建具枠の話
建具枠という部材をご存知でしょうか?
建具枠とは、開⼾や引⼾などの建具を取り付けるために設置される枠で、壁と建具を固定するために⽋かせない部材です。
建具は⽇常的に繰り返し開閉されるため、枠がなければ建具の⼒が直接壁に伝わり、クロスの剥がれ・壁の破損・ドアの傾きなどが起きやすくなります。 つまり建具枠は、建具と壁の間に⼊るクッションのような存在であり、耐久性や快適性を⽀える重要な役割を担っています。
「⾒せる枠」と「隠す枠」
建具枠の意匠設計において私が最も重要だと感じているのは、「枠を⾒せるか」「枠を消すか」というデザイン上の分岐点です。
建具枠には主に「①ケーシング枠」「②固定枠」「③隠し枠」の3種類があり、「枠を⾒せる=ケーシング枠」「枠を消す=固定枠・隠し枠」というように、建設会社や設計者の思想、あるいはお施主様の好みによって選択されています。
額縁のように囲う固定枠
①「ケーシング枠」
「ケーシング枠」は、建具のまわりを額縁のように囲う納まりで、施⼯性とデザイン性のバランスに優れた枠です。
枠に存在感を持たすことで重厚感のあるデザインとなり、空間の中に⽴体的なアクセントやリズムを与えることができます。 また、建築中に壁や下地にわずかなズレが⽣じた場合でも、ケーシング枠で吸収・調整が可能なため、施⼯性の⾯でも⾮常に優れています。
さらにリフォーム時にも、枠をそのまま活かしながら建具の本体のみを交換することができるため、実⽤性も⾼い仕様といえるでしょう。
欧米では重厚感のあるケーシング枠の人気も高い。
デザイン⾯においても「あえて枠を⾒せる」ことで線取効果が⽣まれ、空間を引き締めることが出来ます。また、⼱⽊・廻縁・窓枠と⾊や素材を揃えることで調和された統⼀感を演出しやすく、ナチュラルテイストの住宅をはじめ、北欧・カントリー・アメリカンスタイルの住宅にもおすすめです。
②「固定枠(3方枠 / 2方枠)」
「固定枠(3方枠)」

「固定枠(3方枠)」とは建具の左右と上部の3方向に枠を設け、下部には枠を設けない納まりです。ケーシング枠のように意匠として枠を見せるのではなく、あくまで壁と一体感をもたせる納まりでありながら、3方向の枠があることで建具としての納まりの安定性を保つことができます。
また、下枠がないことにより足元がすっきりと見え、床材と床材の繋がりが生まれるため、空間全体がより広く奥行きを感じられるのが特徴です。さらに、つまずき防止や掃除のしやすさといった実用面でも優れており、近年ではバリアフリー住宅やホテル・店舗などにも多く採用されています。
施工性においても、壁内に納まる固定枠(2方枠)と比較すると、建具の建て付けや微細なズレの補正にも対応しやすい点がメリットです。
枠の主張を抑えつつ、施工精度やメンテナンス性にも配慮したバランスの良い納まりであり、「見せない美しさ」と「使いやすさ」の両立を目指す設計において、非常に有効な選択肢のひとつといえるでしょう。

「固定枠(2方枠)」

「固定枠(2方枠)」とは、建具の左右2方向のみに枠を設け、上枠や下枠を設けずに建具を壁の中にジャストサイズで収める納まりです。
壁と一体となるように収めることで、枠の存在感を極力抑えた洗練された印象に仕上がります。
また、視線を遮る線を極力減らすことで、建具そのものの形状や素材感を際立たせ、天井と床のラインを途切れさせないため、開放感を演出できる納めかたです。
デザイン性を重視しながらも無駄を削ぎ落としたい方にとっては、2方枠は非常に魅力的な選択肢となるでしょう。

枠が主張しない固定枠(2⽅枠)
③隠し枠
「隠し枠」とは、枠を壁の中に埋め込み、外から⾒えないように納める⼿法で、「フルフラット枠」とも呼ばれています。建具と壁が⼀体化して⾒えるため、建具の存在感を極限まで消すことができるミニマルな枠納まりです。

枠が隠れ建具が際⽴つ隠し枠
近年では、シンプルモダンな住宅の需要増加に伴い、「枠を⾒せない」固定枠(2⽅枠)や隠し枠を検討される⽅が増えていると感じます。
しかし、これらの納まりは⾼精度な下地処理や施⼯技術が必要であり、建設会社の監理⼒や職⼈の腕が問われます。 特に隠し枠は、施⼯難度が⾼くコストも上がる傾向があるため、予算⾯と技術⾯の両⾯を検討しながら選択していくことをおすすめします。
「枠」が語る、建築の美学
枠と壁を同⾊にし溶けこむような建具
「建設会社や設計者のセンスは、枠の納まりや⾒付けを⾒れば分かる」
業界内ではよく⽿にする⾔葉です。
⽬⽴たない細部にこそ、建設会社や設計者のこだわりと配慮を感じることができ、どのように納めるか。どこまで⾒せるのか。そこに建設会社や設計者の「ディテールの追求」と「暮らしへのまなざし」が現れると私は思います。
次にドアを開けるときは「建具枠」にほんの少し⽬を向けてみてください。 些細なこだわりが、⽇々の暮らしに豊かさと美しさをもたらすヒントになるかもしれません。
二級建築士・宅地建物取引士・二級FP技能士
1989年生まれ。埼玉県戸田市出身。株式会社おうちLABOにて「建築家とつくる家づくり」をコンセプトに住宅営業がいない住宅会社を経営。自身も建築士として様々なコンテストを受賞しており、デザインと住み心地を追求した住まいを埼玉・東京を中心に展開。建築士が土地仲介からFPまで行う独自のスタイルで延べ1000組以上の顧客の問題解決を行い、住まいのコンシェルジュとしてワンストップサービスを展開中。
株式会社おうちLABO

