【暮らしの中の建築パーツ】生活感を排除したホテルライクなリビング(後編)
『暮らしの中の建築パーツ』第4回目、新潟市秋葉区に暮らすHさん家族のお住まい。後編ではクロスやブラインド、洗面台などを見ていきます。
塗装のように見える、マットで上質感あふれるクロス
次に壁に注目してみましょう。リビングの高窓から入った光が白い壁にあたり、やわらかく反射している様子がうかがえます。
こちらは塗装のような質感のビニルクロスLW4212(現品番:LW-654)(リリカラ株式会社)で仕上げられています。
〈齋藤さん〉 塗装仕上げのように見えるこのクロスは、僕たちがよく使うクロスの一つです。ただ、薄くて施工が難しく、壁の不陸(ふりく=でぼこぼしていること)が強調されやすいです。
柄がないため、補修をすると継ぎ目が目立ちやすいという特徴もあり、実はあまり強くお薦めしていません。
「AEP塗装の質感が好きだけど、コストを抑えたい」という場合に選んで頂くことが多いクロスです。デメリットはありますが、質感がすごくいいんですよね。
〈奥様〉 クロスはこのタイプ一択で悩むことはありませんでした。上質感があっていいなと思いましたし、床が暗めの色なので白を選んで正解でしたね。
〈ご主人〉 住んでみて素敵だなと思いながら見ています。ビニルクロスっぽくないですし、白を使ったことで空間が広く感じられます。
モダンな空間に似合う、白いバーチカルブラインド
リビングの大きな窓の目隠しにはバーチカルブラインドが使われています。
〈齋藤さん〉 大きい窓なので、バーチカルブラインドとドレープカーテンを選択肢として提示しました。このバーチカルブラインドはタチカワブラインドの製品で、布地はエブリ、色はビアンコです。
バーチカルブラインドは種類が豊富なタチカワブラインドをいつもご提案しており、その中から好きな生地感のものを選んで頂きました。
〈奥様〉 カーテンよりも“家っぽさ”が出ないバーチカルブラインドを選びました。大きく開けられて端にすっきりまとめられるのもいいなと思いました。
〈ご主人〉 開け閉めがしやすいですし、棒をクッと回してスラットの向きを変えて簡単に光を入れられるのも便利ですね。
洗面ボウルは機能とデザインのバランスを重視
次に玄関ホールの左手にある洗面スペースを見てみましょう。
メラミン化粧板のカウンターに陶器の洗面ボウルが載った造作洗面台で、1枚物の鏡の後ろに仕込まれた間接照明がホテルライクな雰囲気を演出しています。
〈齋藤さん〉 このボウルはサティス洗面器YL-558タイプ(LIXIL)ですね。置き型の洗面ボウルではこの製品をお薦めしています。海外製でかっこいいボウルもあるんですけど、浅型で使いにくいものがあるので注意が必要です。
これは見た目がシンプルですし、十分な深さがあります。シャワーホース付きの水栓がセットになっていたり、ボウルの両サイドにコップを置けたり、機能性が考えられているのも特長ですね。
〈奥様〉 洗面台は2人で立てるスペースがあり、ホテルのような非日常感があるものにしたいという要望をお伝えして齋藤さんにご提案を頂きました。
〈ご主人〉 シンプルできれいですし、大きめのボウルとシャワーホース付きの水栓は髪を濡らす時も使いやすいです。
あえて巾木や笠木を付けないという選択
次に見切り材などのディテールを見てみましょう。玄関の上がり框のところにアルミ製のアングルが使われているのが見えます。
〈齋藤さん〉 この家は床のほとんどが同じフロアタイルで仕上げられているので、床見切りはあまり使っていません。玄関の上がり框や、階段を上り切った2階の床のところにアルミ製のアングル不等辺(創建)を使っているくらいですね。
あとは、今回はHさんご夫婦のご希望で、巾木のない仕上げにしています。
僕たちは基本的には巾木を入れるのですが、ご要望があれば巾木のない仕上げも対応します。巾木があることで壁が傷付くリスクを抑えられますし、施工性も上がりますが、選択肢としてどちらも選べるようにしていますね。
窓台はそこに物を置くかどうかで、付けるかどうかを判断します。今回のLDKのハイサイドライト(高窓)の場合は、そこに物を置くことは少ないと考えて窓台は省略しています。
今回は2階の階段横の腰壁の笠木も省略をしました。
笠木も巾木と同じように傷から守るためのものですが、ここではよりシンプルに見せたいと思い、笠木を使わずにクロスだけで仕上げています。
それによって線が減りきれいに仕上がりますが、やり過ぎると緊張感が出てしまいます。どれくらい線を減らすか?というのはバランスがとても大切です。
〈奥様〉 巾木については、家っぽくなるのが嫌ですべてなしにして頂きました。お掃除ロボットがぶつかって傷が付いたりするのかな?と心配はしていたんですが、全然傷が付いていないですし、特に汚れるということもなく、なしにして良かったです。
生活と調和するシンプルな空間を目指す
Hさん夫婦が望んだ「家っぽくない家」。それは、旅先で感じるような非日常感を体験できる家であり、齋藤さんの細やかな設計によって叶えられました。
齋藤さんは設計や建築パーツ選びでどんなことを大事にしているのでしょうか?
〈齋藤さん〉 建築のデザインをする上ではノイズレスなデザインというのは常に意識していることです。それから、うちは奇抜なデザインにしようとしていると思われがちなんですけど、街並みに対して調和する建物、敷地と生活が呼応できる建物にしたいと考えて設計をしています。
それは内部のデザインや建築パーツも同じことで、生活と建物が調和するように、空間は極力シンプルであることを心掛けています。
最後に齋藤さんとHさん夫婦に、自分自身にとってのノイズレスな空間とはどういうものかを教えて頂きました。
〈奥様〉 生活感がなく、非日常を感じながら過ごせる空間でしょうか。帰ってくるとリラックスできてリセットできる。私にとってはそんなイメージの空間です。
〈ご主人〉 僕もそういう感じですね。この家に住みながら毎日リゾートにいるような感覚があります。庭でバーベキューをしたり、子どもと雪遊びをしたり、ギターを弾いたり。ゆったり伸び伸びと暮らせることがノイズレスなのかなと。
〈齋藤さん〉建物や空間、それを構成する要素というのは生活の“背景”だと思っています。そこに生活する人が入った時、背景として違和感なく空間が調和している状態。それがノイズレスな空間だと考えています。
日頃からノイズレスなデザインを意識して建築の設計を行っている齋藤さんと、リゾートのように伸び伸びとリラックスできる場所を求めて家づくりをしたHさん夫婦。イメージを重ね合わせながら丁寧に選んでいった建築パーツの数々やディテールの考え方について解説して頂きました。
『暮らしの中の建築パーツ』では、今後もオーナー宅を訪ね、建築パーツ選びの背景や思いを掘り下げていきたいと思います。次回もお楽しみに…!
【この記事で紹介した建築パーツ】
耐摩カラーSGL®(日鉄鋼板株式会社)
ジエスタ2(株式会社LIXIL)
セランガンバツ
アイアン階段(溶融亜鉛めっき仕上げ)
LYT-83443(現品番:LYT-84149)(リリカラ株式会社)
メトロポリタンウオールナット(安多化粧合板株式会社)
キッチンパーツ各種(株式会社TOOLBOX)
LW4212(現品番:LW-654)(リリカラ株式会社)
バーチカルブラインド(立川ブラインド工業株式会社)
サティス洗面器YL-558タイプ(株式会社LIXIL)
【DATA】
H邸
新潟市秋葉区
延床面積 87.58㎡(26.49坪)
構造 木造軸組工法
竣工年月 2022年12月
設計・施工 株式会社Ploot
株式会社Ploot
https://ploot.jp/