不凍栓メーカーが生み出した、シンプルさを極めた蛇口一体型水栓柱(後編)
鋳物の鋳肌を生かした、竹村らしい製品にこだわる。
―「アクアマール」の前身「ジラーレ」は、廃番になった製品「アクランド」から派生したという流れをお話し頂きました。「ジラーレ」の開発ではどんな苦労がありましたか?
〈清水さん〉 ジラーレの開発が始まると、田中と打ち合わせを繰り返しながらモデルをつくり、月1回のペースでB社さんに通ってアドバイスを受けていました。
そこで頂いた助言を元に形を変え、光造形で再度モデルをつくって…という作業を繰り返して、ようやく現在の形に落ち着きました。
株式会社竹村製作所 イノベーション推進部 Engineering Expert 清水貞治(しみずさだはる)さん。
ハンドルと吐水口、柱の部分で異なる質感にしているのが特徴ですが、鋳物でつくっているザラザラとした質感の吐水口は当時当社が持っていた銅鋳物の工場で製造をしていました。

アドバイザーさんからは「吐水口もハンドルと同じようにツルツルとした仕上げにしては?」という助言を頂いたのですが、うちの技術をできるだけ発揮した商品にしたいという思いがあり、ここは譲れませんでした。
ただ、元々当社が鋳物でつくっていたバルブなどの設備部材は、見た目の美しさはそれ程問われなかったんですが、ジラーレ・アクアマールの吐水口は表面をきれいに仕上げる必要がありました。
竹村製作所の鋳物製品の事例。「不凍バルブTK」。(画像提供:株式会社竹村製作所)
鋳物は鋳型が分割する部分に線が入ってしまいますが、それを研磨できれいに仕上げるには人の手で行う必要があります。しかも、研磨したことが分からないように丁寧に行う必要がありました。
新商品の製造のためには、鋳物部門にこのような手間のかかる加工を協力してもらう必要があるのですが、賛同してもらうのに最初の頃はすごく苦労しましたね。
銅合金の鋳物でつくられた「ジラーレ」「アクアマール」の吐水口。中央部分に現れる線は研磨によってきれいに消されている。
〈田中さん〉 社内で「大して売れる商品にはならないだろう」と思われていたからというのもありますね。開発を行っている我々も、売れるかどうかは分かりませんでしたから。
ちなみに鋳物でもバフ研磨(フェルトなどでつくられたバフを回転させて研磨する方法)をすればツルツルに仕上げられるんですが、当社はその技術を持っていなかったんです。であれば、当社の特徴である鋳肌を生かす仕上げにしたいというのもこだわった理由です。
株式会社竹村製作所 営業本部 市場開発担当課長 田中秀一(たなかしゅういち)さん。
引き算の発想でコストダウンとシンプルさを追求。
―自社が得意とする鋳物の鋳肌を意匠として残す。それによって竹村製作所らしさが表現されたんですね。
〈田中さん〉 ただ、ジラーレ・アクアマールの開発は、私の中では「究極の引き算方式」でもありました。根底にコストダウンの意識があったんです。
開発をする過程でコストアップにつながるかコストダウンにつながるかで迷った時、コストダウンできる方を選んでいってでき上がったのがこの製品です。
パイプも細くしていけば重量が軽くなりますし。さすがにパイプ剥き出しで売るのは難しいので、最低限の外筒だけは付けることにしました。
それに、開発できる期間が短かったため、デザインをこねくり回すこともできなかったんです。結果論ではありますが、振り返ってみればそれも良かったことだったと思います。

―ところで吐水口が水平ではなく、少し角度が付いています。この角度はどのようにして決めたんですか?
〈清水さん〉 水を出した時に下の水受けに納まるちょうどいい角度がどれくらいかを5°刻みで試作し、最終的に15°に決まりました。20°だと水受けからはみ出してしまいますし、10°だと手を洗う時に柱に当たって使いにくいんですよ。

また、吐水口を短くすることでデザイン的なバランスを整え、加工コストも抑えています。
ハンドルもコストダウンの考え方でデザインをしています。何も付いていないツルツルのハンドルが最もコストダウンできますが、それではさすがに回しにくい。それで最低限指が引っかかるように1本だけ引っかかるデザインにしたんです。
発売1年目から人気商品に。シリーズ展開を進める。
―引き算方式で開発したというジラーレ・アクアマール。売れ行きはどうでしたか?
〈田中さん〉 エクステリアメーカーのB社さんのカタログに掲載されたのは、わずか1/3ページだったんです。でも、感覚的にですが初年度からかなり売れました。
そして、これは今後も売れる商品だと思いシリーズ化していくことを決めました。水栓柱でうちが生き残るには、この「蛇口一体型デザイン水栓柱」しかないと感じたからです。
すぐに補助蛇口付きの製品と散水栓型の製品を開発しましたし、初年度はヘアライン・ブラック・ワインレッドの3種類だったカラーバリエーションも増やしていきました。数年前には寒冷地用に不凍水栓柱「アイスマール」も発売しました。
現在のアクアマールのカラーバリエーション。(画像提供:株式会社竹村製作所)
―そのようにしてNoizlessでも紹介している補助蛇口付きの「アクアマールW」が生まれたのですね。
〈田中さん〉 補助蛇口を付ける時、吐水口を回転する機構にしていたことがポイントになりました。補助蛇口は水栓柱に対して右付け・左付けを選ぶ必要があるのですが、吐水口が360°回転するため一つの製品で両方対応できます。


補助蛇口を目立たない後ろ側にして設置を希望されるお客様もいらっしゃいます。
〈清水さん〉 ちなみにこの回転する機構は新しく開発したものではなく、何十年も前から当社の製品で使われていたものなんですよ。

〈田中さん〉 ところでデザインには流行り廃りがあるので、最初の頃は10年でクライマックスを迎えて、その後は横ばいかなだらかに売れ行きが落ちていく想定でした。
しかし、実際には発売から15年になる今もずっと伸びているんです。理由は何だろうと考えていたのですが、15年程前はシャビーなものが流行していましたが、細さと機能性が評価され、近年はシンプルモダンが主流になってきて、再び時代にうまくはまっているのではないかと感じています。
時代が移り変わり、以前はステンレスのヘアライン仕上げが最も売れていましたが、最近はブラックが最も売れる商品になっています。
工場に積み上げられたアクアマールの黒い外筒。
―ちなみにエンドユーザーの方からはどのような声がありますか?
〈井上さん〉 直接ユーザーの方の声を聞く機会というのはないのですが、ECサイトのレビューや、SNSを見ていると「シンプルでスタイリッシュ」といった声が多く見られ、好評であることを感じています。
株式会社竹村製作所 経営企画部 部長 井上敏(いのうえさとし)さん。
「水栓柱」で思い浮かぶ代表的なメーカーになることを目指す。
―では最後に、今後の立水栓開発における展望を聞かせて頂けますでしょうか?
〈田中さん〉 当社以外では蛇口一体型水栓柱というのがまだ少数派なので、もっと普及させていきたいですし、アクアマールを超える製品をつくりたいです。
〈清水さん〉 ジラーレ・アクアマールは、施工性の良さだったり、お客様が求めているものを具現化できたことで受け入れられたと思っています。今後もお客様の潜在ニーズにお応えできるもので、まだ市場にはない製品を開発したいですね。それができれば、結果的にジラーレ・アクアマールを超えるものになると思います。
〈田中さん〉 ニーズに応えた製品として、去年すべて黒で仕上げた「オールブラックシリーズ」を発売し好評を頂いています。黒い外壁の住宅と組み合わせると、水栓柱がほとんど見えなくなるんですね。「水栓柱の存在を消したい」というニーズに応えていく製品も大事だと感じています。
アクアマール オールブラック。(画像提供:株式会社竹村製作所)
〈井上さん〉 住設機器で、トイレやキッチン、エアコンなどは代表的なメーカーさんの名前がすぐに思い浮かぶと思いますが、「庭の水道」と言ったときに代表的なメーカーの名前を答えられる人っていないと思うんですね。その中で、「外の水道と言えば竹村製作所」と思って頂けるような存在になりたいです。

前編・後編の2回に渡ってご紹介させて頂いた株式会社竹村製作所の田中さん、清水さん、井上さんへのインタビュー記事は以上となります。
寒冷地・長野市で不凍栓メーカーとして歩んできた竹村製作所。パイプやバルブ製造の知識や技術を生かしてつくり出した蛇口一体型水栓柱は、機能的でありながらミニマルな美しさを備えているのが特徴です。
頑丈で細いパイプや、360°回転する吐水口などの画期的な機能や意匠には、同社の歴史の中で培われてきたリソースが注ぎ込まれていました。
植栽への水やりや洗車などに使われる屋外水栓柱は、使い勝手を考えると目立つ場所に設置することが多いもの。だからこそ、機能や意匠にこだわって選んでみてはいかがでしょうか?
