【パーツ探訪】山田悦子さんに訊く「凛として可憐に。暮らしを引き立てるノイズレスな背景」後編

建築パーツや建材を切り口に、建築家の設計哲学を浮き彫りにする「パーツ探訪」。後半は、建築家の山田悦子さんに前編でご紹介したリノベーション物件のパーツについてお話をうかがいました。

前編はこちらから→

 

#6 木のやさしい質感をまとったアルミルーバー

玄関を入った正面ホールには、縦格子状のルーバーを設けています。使用しているのは、TOPPANの「フォルティナ ルーバーストリンガータイプ」。木のように見えますが、下地はアルミで、表面に木目シートを施したもの。無垢材のルーバーは、反りや割れ、経年による変化が出やすいこともあります。そこで今回は、木目のやわらかな表情を取り入れながら、寸法が安定し、メンテナンスもしやすいアルミ下地のルーバーを選びました。

もう一つ山田さんが気にしたのが、固定部の見え方です。メンテナンスのためには、ルーバーを取り外せるようにしておく必要があります。一方で、取り外せる納まりにすると、フタや固定部材のラインがどこかに出てきます。そこで、正面から見たときにそのラインが目立たないよう、どちら側をきれいに見せるかまで工務店と相談しながら詰めていきました。

アルミ基材に木目調の化粧シートを施した内外装不燃アルミ意匠材、「TOPPAN/フォルティナ ルーバーストリンガータイプ」。専用の取付部材を使ってルーバーを一定のピッチで納めるストリンガータイプでピッチに合わせた加工が可能。

 

 

#7 グレーの壁を端正に引き締める、アルミの見切り

玄関からホール、リビングダイニングの壁には、濃淡のあるグレー系のクロス(紙布織物)を2種類貼り分けています。

「このクロス自体はテクスチュアがあるので、 “ノイズレス”ではないタイプだと思うんです。けれども、アルミの見切りを入れることで、落ち着きや陰影が出て、少しやさしい雰囲気に持っていけると思いました」

壁全体を単色で仕上げると、のっぺりとした印象に。そこで今回は、柄のあるクロスをツートーンで使い、境目に細い見切りを入れることで、壁面にすっとラインを通しています。

「最初は塩ビの見切りにしようかと思っていました。でも工務店さんから、塩ビは将来的に欠けたり曲がったりする可能性があるので、ラインをきれいに出すならアルミのほうがいいと言われて。結果的に大正解でした」

アルミは塩ビに比べて線がシャープに出やすいだけでなく、欠けや曲がりの面でも強い。細い見切りをまっすぐ通すには施工精度も求められる。また、アルミのエッジの面を取り、やわらかな印象を出す工夫も。クロスは旭興「NR9061/NR9063」を採用。引手にはAgahoの「429 Pull」を使っている。

 

 

8 ガラスらしさを抑えた、モノトーンのガラス引戸

ホールとLDKの間には、軽やかさのあるガラスの引戸を設けています。グレーの壁となじんでいますが、ここにもさまざまな工夫が施されています。

採用したのは、Raikiのガラス引戸。フレームの色やガラスの種類、中桟の有無や位置などオーダーメイドでつくることができます。今回は、壁の見切りと同じく、フレームをアルミ色でそろえました。

また、ガラスにもひと工夫施し、乳白シートを貼っています。

「普通の乳白ガラスを使うと、ガラス本来の緑色を拾ってしまうので、ブロンズガラスに乳白のシートを貼り、インテリアの色の統一感を出しています」

 

 

9 空間にしっくりなじむ、建具まわりのパーツ選び

空間の統一感を図るうえで、小さいけれども全体の印象を左右するのが、建具まわりのパーツです。パーツ単体の存在感を抑えるのではなく、あくまで大切なのは機能性と全体のバランス。愛用しているものを紹介してもらいました。

まず一つが、WESTのAgaho「192 Door Knob」という丸ノブです。

「横のラインを生かしたいときに横のバーをつけると、ガチャガチャしてしまいますよね。そんなときは、この丸ノブを使っています。壁面の中に小さな点として納まり、連続するラインを邪魔しません。シンプルで、見た目に軽やかな雰囲気にもなる。それでいて無垢なので手に取ると程よい重厚感があり、チープに見えないのが気に入っています」

収納扉には、KAWAJUNのライン引手「PA-31-S」を用いています。扉面に大きな取っ手を付けるのではなく、縦の細いラインとして納めることで、収納を壁面の一部のように見せています。

「こうした納まりにすると、収納に見えず、壁が連続しているような印象になります。取っ手をアルミできれいに納めて、すっきり見せるというのがいいですね」

 

 

10 廊下の壁とフラットに連続するドアの工夫

廊下は個室のドアや収納扉が並び、ラインがたくさん出てしまうことも。ここで山田さんは、そうしたドアや扉と廊下の壁面をシームレスに見せる工夫を施しています。

「個室や収納扉などの枠や戸当たりのラインがどうしてもノイズになってしまいます。それが嫌だったので、ドアノブもなくして、押して開けられるようにしています」

ドアノブまわりのクロス汚れを防ぐため、手が触れる部分にメラミン化粧板を採用。通常の枠が目立たないよう、見える側だけ約4mmのアルミ枠で納め、水平のラインがきれいに通るようにしている。

扉の上部には、コンシールドタイプのドアクローザーを採用す。押して開けた扉は、手を離すと自然に閉まるため、廊下側に通常のドアノブやラッチを出す必要がありません。扉を閉める機能を確保しながら、廊下側から見える金物の存在感を抑えています。

一方で、ドアクローザーを設けた扉は、閉まろうとする力がかかるため、開けるときに少し重たく感じることも。そこで室内側には、Tformの固定引手「PBT20V」を採用しました。

「小ぶりな金物を使ったこともあるのですが、扉が重たく感じるんです。これくらいしっかりしたものを、ぐっと握れるほうがいいなと思っています」

以前は、丸ノブ型の金物を使ったこともあったそうです。ただ、ドアノブに見えると、実際には引くだけの扉でも、つい回そうとしてしまうことが。

「他の扉ではガチャガチャできるのに、ここだけできないとなると、感覚的に迷ってしまいますよね。万が一のときに、開け方がわからなくなる可能性もあります。やはり感覚的に使えるものにしておくことが大切だと思っています」

個室のクローゼットには、LIXILの既製建具「ラシッサ」を採用。通常の折れ戸では、壁、扉、扉、壁……と面が細かく分かれて見えやすいため、壁を薄くつくり、扉を前にかぶせるように納めている。既製品を用いながら、閉じたときには建具だけが連続して見えるようにした。

 

 

カタログをめくりながら目を養う

山田さんのお話を聞いていると、建築から家具、パーツまでが、等しい密度と熱量でシームレスに紡がれていく印象を受けます。

日本とオランダで建築を学び、現地の設計事務所でリノベーションの仕事に携わったという山田さん。日本に戻ってきた頃、まだ新築を中心とする価値観が強く残っており、主にリノベーションを手がけながら、建築とインテリアの領域を行き来するように自分の仕事のあり方を探ってきたといいます。そして独立したての頃、楽しかったのは、パーツのカタログを眺めることだったそう。

「当時は時間がたくさんあったので、一日中カタログを見ていたんです。この金物とこの金物は何が違うんだろう、とか。そういう違いを見るのがすごく楽しくて。その頃の蓄積が、今に生きていると思います」

わからないことがあればメーカーに電話し、確かめる。そうして得た知識が、今では設計の引き出しになっているといいます。

「金物一つとっても、ここにボードが来たら最終的に何ミリ見えるんだろう、とか、そういうところまで気になってしまうんです。また、一見似ていてもメーカーさんが違うものとして出しているからには、きっと何か意図があるんだろうなと思ったり。そんなことを繰り返しているうちに、ここではこれを使おう、と直感的に出てくるようになりました」

こんなことをしてみたい、と思ったとき、どうパーツを組み合わせれば実現できるのか。現場で職人さんたちと相談しながら、定番のアイテムやディテールが生まれてきたといいます。

「長年お付き合いしている工務店さんの度量もすごい。今回、クロスの壁に使っているアルミの見切り材は、そのままだと緊張感が出てしまうから、と、面を取ってくださっているんです。一歩先を見てくださる工務店さんと仕事ができるのは、とてもラッキーなことだと思っています」

一歩先を見る、というまなざしは、使い勝手やメンテナンスにも通底します。

「やはりそうして住まいのことをきちんと考えておくと、ディテールとしては難易度が高くても、結果としてやさしいディテールになると思うんです」

最近はデジタルカタログが主流になってきましたが、やっぱり好きなのは紙のカタログ、という山田さん。

「紙のほうが、次のページが見たい、と気持ちが浮き立つんです。新しいパーツがたくさん登場していますが、またゆっくり向き合う時間をつくりたいですね。ただ、大切なのは、最適な取捨選択をする編集能力だと思います。それとプランニング。そこは、建築家の職能として腕を磨き続けておかないといけないと思っています」

 

 

山田さんにとって、ノイズレスってなんですか?

「私にとってのノイズレスは、住まい手の生活の背景になるうえでのあり方でしょうか。できるだけ美しい背景を、住まい手に提供したい。その方がもっている調度品や家具、そしてその方自身が映えるために、きれいな背景をつくりたい。だから、ロゴひとつ取っても気になってしまうのかもしれません」

けれどもそのこだわりは、工芸品のような緊張感を醸し出すものではありません。ディテールこそミニマムに見えるものの、白くドライな空間を目指しているわけではない、と山田さんはいいます。

「住宅なのでリラックスできる空間のほうがいいですよね。今回も材料自体はさまざまな種類を使っていますが、色のトーンを合わせたり、まとまりをつくることでノイズが少なく見える。一貫したルールをもってつくった住まいは心地が良くて、住み始めてからどんな家具をもってきても、楽しんでいただける背景になると思っています」

「こうしたものがあるといいな、と思っているのが、凛とした感じや可憐な感じ。美しくて、でも儚い感じもある。華やかで、押し付けがましくないけれど、ちゃんと芯がある」

なぜそう思うようになったかは、自分の設計のルーツを遡ってもわからないけれど……と笑う山田さん。

「今はInstagramなどで、住まい手の方もいろいろなデザインやパーツを見ることができますよね。もちろん建て主の方が思い入れをもって『これを使いたい』と持ってこられることも、住まいづくりとして自然なことだと思います。

ただ、そうしたものをたくさん集めただけでは、やはり住まいとしてまとまらない。建築家の仕事としては、それらをきちんと編集して、ひとつの住まいとしてお客さんに提供することだと思っています。建て主の方がやりたいことと、こちらの提案力や受け止める力を重ねながら、まとめていければと思っています」

 

 

〈このコラムで紹介したパーツ〉

TOPPAN|フォルティナ ルーバー ストリンガータイプ

旭興|蛍薄石 NR9061/NR9063

Raiki|Slide Door

WEST|Agaho 192 Door Knob

WEST|Agaho 429 Flush Pull

KAWAJUN|レール引手 PA-31-S

Tform|PBT20V 固定ノブ(面付)

LIXIL|ラシッサ 室内ドア・引戸

 

【プロフィール】

山田悦子 / アトリエエツコ一級建築士事務所

広島工業大学環境学部卒業後、1998年、オランダ・アムステルダムのthe Berlage Institute Amsterdamに入学。1999年よりmoriko kira architectに勤務し、2007年に東京でアトリエエツコ一級建築士事務所を設立。2017年、株式会社アトリエエツコ一級建築士事務所に改名。

https://a-etsuko.jp/

 

 【DATA】

東京都港区
専有面積 171.50㎡
構造規模 SRC造(一部RC造)、地上8階地下1階建のマンションの一室
竣工年月 1999年8月 
リノベーション竣工年月 2025年10月
設計 アトリエエツコ一級建築士事務所/山田悦子
施工 株式会社翔洋
企画 R100 tokyo/株式会社リビタ