手づくりor工業製品、論争
りんご箱は手作り品か工業製品か
「りんご箱」って知っていますか?大きさは約60cm×約30cm×約30cm程度の木材でできた箱。ダンボール箱などなかった時代、りんごの出荷用に使われ、明治時代にはすでにサイズも40斤(約18kg詰め)用に統一されていました。
現在、中古のものはアンティークとして、また新品のものもたくさん売られており、インテリアのアイテムとして人気です。なんと言っても、木の風合いと手作り感、クラフト感が魅力ですよね。
規格が統一されていて、何個も並べたり重ねたりできる点も魅力。これって工場である程度、いっきに生産しているんだと思います。ある意味、りんご箱も工業製品と言えるのではないでしょうか。
キッチンを改めて眺めてみよう
ここで、ご自宅のキッチンを少し眺めてみてください。お気に入りのキッチンツールもあれば、安いから買った調理器具、ただただ必要だから置いてある掃除用具、様々かと思います。これを「手作り品」か「工業製品」かに分けることはできるでしょうか。電子レンジなどの家電は工業製品ですよね。食器は手作りっぽい陶器もあれば、ガラス食器は工業製品のような気もします。
つまり手作り品と工業製品をどちらかにキッチリ分けることは難しく、その境界はとても曖昧であることがわかります。
クロス職人の技
家全体もそうなんです。例えば、壁の仕上げ、ビニールクロスのお家も多いかと思いますが、この製品自体は工業製品と言えそうですが、実際に壁に1枚1枚貼っているのはクロス職人さんです。人の手で貼ったとは思えないほどキレイに仕上がると、ある意味味わいは感じられませんが、ニュートラルな生活の背景になっています。
壁の仕上げも様々です。部屋に合った色と質感を塗ることができるペインターさんも、鏝1つで壁一面を仕上げてしまう左官屋さんも、すごいですが、クロス職人さんも同じくすごい手に技を持っています。
日本初のユニットバスに見る味わい
ユニットバス、これは住宅の中でもザ・工業製品の類かと思います。ご存知でしょうか、ユニットバスは日本が発祥であることを。
現在につながるFRP製のユニットバスは、日本で開発されました。1964年の東京オリンピックを控え、急ピッチで建設が進められていたホテルニューオータニで、導入されたのが最初と言われています。
画像が、そのホテルニューオータニのユニットバスですが、今から見ると程よく味わいがあるデザインと色調ではないかと思います。タイル仕上げのような目地も少なく、日々のメンテナンスや清潔感の面でも、水廻りをユニットでつくることにはメリットがあります。
現代のユニットバスは、色からミラーのデザインから照明の種類まで、あらゆる部分に多くのオプションが用意されており、工場生産のシステマティックな面をフル活用しながら、各顧客ごとの希望を反映した一品生産的な製品展開ができている点、ユニットバスの新旧を紐解いただけでも、改めて手作り品と工業製品の境界設定の意味の無さを感じます。
人より大きなものは案外少ない
人間が買うもので、人よりも大きなものは案外少ないです。車などの乗り物か、一部の家具・家電、そして家などの建築物になります。車も家具・家電も工場から移動ができるのですが、家は、その場でつくっていくものである点が決定的に異なります。
結果的に家づくりは素材を張って、部材を取り付けてと、多分に手作り的要素が含まれざるを得ない存在なのです。多くの工業製品の集合体でもあり、その場に1つ限りの究極の手作り一品モノでもあります。
家を自然素材でなるべくつくりたい、もしくは完璧なスマートハウスにしたい、目指す方向性としては、わかりやすい2極ですが、前述の通り、家そのものが工業製品的な面があり、かつ手作り品的面もあるため、いずれかを突き詰めるのは大変な道のりとご理解ください。
改めて工業製品と手作り品はそもそも境界が曖昧であることを再認識の上、両方の要素が混ざり合うことを前提に、家づくりは楽しむ方が得策かと考えます。