【イベントレポート】Session Tokyo (中編)「kitokitoの家づくり -考え方-」

Noizlessを運営する森田アルミ工業が主催する新しいイベント「Session」。その第1回が、6/28(金)に渋谷区神南のSLOTH galleryにて開催されました。「Session」では建築業界の第一線で活躍するプロフェッショナルをお招きし、住宅や建築についての考え方をお話し頂きます。

今回は広島県福山市の設計事務所「kitokito」の代表、大町知己(おおまちともみ)さんをお招きしました。

イベントレポートの中編では、kitokito大町さんが手掛けた2軒の建築事例についてご紹介します。

 

あえて垂れ壁をつくり、外の光を際立たせる

〈大町さん〉はじめに、先日台湾の建築雑誌に載った建物を紹介します。

会場にいるみなさんには平面図をお配りしていますが、建築って面白くて、平面図だけでは分からないことがいっぱいありますよね。3次元のものなので断面の感覚が重要になるからです。

その上で、僕がやっている建築の手法を紹介します。

高さで言えば、ちょっと低い、低い、ちょっと高い、高い、すごく高い。光は、かなり明るい、明るい、ちょっと明るい、少し暗い、すごく暗い。これらの微妙なことを表現する。それだけです。

こちらの写真を見てください。

HOUSE F(写真提供:kitokito)

 

この家は、玄関ホールの引き戸を開くと、正面にリビングの大きな開口部が見えるんですよ。

実はこの建物の周りにはマンションがいくつも建っていて、上から見られやすい立地です。そこでサッシの高さを1,650mmに抑えています。

本当はもっと低くしたかったんですけど、キッチンから外のゴミステーションに短い距離で行くために毎日ここを通る必要があるので1,650mmにしました。1,650mmというのは、奥さんがギリギリかがまずに通れる高さなんですね。

それから垂れ壁。「窓は天井高と同じ高さにしましょう」という考え方もありますが、僕はけっこう垂れ壁が好きなんですよ。垂れ壁があることでそこに影ができ、その影が外の光をフィーチャーさせるからです。

大町知己さん(kitokito 代表) 1974年広島県福山市生まれ。日本文理大学建築学部卒業。大手ハウスメーカーを経て、2009年「Tamada工房」 入社後、常務取締役として立ち上げに参画。2015年、社内ベンチャーとして「kitokito」を立ち上げ、地元福山市やその周辺で設計施工を行う他、全国各地の工務店と連携し設計業務を行っている。三男の父。

ここにもし垂れ壁がなかったら、抜け感がありすぎるなあと思い、グッと下げることにしました。

それから、中央の窓の先に見えるコンクリートが奥へと出っ張っているんですけど、これはリビングに入って来た時にスーッと外に目線が行くことを意図してつくったものです。

先ほども話しましたが、やはり「何のためにするのか?」というのが重要ですね。

 

 

視線を誘導するため、壁や天井にアールをつくる

〈大町さん〉リビングに入ってすぐのところは、天井高を低くしています。たしか2,180mmくらいだったと思いますが、いったんそこで絞ることで、その先の空間のボリューム感を強調しています。

HOUSE F(写真提供:kitokito)

ちなみに、そこの天井部分の真上は2階のデスクになっていて、壁の出隅の部分にはアールをつけています。

なぜ直角ではなくアールにしているか?その理由は、直角だと自分の方に刺さってくるような印象になるからですね。「刺さってくる。痛そう」と感じてしまうと、人はそっちを見られなくなるんですよ。そうならず、流れるように視線を誘導したかったので、アールにしています。アールにすることで、光と影のグラデーションができるのも特徴ですね。

「アールにするとおしゃれだよね」と言われますが、おしゃれのためにやっているわけではありません。

 

 

自然が好きな方のための、山を望むリビング兼玄関ホール

〈大町さん〉次にご紹介するのは、こちらの平屋の家です。

ちょうど発売したばかりの『別冊太陽 -小さな平屋に住む 海や山、森のそばで-』にも掲載されています。

駅家の平屋(写真提供:kitokito)

 18区画ほどの団地の中なんですけど、僕がお客さんにこの土地をお薦めしました。自然が好きな方だったので、自然と共に暮らせるように…と思い、唯一山が見えるこの区画を選んだんです。

このお客さんは当初は土地を譲り受ける予定だったんですけど、事情があってそれができなくなり、新たに土地を買うことになったという経緯があります。土地を購入することで家に掛けられる予算が減ってしまったことから、家を小さくする必要がありました。

先程の写真は、玄関とひとつながりのリビングから見た景色です。玄関ホールをつくらないことでコストを抑えています。

 

 

光と影のレイヤーで空間に奥行をつくり出す

〈大町さん〉下の写真は、そのリビングからダイニングキッチンを見たところですが、「開口部の奥に何が見えるのか?」を意識して設計しています。

駅家の平屋(写真提供:kitokito)

僕は設計をする時に、奥に何が見えるのかを意識していますが、それはある建築家の方から指摘されたことがきっかけでした。

僕は大学を卒業後、現場監督や営業マンをやってきたので、実は35歳で初めて建築の設計をしたんですよ。周りはみんな設計事務所を経て独り立ちを始めている頃なので、すごく遅かったんです。それで、いろいろな建築家の先生がやっている建築塾に行って勉強をしていました。

泉幸甫さんや堀部安嗣さん、伊礼智さん、横内敏人さんなど、有名な方がやっている建築塾に通ったんですね。

何年か前に通っていた建築塾で、先生にコテンパンにされたことがありました。ある程度kitokitoも知られるようになり自信がついていた頃でしたが、その時に言われたのが「あなたの建築には奥行がない」ということでした。

それがとてもショックで、それから1年間は「奥行とは何か?」を勉強させてもらいました。

で、その「奥行」で大事なことが何かというと、空間の奥に見える光だと僕は考えるようになりました。

そうして僕は建築をレイヤー分けするようになります。レイヤーとは、光のレイヤーです。断面で見ると、明るい場所と暗い場所のレイヤーができているんです。

明るい所があって、次に暗い所があって、また明るい所がある…。その光のレイヤーが続いていくことで、空間に奥行感が生まれる。この平屋の家は特にその光のレイヤーを意識して設計しています。

 それから、僕は図面を描く時に必ず寝かせるようにしています。一度描いたら少し寝かせると直すべきところが見えてきます。それで、毎日描いては寝かせ、描いては寝かせを繰り返すんです。

それは「本質」を探す時間でもありますし、そこから目をそらさずに悩む時間を経ることでいいデザインが生まれると考えています。

ちょうど時間になりましたので、私の話は以上となります。今日は設計の方が多くいらっしゃるということで、明日からの設計活動に少しでも参考になったらうれしいです。

ありがとうございました!

 

イベントレポートの中編はここまでです。次回の後編では、森田アルミ工業の宇野より、住宅設計に役立つ同社の製品を詳しくご紹介します。

後編はこちらから→ 

 

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