【パーツ探訪】山田悦子さんに訊く「凛として可憐に。暮らしを引き立てるノイズレスな背景」前編

「凛としていて、美しくて、でも儚い感じもある。押しつけがましくないけれど、ちゃんと芯がある。そういう感じを出したいのかもしれません」

こう語るのは、アトリエエツコ一級建築士事務所を主宰する建築家・山田悦子さん。

山田さんが設計する空間には、端正でありながら、心が弾むような魅力があります。その印象をつくっているのは、目に触れるもの・手に触れるものへの極めて細やかな感度。単にノイズを減らすことではなく、住まい手の持ち物や暮らしの所作が自然に映える場をつくるという考え方が、独特の美しい空間をかたちづくっています。

[プロフィール]山田悦子 / アトリエエツコ一級建築士事務所
広島工業大学環境学部卒業後、1998年、オランダ・アムステルダムのthe Berlage Institute Amsterdamに入学。1999年よりmoriko kira architectに勤務し、2007年に東京でアトリエエツコ一級建築士事務所を設立。2017年、株式会社アトリエエツコ一級建築士事務所に改名。

 

今回紹介するのは、港区赤坂にある既存マンションの一室を、株式会社リビタが展開する住まいのブランド「R100 tokyo」の住戸としてリノベーションしたもの。

約170㎡のマンションリノベーションで、日々の暮らしを営むだけでなく、ゲストを招くことも想定し、細やかな配慮がなされています。インテリアは、アルミ、ガラス、木などさまざまな素材を使いながら、グレートーンを基調とした、穏やかで落ち着きのある印象に。キッチン、水まわり、照明、建具や金物などのディテールから、山田さんの設計哲学を探ります。

 

 

#1 機能性を担保しつつ、家具のように見えるキッチン

約40畳のリビングダイニングキッチンには、L字型のオープンキッチンに加え、約4畳のパントリーとサブシンク付きの作業台を計画しています。キッチンは調理のための作業場であると同時に、LDKの中心にある大きな家具のような存在です。シンクやコンロだけでなく、冷蔵庫や家電、ゴミ箱、パントリーといった生活感の出やすい要素をどう納めるか。さらに、勝手口から荷物を搬入できる動線も確保しながら、キッチンまわりがすっきり見えるように計画しています。

「ダイニング側のカウンターは、天板より10㎝高く立ち上げ、作業している手元がダイニングから見えないようにしています。キッチンでも落ち着いて作業ができますし、カウンターを上げることで、コンセントを納めることもできます」

ステンレスの天板とシンクは、松岡製作所によるもの。金型ではなく手仕事で制作しているため、オーダーの自由が利くのもメリットです。

「サイズも自由ですし、オプションで洗剤やスポンジを置けるボックスを付けたり、リブを付けてパネルを置けるようにしたり、いろいろなつくり込みができます。一体成形でシームレスなので、掃除もしやすいです」

天板は、「ステンレスホットバイブレーション」という表面加工を採用。一般的なステンレスのようなギラつきがなく、白っぽい落ち着いた表情で、キッチンの設備感が抑えられます。

「少しアルミっぽい、白っぽい表情も出るんです。汚れや傷が目立ちにくいですし、熱にも衝撃にも強い。やはり、使ううえでストレスが少ないものがいいと思っています」

ステンレス天板は、松岡製作所の「ホットバイブレーション」仕上げ。自然冷却された材料を削らずに用いることで表面が硬く、傷がつきにくいとされる。表面には細かな凹凸があり、傷が連続して見えにくいのも特徴だ。ステンレス特有のギラつきを抑えた、白っぽく落ち着いた表情も山田さんの好み。今回は厚さ5mmを採用し、小口の見え方もシャープに仕上げている。

 

レンジフードは、アリアフィーナの「Center Federica」。標準色は白・黒・ステンレス色の3種類からなるラインナップですが、今回はインテリアに合わせて白を選んでいます。

「ステンレス色だと拭いたときのムラがつきやすく、なにげにそれがストレスになることも。インテリアとの相性にもよりますが、白はお掃除がラクですよ、とおすすめしています」

キッチンカウンターや側板には中外交易のクォーツ系素材「Ultrathin Quartz ラスティ」を採用キッチンの設備感を抑え、家具のような雰囲気をもたらす。

 

調理用の熱源は、IHとガスコンロを組み合わせています。

「IHで煮込み料理をして、コンロは炒め物など火力重視で使う。大きめのキッチンになってくると、そういう使い分けを希望される方もいらっしゃいます」

リンナイのドミノ式コンロシリーズから、1口ガスドロップインコンロ「RD311G10S3」、2口ガスドロップインコンロ「RD321G10S3」、2口IHクッキングヒーター「RKD321G10S3(A)」を組み合わせた。ガスとIHを横並びにでき、調理に合わせて熱源を使い分けられる。

 
床に置くと生活感が出やすいダストボックスは、ビルトインにして、ハーフェレ・ジャパンの「Hailo Euro Cargo」を採用した。分別用のコンテナも納められる。フタ上を収納スペースとして使えるのも特徴。

 

ちなみに、キッチンの近くにはミニシンク(トヨウラ)も設けています。コーヒーメーカーや家電まわりの作業、ちょっとした水仕事に使える補助的なシンクがあることで、ハレとケのように使い分けができ、メインキッチンを整然と保てます。

 

 

#2 ロゴを隠す、水まわりのノイズレス

「ノイズを消して、モノ自体が自己主張しすぎないようにしたいんです」

そう語る山田さんは、水まわりのプロダクトを選ぶときにも、ロゴの見え方まで確認しています。

 トイレの手洗いには、AQUAPIAの「ERA 40 置き型洗面器」を採用。ベッセル型の洗面器で、トイレの手洗いとしてはゆとりのあるサイズです。

 「すっきりしていて可愛らしいのと、きちんとした大きさがあるのがいいですね。ベッセル型の手洗いは、小さいものを選ぶと水が跳ねることもあるのですが、これくらいのサイズが欲しいので、洗面用を使っています」

 一方で、山田さんが気にしたのが、正面に入るロゴの位置でした。器そのものの形が気に入っていても、ロゴに視線が引っかかると、水まわり全体の見え方に影響します。そこで今回は、正面からロゴが見えない向きにレイアウトをしています。

400mm角のベッセル型のAQUAPIA「ERA 40 置き型洗面器」。高さのある深型のフォルムと、5mmのスリムエッジが特徴で、器のような存在感を持つ。トイレの手洗いとしては十分な大きさがあり、水はねのしにくさも選定のポイントに。


「メーカーさんには、ごめんなさい……と思いながら、ロゴが見えないようにレイアウトするよう、指示を図面に入れています。鏡越しにはロゴが見えるのですが、それくらいノイズを消して主張させたくないんです。けれども、良いデザインは見る人が見ればメーカーがわかるので、わざわざロゴを入れなくてもいいんじゃないかなあ、とも思うのですが(笑)」

 

 

#3 ロゴよりも隠したいオーバーフロー穴

洗面所のボウルにも、同じ考え方が通底しています。ここで採用しているのは、CERAの洗面ボウル「VB5A7760R」。

ただ、ここではメーカーのロゴが見えていますが……。

「工務店さんからも、“ロゴが見えて大丈夫ですか?”と聞かれるのですが、私の中で優先順位があるんです。ここで見せたくないのは、水があふれるのを防ぐためのオーバーフロー穴ですね」

Villeroy & BochのArchitecturaシリーズのアンダーカウンター型洗面器。630×430mm、実容量9.2L、深さ125mmで、オーバーフロー付き。カウンター下に納めるタイプのため、洗面まわりをフラットに見せられる。

「どうしてもオーバーフローの穴って汚れてくるんです。毎日使っていて、汚れたものを見ながら顔を洗うとストレスになりますよね。たまに業者さんで、オーバーフロー穴は水栓側にあるもの、という先入観で、本来は手前側に穴があるボウルを逆側に取り付けるケースもあるのですが、排水まわりの構造と合わなくなってしまうので、直してもらうようにしています」

最初からオーバーフロー用の穴がないタイプを使うという選択肢に関しては、

「洗濯物を浸け置きできるほうが便利なので、オーバーフローの穴はあったほうがいい。その上で、見えずに機能を満たせればと考えています」

 

 

#4「通るだけなら十分」から生まれた、引き算のフットライト

山田さんの考えるノイズレスな空間は、照明計画にもみられます。

廊下には、人感センサー付きのフットライトを採用。今回は「あえて暗い廊下にしよう」と考え、必要な扉や収納の前などにダウンライトを入れつつ、通行時は足元の光で足りるように計画しています。

「基本的にはダウンライトを点けていなくても、今回はフットライトだけで十分だろうと判断しました。人感センサーになっているので、夜中でも日中でも、通るだけならこれでいいのではないかと思っています」

以前は、廊下の用途やシチュエーションに合わせて、明るいバージョン、暗いバージョン、夜中にトイレへ行くときのフットライトなど、照明デザイナーと細かく照明シーンを考えていた時期もあったそうです。

しかし、引き渡し後にその住まいを訪れたとき、住まい手は日中もフットライトだけで過ごしていたとのこと。

「いろいろなプログラムをつくっていたにもかかわらず、日中もフットライトで過ごされていて。なんだ、フットライトだけで事足りるんだ、と思って、今回試みてみました」 

 

 

 #5 スイッチを壁のノイズにしないコントローラー

照明計画で山田さんが気を配るもう一つの要素が、スイッチです。今回のようにLDKが広いと、それだけ照明の数も多くなることに。それぞれ単体のスイッチで操作しようとすると、あちこちにスイッチが煩雑に取り付き、ノイズとなってしまいます。

「スイッチをどこにつけるか、そして、どこに隠しながらも使いやすくするか、ということは常日頃から考えています」

そこで山田さんが採用したのが、Panasonicの「リビングライコン」です。

ダイニングの外に取り付けた子機。
できるだけ天井を高く開放的に見せるために折り上げ天井を採用。折り上げ部分に間接照明を入れることで、直接的なスポットライトやダウンライトを増やさなくても部屋全体に明るさを確保でき、天井面も美しく見せられる。将来的に照明を追加できるよう、引っ掛けシーリング用の配線は用意してある。

 

複数の照明をまとめて操作し、生活シーンに合わせた明るさを登録できる住宅用照明コントローラーで、山田さんも以前から用いているもの。最大6シーンまで登録でき、間接照明だけの落ち着いた明るさ、食事や作業に向く明るさなど、過ごし方に合わせて光を切り替えられるようにしています。

「一括でオンオフができたり、シーンを登録できたりします。間接照明だけのシーン、もう少し暗いシーン、しっかり明るいシーンなどをつくれます」

たとえば、朝キッチンで調理をするとき、勉強するとき、お酒を飲むとき、テレビを見るとき。暮らしのシーンに合わせて、必要な明るさは変わります。リビングライコンを使うことで、そうした照明シーンをボタン一つで呼び出せます。

設置する位置も重要です。たとえば子機はあえてダイニングの外の壁に。入ってきたときに目立つ場所は避けながら、操作しやすい位置を検討しました。

複数の照明回路をまとめて操作し、シーンごとの明るさを記憶できる住宅用照明コントローラー「リビングライコン」の親機。調光やON/OFFを一台に集約できる。

 

前編はここで終了です。
後編をお楽しみに。

 

〈このコラムで紹介したパーツ〉

松岡製作所|ホットバイブレーションカウンター

松岡製作所|ステンレスカウンター(ワークトップ)一体シンク

アリアフィーナ|Center Federica

中外交易|Ultrathin Quartz ラスティ

リンナイ|ドミノ式コンロシリーズ

ハーフェレ・ジャパン|Hailo Euro Cargo

AQUAPIA|ERA 40 置き型洗面器

CERA|VB5A7760R Architectura 洗面ボウル

 

【プロフィール】

山田悦子 / アトリエエツコ一級建築士事務所

広島工業大学環境学部卒業後、1998年、オランダ・アムステルダムのthe Berlage Institute Amsterdamに入学。1999年よりmoriko kira architectに勤務し、2007年に東京でアトリエエツコ一級建築士事務所を設立。2017年、株式会社アトリエエツコ一級建築士事務所に改名。

https://a-etsuko.jp/

 

 【DATA】

東京都港区
専有面積 171.50㎡
構造規模 SRC造(一部RC造)、地上8階地下1階建のマンションの一室
竣工年月 1999年8月 
リノベーション竣工年月 2025年10月
設計 アトリエエツコ一級建築士事務所/山田悦子
施工 株式会社翔洋
企画 R100 tokyo/株式会社リビタ