控えめだけど目を引く。情感あふれるオーストラリア生まれの塗料(前編)
「作り手の気持ち」第5回目は、1982年にオーストラリアで生まれた塗料「PORTER’S PAINT(ポーターズペイント)」です。日本においては川崎市高津区溝口にある株式会社NENGO(ネンゴ)が総代理店となり、2001年に輸入販売を開始。現在は、北は北海道から南は沖縄まで、30以上の販売代理店のネットワークを構築しています。
今回のインタビューでは、ポーターズペイントの歴史や特徴、壁をセルフペイントする文化や価値観まで、ポーターズペイントジャパン(株式会社NENGO)の山口さんと渡辺さんに伺いました。
ゴミを出さずに塗り重ねていく塗装の文化を広めたい。
――はじめにNENGOさんでポーターズペイントを取り扱い始めた経緯を聞かせて頂けますか?
〈山口さん〉私たち株式会社NENGOは「100年後の街つくり」を目指している会社で、不動産や建築、街つくりなどの事業を行っています。元々はオリエンタル産業株式会社という社名で1983年に創業し、当初は主に耐火被覆工事を事業の主軸にしていました。
その後、代表の的場が「30年ごとにスクラップ&ビルドを繰り返す日本の住宅を変えるために何ができるだろうか?」と模索を始め、その中で壁を塗装する文化に出合います。
塗装であれば自分たちで家の補修ができ、楽しみながら愛着を深めていけますし、その結果、家が長持ちするようになるのではないか?と的場が考えたことが始まりでした。
的場が世界中の塗料を探す中で、最も品質がいいと感じたのがオーストラリアのポーターズペイントです。その後、オーストラリアに行って直接交渉し、当社で取り扱いをさせて頂けることが決まりました。そして2001年にポーターズペイントの輸入販売を行う日本総代理店になりました。今から22年前のことです。
ポーターズペイントのオーストラリアスタッフ来日時の集合写真(2022年)
ただ、当時は今以上に住宅の内装にビニルクロスが使われていた時代です。ほとんどがビニルクロスだったのではないでしょうか。「日本でこのような塗料は売れないよ」とも言われていて、実際に8年くらいは利益が出ない状態が続いていました。
それでもこの塗料はとてもいい商品だし、それを日本に広めていくことが自分たちのやるべきことだという想いで続けてきました。今もまだまだですが、最近になって少しずつ建築の設計の方に知って頂けるようになってきたように感じています。
山口円さん(PORTER'S PAINTS JAPAN ブランド統括マネージャー・カラーコンサルタント) 美容業界に携わったのち、ペイントのできる賃貸情報サイトを当時運営していた株式会社NENGOに2007年に入社。日本全国36か所の代理店とともに事業を展開。
――利益が出なくても信念を持って続けてこられたのですね!
〈山口さん〉ビニルクロスはどうしても使い捨てになってしまいますが、塗装であればゴミを出さずに塗り重ねていけます。そして、子どもが成長したタイミングで別の色に塗り替えたりしながら、想いを持って家と付き合っていけるのも塗装ならではだと思います。
オーストラリアでは塗装が暮らしの中に浸透していて、街に靴屋さんがあるようにペイント屋さんがあって、そこにみんなが塗料を買いに行くんですよ。日本より休みも多いので、「今年はどの部屋を塗り替える?」など家族で話し合いながら定期的に塗り替える文化を持っています。
日本ではクロスの汚れや傷が増えてもそのままにされがちで、我慢できないくらいに劣化してからようやく業者さんにクロスを張り替えてもらうことが多いと思います。そして、新しく張り替えた部分だけがピカピカして目立ってしまう。一方ポーターズペイントは新しく塗っても空間になじみますし、暮らしを“重ねていける”というのが魅力ですね。
絵画と建築修復の技術が融合した、質感あふれる塗料。
――オーストラリア生まれのポーターズペイント。どんな歴史を持った塗料なのでしょうか?
〈渡辺さん〉ポーターズペイントの歴史は、画家のピーター・ルイスさんが建築家の祖父フレッド・ポーターさんの日記を見つけたところから始まります。その日記には、ヨーロッパの建築の修復技術が書き留めてあったそうです。ピーターさんが画家として培ってきた顔料の知識と、祖父ポーターさんの石材や木材の修復技術を掛け合わせてつくったのがポーターズペイントなんです。
渡辺あづささん(PORTER'S PAINTS JAPAN カラーリスト) アパレル業界に携わる中で『衣』から『住』にも興味をもつようになり2016年に株式会社NENGO入社。自宅や店舗の壁にペイントを希望する方のカラーコーディネートやペイントレクチャーの案内をメインに行う。
顔料だけでなく、石などの素材を組み合わせているのがポーターズペイントの特徴で、そこにポーターさんの建築修復の知識が使われています。それによって色だけでなく質感も付与された塗料ができ上がりました。
今から40年ちょっと前の1982年のことです。はじめはガレージで製造していたそうですよ。
――確かに独特の質感がありますが、それは石などが混じっているからなんですね。
〈山口さん〉粉末にした石英や石灰などの素材が混じると、テクスチャーが現れます。他のメーカーさんの塗料はローラーで塗り、色や艶をいかにきれいに見せるか?というところに注力されているものが多いですが、本物の素材を多く加えているのは、ポーターズペイントならではです。
このテクスチャーは、石や金属など計20種類以上あります。ポーターズペイントはAEP(アクリルエマルションペイント)塗装の一種ですが、塗装でも左官でもないような、その両方の良さをを掛け合わせたした意匠性の仕上げです。
このテクスチャーを表現するために欠かせないのが専用の刷毛。ハリとコシのあるブタの毛からつくられています。
16色の顔料を使い、空間になじむ色をつくり出す。
――色の数はどれくらいありますか?
〈渡辺さん〉カラーカードにしている基本の色で350色近くありますし、組み合わせ次第で無限につくることができます。ちなみに、一般的に色見本は印刷されたものが多いですけど、本当の色を見て頂きたくて私たちのカラーカードは一色一色塗っているんですよ。
色は番号ではなくすべてネーミングされている。「Dusty Mule(ほこりまみれのラバ)」「Sydney Harbour(シドニーハーバー)」「Himalayan Salt(ヒマラヤの塩)」などの味わい深い名前は、オーストラリアの専任スタッフが考案しているのだそう。人気が高いのはグレー系の色。
元になる顔料を16色そろえているのも特徴です。多くの塗料メーカーさんは8色くらいの顔料から2~3色を選んで色をつくりますが、私たちは16色の顔料から平均して4色くらいを使って調色をしています。
建築修復技術の考え方がベースにあり、石や土、木などの自然素材になじむことを大事にしているため、茶系の顔料が豊富です。どの色にも必ず茶系の顔料を加えていて、それによって深みを付与しています。
〈山口さん〉ポーターズペイントは発色よく見せるのではなく、“全体調和”という考え方を大事にしており、その特徴を説明する時に「鮮やかだけど落ち着いた」「控えめだけど目を引く」という表現をよく使っています。
ちょっと鮮やかな色を塗ったとしても、目が痛くなるとか主張するとかではなく、「濃い色でもなじむ」というのがポーターズペイント固有の色味であり素材感なんです。
- 前編はここまでです。次回の中編では、調色のこだわりやセルフペイントについて詳しくご紹介します。
→コラム:控えめだけど目を引く。情感あふれるオーストラリア生まれの塗料(中編)はこちら