが、スイスの⽼舗「クリエーションバウマン」のレースカーテンです。

「せっかく開⼝部が広々しているのだから、カーテンもゆったりとさせたいですよね。⽇本製のカーテンだと幅が2.1 メートル程度なので、どうしてもどこかに継ぎ⽬が⼊ってしまう。クリエーションバウマンは3メートルの⽣地をもっていて切り幅が海外基準なので、⼤きな開⼝部でも1枚もののカーテンをつくることができるんです。もちろん⽣地が良質で、ドレープが美しく、縫い⽬も⽬⽴たないところもセレクトの理由です」

もう⼀つ古賀さんが気に⼊っているのが、ヒダ⼭のデザイン。
「通常は3つ⼭、2つ⼭ですが、このカーテンはあえてヒダ⼭が⼀つで⾒た⽬がすっきりするのも気に⼊っているところです。ヒダを重たくはしたくないけれども、フラットにすると⽴体感に乏しい。フラットとドレープの間くらいのニュアンスを出したかったんですね」

通常⼿がけるプロジェクトでも、「kogazo」ではカーテンに⾄るインテリアや、植物までトータルでコーディネートを提案しています。
「カーテンに何を選ぶか、最後に残りがちですが、実はとても⼤切な要素だと思っています」

 

 

#5 職⼈技が宿る鉄製の本棚

開放的なLDK から⼀転、北側にある寝室は、既存のインナーガーデンを活かした落ち着きのある雰囲気の空間です。
⽇陰の庭のウェットな雰囲気を活かすべく、室内の仕上げはドライなモルタル仕上げに。またパイプスペースを利⽤してニッチを設け、そこに厚4ミリの鉄製の本棚を製作しました。

棚の縦板と横板が交錯する部分を溶接にした場合、溶接痕が残ることもあります。また溶接箇所が多いと、熱で伸び縮みして全体のサイズやプロポーションに影響が出てしまうことも。⼀⾒して溶接痕がわからないのですが、どうつくったのでしょう?

「切り⽋きを⼊れて相じゃくりでつくり、いちばん⽬⽴たない箇所をスポット溶接してもらいました。抵抗溶接の⼀種で短時間で接合でき、熱による歪みの影響も受けにくく、薄板に向いている溶接⽅法です」

難しい仕事を引き受けてくれたのは、古くから付き合いのある鉄⼯所。「20年以上⼀緒にやっているので、ちょっと話ながら、そのアイデアいいね、とまとまるんです。ただやはり⾮常に⾼い精度が必要なので、職⼈さんの腕があってこそできた棚ですね」

仕上げは、表⾯は薄くサビのような被膜が張った⿊⽪鉄。光の当たり具合によってほのかに⻘く光り、庭の緑と響き合います。

インナーガーデンは北側で⽇が当たりにくいため、⽇陰でも育ちやすい植物をセレクトし、原⽣林のような雰囲気に。

 

後編に続く

 

〈コラムで紹介したパーツ・建材〉

# 関ヶ原⽯材 アントリーニ|カラカッタヴィオラ

# セラトレーディング|VOLA | VL590G 湯⽔混合栓セット

# ブルム

# IKEA|METOD ベースキャビネット

#クリエーションバウマン|レースカーテン

 

【プロフィール】

古賀 亮平 / KOGAZO

https://kogazo.com/

1980 年福岡県⽣まれ。2003年武蔵野美術⼤学造形学部建築学科卒業。株式会社commdesign、有限会社⽉造を経て、2011年に株式会社古賀造を設⽴。

 


「下⾺のペントハウス」
東京都世⽥⾕区
延床⾯積 99㎡
ルーフバルコニー 152.00㎡
構造規模 築57年・6階建てマンションの最上階
竣⼯年⽉ 2022年4⽉
設計・施⼯ Kogazo