【イベントレポート】Session Tokyo (前編)「kitokitoの家づくり -考え方-」
Noizlessを運営する森田アルミ工業主催の新しいイベント「Session」。その第1回が、6/28(金)に渋谷区神南のSLOTH galleryにて開催されました。「Session」では建築業界の第一線で活躍するプロフェッショナルをお招きし、住宅や建築についての考え方をお話し頂きます。
今回は雑誌『Noizless Vol.2』の巻頭特集でご紹介した広島県福山市の設計事務所「kitokito」の代表、大町知己(おおまちともみ)さんをお招きしました。
kitokitoはインスタグラムのフォロワー数11万人(2024年6月現在)を誇る設計事務所で、「自分らしい暮らし、新しい日常」をテーマに年間8棟程度の住宅を手掛けています。
kitokitoのHP
そんなkitokitoの大町さんに、住宅設計の考え方や設計手法について解説頂きました。また、これからの住宅設計に役立つ森田アルミ工業の製品について、同社の宇野健太郎(森田アルミ工業・研究開発部 営業2部 常務取締役)より解説を行いました。
前編・中編・後編の3回に渡るイベントレポートをご覧ください。
雑談から生まれる、ストーリーのある住まい
〈大町さん〉広島県福山市というところで建築をやっています大町です。
僕が建築の考え方で大事にしていることは、師匠から教わったことなんですが「あなたが一生懸命きれいな家をつくれば、必ずその町はきれいになる。その町がきれいになれば、日本は必ずきれいになる」という思想です。
なので、一棟一棟丁寧にその人のことを考えて、きれいな住宅をつくりたいという気持ちで設計をしています。
大町知己さん(kitokito 代表) 1974年広島県福山市生まれ。日本文理大学建築学部卒業。大手ハウスメーカーを経て、2009年「Tamada工房」 入社後、常務取締役として立ち上げに参画。2015年、社内ベンチャーとして「kitokito」を立ち上げ、地元福山市やその周辺で設計施工を行う他、全国各地の工務店と連携し設計業務を行っている。三男の父。
僕らが1年間に建てられる棟数は8~9棟ですが、それぞれのお客様との打ち合わせは1年半くらい。丁寧につくりたいということもありますが、それ以上に、僕はその人のことを知りたいと思っているからなんです。だから、毎回打ち合わせはほぼ雑談です。
いつも最初の打ち合わせでは「(ご夫婦が)どうやって知り合ったんですか?」という質問から入ります。
それに対してお客様から「バーで出会いました」という答えが返ってきました。話を聞いていく中で、お二人ともお酒が好きだということが分かり、その夫婦の家には、庭が見えるバーをつくりました。
ただ、カウンターが1枚あるだけなので、そこはもしかしたらデスクになるかもしれません。でも、そこにあるストーリーが大事で、それを聞くことでその人の家ができると思っています。
大切なのは欲しいものリストではなく、どんな暮らしがしたいのか?
〈大町さん〉それから、今の人たちは何を求めているのか?というのをよく考えています。
例えば「高気密高断熱の家に住みたい」という声をよく聞くんですけど、本当にそう思っているのかな?と感じることがあります。
もっと掘り下げていくと、その人は「今よりも幸せになりたい、豊かになりたい」と思っているんじゃないかな?と。順番としては、その後に「高気密高断熱」があると思っています。
だからkitokitoでは、「どんな暮らしがしたいですか?」と聞くようにしているんです。
この写真は先日引き渡しをしたお宅です。
浦崎の家(写真提供:kitokito)
ご主人が美容師さんで、奥さんは元々ご主人のお客さんでした。
実はちょっとしたことで、家を建てる時にこの夫婦は喧嘩をしてしまったんです。その後にご主人が奥さんに謝りながら「僕は新しい家であなたの髪を切ってあげたい。今の僕にはそれしかできない」と言ったそうです。
それで僕は、リビングの土間の薪ストーブの前で髪を切るという贅沢な時間をつくってあげたいと思いました。それがこの夫婦のストーリーだと思ったからです。
「掃除がしやすいように、床から一段下がった土間にしましょう。庭を眺められた方が気持ちいから掃き出し窓にしましょう」。夫婦のストーリーからこのような提案が生まれ、建築がつくられていきました。
逆に、何のために土間をつくるのか?何のために薪ストーブがあるのか?の「何のために?」がないと設計者は困るんですよ。
時々、僕のところに「こういう家をつくってくれますか?」というメールが届きます。そこには、欲しいもののリストが書かれていますが、ストーリーがありません。そうなると僕は図面が描けないんです。だから必ず来て頂いて雑談をするようにしています。
他社と違うもので、自分たちじゃないとできないものをつくる
〈大町さん〉ここからちょっとブランディングの話をしようと思います。
『「売る」から、「売れる」へ。 水野学のブランディングデザイン講義』という本を僕は参考にしてきました。この本を読み、経験を通して分かったことは、「売る」よりも「売れる」方がラクということでした。
「売る」のが大変なのは、お客さんを説得し納得させようとするからです。一方、「売れる」ものをつくると自然にお客さんが来てお願いをされるようになります。
だから、お客さんが欲しいと思うものをつくればいいだけなんです。本当にそれだけ。それなのに、どうにかして売ることを考えていくからややこしいことになるんです。
そこで大事なのが差別化です。
差別化とは、他社と違うもので、自分たちじゃないとできないもの。つまり“らしさ”ですね。その“らしさ”というものがブランディングだと思っています。
「どうやってkitokitoのブランドをつくったんですか?」とよく聞かれます。
それに対して「僕はやさしい建築をつくりたいんですよ」と答えています。夫婦喧嘩をすることすらもバカらしくなるような、根本的に穏やかな建築をつくりたい。そして、そういうものを僕はできると思っている。それが僕のブランディングです。
さっき「kitokitoさんの住宅の写真を見ていると、人が写っていないのに人の気配がしますね」と言われたんですが、これは僕にとって本当にうれしい誉め言葉でした。
宮浦の家(写真提供:kitokito)
設計をする時、僕はお客さんのストーリーを聞いてから図面を描きますが、常にその図面の中にはお客さんがいます。この人はこんな笑い方をする、この人はこんな動作をする…。常にそこにいるんですよ。僕にとっての建築設計は映画の絵コンテをつくる感覚に似ています。
そういった“らしさ”をつくることで、他社とは違う自社のブランドがつくられていくのだと思います。
イベントレポートの前編はここまでです。次回の後編では、kitokito大町さんが手掛けた設計事例について詳しくご紹介します。
kitokito
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