性能を高めながら、存在感を消していく。ミニマルさを追求した水切り&換気材(中編)

城東テクノ株式会社の西岡さんと吉冨さんへのインタビュー。中編では「WM防鼠付シャープ水切り」の開発秘話について伺います。

 

お客様からの「水切りをもっと細く」という要望に向き合う。

──存在感をほとんど感じさせない「WM 防鼠付シャープ水切り」。この製品を開発することになった経緯を教えて頂けますか?

〈商品企画チーム・西岡さん〉元々当社では水切り製品をいくつも扱っていて、シェアもそれなりに取れていました。そこで、今後さらにシェアを拡大していくには、どういう製品が必要か?を考えていたんです。その中で私たちが着目したのが、水切りをより目立たなくすることでした。

近年の住宅は、機密性や断熱性能が向上した一方で壁内部の湿気が溜まることが大きな問題となっていました。その解決策が壁内部に通気層を設ける「通気工法」です。現在多くの住宅で採用されている通気工法は、通気の出入り口に「通気部材」と呼ばれる雨や虫を入り込ませないパーツを取り付ける必要があります。その通気部材の代表が「土台水切り」です。土台水切りは家の土台部分(基礎)付近に取り付けられ、外壁を伝った雨水を基礎から切り離して地面に落としてくれると共に壁と床下に風を通してくれる 1人2役の優れた通気部材です。

それで、数年前に通常の見付け幅30mmの水切りよりも目立たない見付け幅18mmの「WM防鼠付スリム水切り」を発売したんです。しかし、この製品の売上は伸び悩んでいて、お客様からは「もっと細くしてほしい」という声を頂いていました。

一体どこまで細くしたら受け入れてもらえるのだろう…?と悩む中で、企画チームのメンバーから「いっそ見付け自体をなくしてしまったらどうか?」という発言があり、挑戦することにしました。

最初に開発部門の吉冨さんにプロトタイプをつくってもらい、それをお客様に見てもらうと「すぐにでも欲しい!」という声を多数頂き、正式に開発をスタート。中には「価格が23倍になっても使いたい」というお客様もいらっしゃいました。2020年の年末頃の話です。

ちなみに、水切りの存在を消したいと考える住宅の設計者に話を聞くと、性能を度外視して水切りをなくすように納めたり、現場作業者が苦労しながら目立たないように施工をしたり、性能が分からない特注品を使ったりしていたことが分かりました。

新しく開発する水切りは、それらの課題も解決できると思いました。

 

──見付けをなくすという大胆な発想から始まったのですね。開発ではどんなことがポイントになりましたか?

〈開発部・吉冨さん〉見付けをなくすことは一見簡単に思えますが、性能を確保することを考えるとかなり難易度が高いです。例えば、水が切れるように斜めになっている部分の傾斜を急にすれば性能は確保しやすくなりますが、あまり急勾配にすると部材が目立ってしまいます。

「デザイン的にどこまで許されるのか?」というせめぎ合いがあり、そのバランスを検討するために1度刻みの試作品をいくつもつくり比較をしていきました。最終的に決まった開き角度は107度。既存製品の101.5度よりも少し傾斜は強くなっていますが、ちょうどいい落としどころでした。

 

鋼板の折りの工夫で、厳しい性能試験をクリア。

──まさに性能とデザインのせめぎ合いですね。他に開発で苦労したことはありますか?

〈吉冨さん〉既存製品では通気穴を水切りの裏側に配置していましたが、シャープ水切りは構造上それができません。通気穴を正面から見える位置に付けざるを得なかったんです。そうすると暴風雨で正面から吹き込んでくる雨水が、既存製品よりも穴の中に浸入しやすくなります。

弊社の試験では、水を水平方向から吹き付けて暴風雨のような状態を再現します。それで基礎側に水が入らないかどうかを確認するのですが、通気穴の奥の形状を工夫することで既存製品と同等の性能を確保することができました。

その秘密は、水切り下部の折り曲げ部分にあります。通気穴の内側に水が入ったとしても、その先に流れていかないように、折り曲げた鋼板で水を止めるようにしました。折り曲げ部分は、なるべく空気の流れを阻害せず、水を止めるのに適した角度にしています。そうして滞留した水は、あふれる前に水抜き穴から外に流れ落ちていきます。

  

出幅5mmという業界の慣習を超えていく。

──今年1月に満を持して発売した「WM 防鼠付シャープ水切り」。お客様の反応はどうですか?

〈西岡さん〉評判はとてもよく、「展示場や高級物件に使うよ」という話を何件も頂いています。この製品を発売したのを機に、これまで当社の水切りを採用頂けなかったハウスメーカーさんから問い合わせを頂けるようにもなりました。コンセプトが尖った商品がお客様にしっかり刺さっていると感じています。

ところで、「水切りの出幅は5mm外側に出す」という業界内の慣習がありますが、この製品は水切りの存在を消すのがコンセプトで、外装材から引っ込んでいても性能的な問題がないことを確認できています。そうすることで、「水切りの色を外装材の何に合わせるか?」という打ち合わせを減らし、設計業務の効率化にも貢献できるようになりました。

デザイン・性能の両方が優れた製品ができたと思いますし、既存の慣習を見直すこともできたのかなと感じています。それらの価値が評価され、2023年度のグッドデザイン賞を受賞しました。

WM防鼠シャープ水切りのグッドデザイン賞受賞ページはこちら

 

──「WM 防鼠付シャープ水切り」の今後の展開について教えてください。

〈西岡さん〉当社は機能性を第一に考えて製品を展開してきたのですが、それゆえに意匠性を重視する住宅会社さんとの接点があまり多くありませんでした。シャープ水切りはそのようなお客様向けに開発をした製品ですので、採用を頂けるようにしっかりと情報を届けていきたいですね。

あとは、サイズ展開や、同じコンセプトを持つ水切り以外の部材の展開も考えているところです。

 

- 中編はここまでです。次回の後編では、「鋼板製 軒天換気材(軒ゼロタイプ 破風レス対応)」「WM垂れ壁用スリムオーバーハング」について詳しくご紹介します。

→Noizless  WM 防鼠付シャープ水切り製品ページはこちら

→コラム:性能を高めながら、存在感を消していく。ミニマルさを追求した水切り&換気材(後編)はこちら

 

西岡 京介
城東テクノ株式会社
営業統括部門 マーケティング部
戦略企画課 商品企画チーム 主任

吉冨 賢治
城東テクノ株式会社
営業統括部門 商品開発部
商品開発二課 課長