【イベントレポート】Session Tokyo(後編)「森田アルミ工業 -創造性を掻き立てる建材を目指して-」

Noizlessを運営する森田アルミ工業が主催する新しいイベント「Session」。その第1回が、6/28(金)に渋谷区神南のSLOTH galleryにて開催されました。「Session」では建築業界の第一線で活躍するプロフェッショナルをお招きし、住宅や建築についての考え方をお話し頂きます。

今回は広島県福山市の設計事務所「kitokito」の代表、大町知己(おおまちともみ)さんをお招きし、このイベントレポートの前編・中編では、大町さんの住宅設計の考え方と設計事例について紹介をしました。

後編では、森田アルミ工業の宇野健太郎より、これからの住宅設計に役立つ森田アルミ工業の製品についてご紹介します。

  

社内の設計事務所から、新たな建材のアイデアが生まれる

〈宇野〉今日は当社内の設計事務所「レクト設計室」の一級建築士 内藤正宏がお話をする予定でしたが、体調を崩してしまったということで、代打で私からお話をさせて頂きます。

宇野 健太郎 (森田アルミ工業・研究開発部 営業2部 常務取締役) 大阪の一風変わった集合住宅『都住創』で幼少期を過ごす。2005年 東北芸術工科大学(山形)現プロダクトデザイン学科卒。同年から都内の建築設計事務所で不動産を経験。2007年 森田アルミ工業株式会社入社。入社以来、森田アルミのデザイン全般を担当。2015年に東京オフィス、2020年レクト設計、2022年にNoizlessを立ち上げに参画。

 

まずレクト設計室についてですが、以前、森田アルミ工業のお客さんとして設計事務所に所属していた内藤に「森田アルミの中で設計事務所をやってもらいつつ、設計士が求めている建材を一緒に開発したい」と言って口説き、2019年に加わってもらったことが始まりです。

写真右がレクト設計室の内藤正宏。中央が森田アルミ工業 代表取締役社長 森田和信、左が宇野健太郎。

レクトは「お客さんが持っている世界観を大事にしよう」という理念でやっています。設計側の考えを押し付けるのではなく、お客さんがやりたいことをきちんと表現してあげる、という姿勢で、当社の建材と同じ考え方です。

建材メーカーである当社が設計事務所をやっている意義を聞かれた時、私は「自動車メーカーの中のレーシングチームのようなものです」と説明しています。

レーシングカーという極限のコンセプトを具現化することで生まれた技術が、一般向けの自動車作りに生かされるのと同じように、自社の設計事務所が設計を突き詰める中で、新しい建材のアイデアが生まれてきます。 

なので、はじめに内藤には「レクトは森田アルミ工業の建材を使う設計事務所ではない。ただ、使わない時の理由を教えてもらいたい」と伝えてスタートしました。

当社で内藤は「建材デザイナー」と「一級建築士」という2つの肩書きで仕事をしていて、年間数百~数千の住宅に使われる建材開発に携わりながら、レクトの建築士として年間5~10棟の住宅の設計に携わっています。彼自身その働き方を面白いと感じているようです。 

 彼が入社してから、主になって開発に携わった商品が6商品あり、それ以外の商品開発にも間接的に関わっています。

今日は「森田アルミ工業がどんなことを考えて建材をつくっているのか?」というテーマで、内藤が準備していた資料をお見せしながら、お話させて頂きたいと思います。

 

 

効率重視から、喜びを生み出す建材へ

〈宇野〉まずはこちらのビーバーの巣の写真をご覧ください。ビーバーは近くの枝などを集めてきて自らの巣をつくります。「近くにあるものでつくるビーバーの巣は、家の根源である」と内藤は話していました。

次に西アフリカにあるドゴン族の家の写真を見てください。こちらは屋根があって壁があって開口部がある。これも近くにある材料で、最小限の道具を使ってつくる原始的な家です。この時点では、これらの家をつくる材料は「建材」と呼ばれていないと思います。

次の写真は東京国立博物館の敷地内にある九条館です。こちらは、柱や梁、縁側や襖、軒や瓦などいろいろな部材に分かれています。ただこの時代も、それらの部材を「建材」とは呼んでいなかったと思います。材料は基本的に、木、石、土などシンプルなものだからです。

それと比較するものとして、こちらに現代の住宅地の写真があります。時代が進み、戦後の人口増加の中で家づくりが産業になったことで、ハウスメーカーさんや私たち森田アルミのような建材メーカーが生まれ、現在に至っています。

 家づくりが産業になったことで、住宅の環境はものすごく良くなったと思っています。先ほどの日本家屋だったら冬は絶対に寒いし、夏は暑い。一方、今の住宅は高気密高断熱なので、冬暖かく夏涼しい。火災にも強いし設備も充実している。ものすごく大きなベネフィットが得られたと思います。

でもその一方で、失われたこともあるんじゃないかなと感じている部分もあります。産業になったことで「いかに早く、安く、誰にでも施工できるか?」が求められ、我々もそれを後押しするような建材をつくれば売れる時代が一定期間続いたのかなと思います。

結果として、使い手である設計士のみなさんや大工さんを受け身にさせてしまってるんじゃないかな…?と感じていて。つくり手の創造性やつくる喜びをもっと大事にした建材づくりを改めて考えていきたいなと思っています。

 

 

便利なだけでなく、心の琴線に触れる物干しヒモを目指す

〈宇野〉ここから当社の具体的な製品を挙げながら、建材についての考え方を紹介したいと思います。はじめにこの写真をご覧ください。

これは「pid 4M」という室内物干しワイヤーで、私が入社して初めてデザインを担当した商品です。

究極的に物を干す時に必要なのは、この商品ではヒモの部分だけ。でも、物干しをする度にヒモを取り付けるのは面倒です。それで、必要な時だけヒモを出せるようにしています。

そして、便利なだけでなく、日々の生活の中で「この物干しがあって良かったな…」と思って頂きたいと思っていて、先ほどの日本家屋のように、心の琴線に触れるような何かがあるデザインを目指して開発を行いました。 

 

 

開口部の意味を強調させるための窓枠

〈宇野〉次にご紹介するのは極薄窓枠「fitframe(フィットフレーム)」です。

お施主さんや設計者の方々の創造性を掻き立てる建材をつくっていきたいという思いで近年開発した商品の一つです。

この商品は見付けを4mmにした窓枠で、「面ではなく線に見えること」を目指して試作をしていました。それは6mmでも5mmでもできなくて、4mmにした時に初めてイメージしていたことが実現できたんです。

そもそも私たちは窓枠をつくりたかったのではありません。窓というのは外の景色や空気、光を採り込むためのもので、その根源的な意味を主役にするために、枠の存在感を消したかったんです。

材質は、オレフィンシートとMDFと耐水パーチクルボードなので、現代の工業製品の組み合わせなんですけど、その先の、人を豊かにするものをこれで表現したいと思っていました。

下の写真の窓を見て頂くと、4方をクロス巻きや塗装で仕上げたように見えます。

次の写真はブラックのサッシに合わせて、黒いfitframeを窓台にだけ使っています。

この細さでなければ表現できない表情だと思いますし、ここが細くなければ空間全体の印象がだいぶ変わってしまったのではないかと思います。

 

 

施工性の課題をクリアした最小のT字床見切り

〈宇野〉次にアルミの床見切り「keid(ケイド)」を紹介します。これは今年の2月に発売したものです。

内藤は普段Lアングルやフラットバーを床見切りに使っていて、それをみなさんに広げたいと思っていました。でも、当社の営業のメンバーと一緒にいろいろな住宅会社さんにヒアリングをしていると、「設計が使いたいと思っていても、品質や施工性の問題で採用が難しい」という声が聞こえてきました。そのことを真摯に受け止めながら、なんとか細い見切りを実現できないかと考え、“最小のT字”に辿り着きました。

大工さんに「どうやって施工するんですか?どんなことに困っていますか?」と聞いた上でつくり上げたものです。

施工性を高めるためにTになっているんですが、上から見た時に本当に細いラインだけが感じられるようにしたくてこのような形状にしました。

 

 

家具職人の技術でつくる突板の極幅フローリング

〈宇野〉そして、今日一番見て頂きたいのが、こちらの幅303mmの極幅フローリング「BAYS WOLD(ベイス ウォールド)」です。

「森田アルミがなんでフローリングやねん?」という声も頂きますが、私たちとしては家全体をアップデートしていきたくて、チャンスを見い出せればチャレンジしていこうという精神でフローリングをつくりました。

シンプルであることがすべてではありませんが、今はシンプルな空間が求められる流れがあります。その中で「フローリングは縦にも横にも張り合わされてうるさく見えるんじゃないか?」という問題提起からスタートしました。

それに対して、幅が広く、長く、定尺のフローリングであれば、広がりがあってノイズが少ないのではないか?と考え、極幅フローリングの開発に着手しました。

ちなみに300mm幅のフローリングは既に世の中にありました。しかしそれは多くが挽き板(厚さ2~3mmに挽いた板材)でできているもので、大きい面が取りにくいために多くは乱尺になりますし、価格も超高級です。

そこで、低価格まではいきませんが、「超」を取って、高級フローリングくらいの価格で実現できないかと思いBAYS WOLDをつくりました。

ところで、内藤は奈良の慈光院というお寺が好きで、慈光院に使われている幅広の板を使った床の写真を用意してくれていました。お寺や神社では、その地域で採れた一番大きい材木を使って床を仕上げていたりすることから、幅広の床は日本人の原風景にある素材なのだと内藤は考えています。

慈光院・奈良

ただ、住宅でそのような使い方をしてしまうと、「どれだけ木を伐るんだ?」という話になってしまいますので、表面には0.3mm厚の突板(つきいた)を使用しています。

家具職人さんの技術を使って板目と柾目の境界が分からないようにつなぎ合わせて303mm×1818mmの大きい面をつくることにしました。1枚ものがあったり、2~3枚をつなぎ合わせたものがあったりしますが、それを混ぜ合わせることで自然に感じられるようにしています。

複合フローリングなので床暖にも対応していますし、施工もかなりしやすいです。種類は、オーク、アッサム、ウォルナットの3種類。

アッサムは樹種名で言うとメープルですが、このシリーズの中にラワン合板のような“板っぽい表現”のフローリングを加えたくて、木目が薄いメープルに着色したものをつくり、紅茶のような色味であることからアッサムと名付けました。

ところで「こういう幅広は大空間で使うものなんでしょ?狭いところで使うとおかしくなるんじゃないの?」という質問を頂きますが、そんなことはありません。

上の写真は、廊下に使ったものですが、ここで幅広のフローリングを使うことで、部屋のように感じられる空間ができ上がったと思います。

 

施主とつくり手の創造性を掻き立てる建材を目指して

〈宇野〉私からの話は以上になります。当社では「かつてないものを生み出す」という目標が開発陣に課されていまして、それを実現するために日々奮闘しています。

そして、お施主さんとつくり手の方々の創造性を掻き立てるような建材、「これを使ってこういう空間をつくってみたい!」と思って頂けるような商品を生み出していきたいと考えています。

また、森田アルミの営業は、商品を案内して売るだけでなく、住宅業界のみなさんの声を聞くことを大事にしています。それが新しい商品開発の出発点になるからです。

建材や住宅について住宅業界のみなさんと一緒に考える場を設けたいと思い、今日この「Session」というイベントを開催しました。ぜひこれからもみなさんと一緒に考えながら、いい家づくり、建材づくりをしていけたらと思っております!

本日はありがとうございました。

 

以上、前編・中編・後編に渡って「Session」のイベントを記事化してご紹介させて頂きました。住宅と建材についてを考える森田アルミ工業の新たなイベント「Session」。次回の開催もお楽しみに!