暮らしの中の建築パーツ「木・石・金属が融合する美しい住まい」(後編)
『暮らしの中の建築パーツ』第5回目、新潟市秋葉区に暮らすHさん家族のお住まい(設計施工:株式会社あかがわ建築設計室)。後編では洗面台や照明を見ていきます。
造作洗面台は美しいハイバックボウル一体型カウンター
次にダイニングの奥にある1坪の洗面室を見てみましょう。こちらは脱衣室と分けられた空間で、ラワン合板のキャビネットと人工大理石のカウンターを組み合わせた、幅広の洗面台が造作されています。

〈赤川さん〉 カウンター部分はハイバックボウル一体型カウンターDH(吉本産業)で、希望のサイズをオーダーすることができます。ボウル・カウンター・ハイバックが一体になっていてお手入れしやすいのが特徴ですね。
〈奥様〉 すごくお掃除しやすい洗面台ですね。一体になっているので拭きやすいです。
〈ご主人〉 ハイバックになっているので、水がタイルの方までかかることもありません。だいたい水撥ねはこの白い洗面台の部分で納まります。収納スペースは他に十分あるので、鏡にはキャビネットを設けず、大きい鏡を1枚張って頂きました。2人並んで使う時も便利ですね。

タイルはかわいい感じにしたかったので、小さめのスクエアタイル、ソルムス25角(名古屋モザイク工業)を選びました。この家の雰囲気に合わせて色はグレーにしています。

すっきり薄い窓台と、しっかり厚いカウンター
洗面台から少し離れて、洗面室とダイニングの床材が切り替わる場所に着目してみると、そこには鈍い金色の光を放つ線が見えます。

〈赤川さん〉 これは真鍮製の床見切り、装飾見切り材床用(LIXIL)で、よく使っているものです。見付けは3mmですね。それから、巾木は水回り以外は15mm角のオークの無垢材を使っています。これは既製品ではなく、加工してつくっているもので、2mmくらい壁から迫り出すようにしています。

〈ご主人〉 巾木はなじんでいていいなと思いますし、真鍮の見切りもポイントになっていてかわいいですね。
〈赤川さん〉 あと、窓台やキッチンの腰壁の笠木なども加工しているもので、見付けは6mmにしています。薄く見えますが、中の見えない部分は20mmあり、十分な強度があります。


〈ご主人〉 窓台や笠木はもっと厚くぼてっとしているのが普通だと思いますが、これくらい薄いとすっきり見えてきれいですよね。
〈赤川さん〉 ただ、どこでも薄くするわけではなく、棚やカウンターなどは薄いと華奢(きゃしゃ)で不安になってしまうので、そのあたりはしっかり厚く20mmを見せるようにしています。それに、そこに何かを飾ったりする場合にも、台としての存在感はあった方がいいですね。

北欧デザインの照明や、作家作品の照明を随所に
H邸の各所に見られる照明はインテリアのアクセントとしての役割も果たしており、これらの多くはHさん夫婦が選んだものなのだそうです。

〈ご主人〉 妻と二人でお店を回ったり、作家さんの展示会に行ったりしながら照明を選んでいきました。洗面室に吊り下げている白い陶器の細長いペンダントライトは、飛松弘隆さんという磁器照明作家さんのSlim S(飛松灯器)という照明です。
玄関に吊り下げているガラスのペンダントライトは、ピーター・アイビーさんという富山の作家さんの作品で、富山まで行って選びました。

〈奥様〉 このガラスの照明は、外から見た時の雰囲気がすごくいいですね。
〈ご主人〉 それから、寝室のペンダントライトは溶岩を使ったMORE LIGHT(LIGHT YEARS)という照明です。これはインターネットで購入しました。


使いたいペンダントライトがいくつもあったので、ペンダントライトを取り付けられるように引っ掛けシーリングをいろいろなところに設置して頂きました。使う場所を簡単に変えられるのもいいですね。
あと、真鍮を使いたかったので、A05-S-BR(BP.)をリビングや2階ホールに使っています。

ダイニングのペンダントライトはVL45ラジオハウスペンダント(ルイスポールセン)です。

〈赤川さん〉 照明計画についてはHさんご夫婦と一緒に話し合いながら決めていきました。リビングの天井には間接照明を入れていて、それでだいぶ明るくなりますし、FLOSのフロアライト「IC Lights F1」を入れるということでしたので、天井に付けるダウンライトは少なめにしています。

〈ご主人〉 そもそも明る過ぎる空間にはしたくなかったですが、暗いわけでもなく、ちょうどいい明るさになりました。
自然体な暮らしを叶えるために“主張”を消す
Hさん夫婦の希望と赤川さんの感性が融合してつくられた、繊細な美意識が隅々に見られるH邸。赤川さんに設計や建築パーツ選びで大切にしている考え方を聞いてみました。
〈赤川さん〉 でき上がった空間にお施主さんが好きなものを置いて、自然体な暮らしを楽しめることが大事だと思っているので、なるべく僕が設計やデザインをしたことが分からないようにしたいと考えています。
それから、家づくりはプロセスが重要だと思っているので、お施主さんと僕の間で価値観を合わせながら提案をするようにしています。逆に、でき上がるものついては「こうでなければならない」というようなこだわりはありません。
建築パーツ選びにおいては、気張ったものを選ぶというよりは、汎用性が高く、あまり主張しないものを提案することが多いですね。いつでも使えること、コストがあまり上がらないこと、応用して使えることを特に意識しています。

最後に赤川さんとご主人に、自分自身にとってのノイズレスな空間とはどういうものかを教えて頂きました。
〈ご主人〉 家を建てたことによって、好きなものに囲まれて過ごせるようになり、暮らしがより充実するようになりました。何気ないことでも「幸せだな…」と思える今の状態は“ノイズレス”なのかなと思いますね。

〈赤川さん〉 先ほど話したことと重複しますが、そこに住むご家族が自然体で暮らせる状態がノイズレスなんだと思います。そのためにも設計者の存在はなるべく消していきたいと思っていて、笠木の見付けを薄くするなど繊細なところにこだわっています。それは決して気張ってやってるのではなく、主張を消すためにやっていることなんです。

設計者として存在感を主張するのではなく、逆に消していくことに注力する赤川さん。その姿勢によって生まれる空間は、よく澄んだ水のような清潔感が満ちています。そんなH邸の建築パーツについて、詳しく解説して頂きました。
『暮らしの中の建築パーツ』では、今後もオーナー宅を訪ね、建築パーツ選びの背景や思いを掘り下げていきたいと思います。次回もお楽しみに…!
【この記事で紹介した建築パーツ】
耐摩カラーSGL®(日鉄鋼板株式会社)
セラミソフトリシン(エスケー化研株式会社)
ユーロトレンドG(プレイリーホームズ株式会社)
B010LW防湿仕様(タイガランプ合同会社)
真鍮製インターホンカバー(dij/株式会社トヨオカ)
アルミ製フラットバー(株式会社LIXIL)XB−152(リリカラ株式会社)
大谷石表面1級コーピン フラット無地(有限会社山南石材店)
ミズナラプライウッドフローリング(アンドウッド株式会社)
ピエスタLCT58-600(東リ株式会社)
スキスムT(永大産業株式会社)
ラフィス(株式会社LIXIL)
真鍮細ハンドル(有限会社上手工作所)
ミッテ(TOTO株式会社)
把手の金物(株式会社TOOLBOX)
塗装のキッチンパネル(株式会社TOOLBOX)
ハイバックボウル一体型カウンターDH(吉本産業株式会社)
ソルムス25角(名古屋モザイク工業株式会社)
装飾見切り材床用(株式会社LIXIL)
Slim S(飛松灯器)
MORE LIGHT(LIGHT YEARS)
A05-S-BR(BP.)
VL45ラジオハウスペンダント(ルイスポールセン)
IC Lights F1(FLOS)
【DATA】
H邸
新潟市秋葉区
延床面積 109.31㎡(33.00坪)
構造 木造軸組工法
竣工年月 2022年12月
設計・施工 株式会社あかがわ建築設計室
株式会社あかがわ建築設計室
https://akagawa-scot.com/
