【イベントレポート】勝手にセレクト展③|堀田カーペットがこだわる、ウールを使った上質なウィルトンカーペット
5月23日に無印良品グランフロント大阪(大阪市北区)で開催された、『Noizless』vol.3発刊記念イベント「勝手にセレクト展 -Parts for Home-」のトークイベント。
イベントレポート3回目では、堀田カーペット株式会社およびTactile Material (タクタイルマテリアル)株式会社の代表・堀田将矢さんのお話を紹介します。
堀田将矢さん(堀田カーペット株式会社 代表取締役社長、Tactile Material株式会社 代表取締役社長。1978年大阪府生まれ。北海道大学経済学部卒業後2002年にトヨタ自動車株式会社入社。 2008年に堀田カーペット株式会社に入社。2017年2月3代目代表取締役社長就任。2025年、中川政七商店と共同でTactile Materialを創業。
激減する国内の織物カーペット。
〈宇野〉では、ここからはウィルトンカーペットという織物のカーペットの製造販売を行っている、堀田カーペットの堀田さんにお話を伺います。それでは堀田さん、まずは自己紹介と会社のご紹介をよろしくお願い致します。
宇野 健太郎 (森田アルミ工業・研究開発部 営業2部 常務取締役)
〈堀田さん〉堀田カーペット株式会社とTactile Material株式会社の代表をしています堀田と申します。今日はよろしくお願いします。

僕は大阪府堺市の出身で今年47歳になります。堀田カーペットは僕のおじいちゃんが創った会社なんですけど、僕は2008年に入社して、今は3代目として社長をやらせて頂いています。
うちの会社は1962年に創業しまして、大阪府の和泉市という関空から30分くらいの場所にあります。社員数は44人くらい、売上高は7億円くらいの規模感です。
売上の40%くらいは、ホテルさんのカーペットやブティックの床材などの特注で、父の時代に高かったOEMの割合は今は3%程度。残りが自社ブランド品となっています。
日本のカーペットの生産は江戸時代に佐賀県の鍋島で始まっていて、大阪府は堺緞通という2番目にできた産地です。佐賀の方は江戸城への上納品をつくっていたので、流通させてもらえなかったんですが、大阪は商売の街だったんで「とにかく売りなさい」ということで、流通が先にでき上がったんですね。その結果、現在は国内のカーペットの80%が大阪府でつくられています。
ところで、カーペットって「織る」と表現される人が多いですが、現在はほとんどのものが刺繍でつくられているんですね。布の上に植毛みたいにして糸を突き刺す方法で、タフテッドカーペットと呼ばれています。
こちらの国内のカーペット生産量の推移のグラフを見て頂きたいのですが、濃いオレンジ色になっているところは、僕たちがつくっている織物のカーペットです。
1964年には約2,000万平米くらいが織物でつくられていたんですけど、2008年には80万平米くらいになり、以降は経済産業省が織物のカーペットの生産量の推移を追いかけなくなりました。つまり産業として認められないくらいの規模感になっちゃっているんですね。
織物のカーペットが、カーペット全体の1%くらいしかつくられていないというのが今の状態です。
〈宇野〉かなり減ってしまったんですね…。
〈堀田さん〉めちゃくちゃ減りました。僕らがつくっている織物のカーペットは、ウィルトンカーペットと呼ばれるんですけど、ウィルトンカーペットをつくる会社は、今は国内に4社しかなくて、織機(しょっき)台数も国内に20台ないくらいです。
めっちゃ厳しい環境になってしまいましたという感じなんですけど、別に悲観しているわけではなくて、この中で何をやってきたかという話ができればと思います。
1万本の糸を操りカーペットを織る。
〈宇野〉ところで以前堀田カーペットさんの工場を見学させて頂いたんですけど、大きな織機が生き物のように動いていたのが印象的でした。
〈堀田さん〉こちらですね。
これはうちの工場にある「ウィルトン」というカーペットの織機になります。だいたい幅が10mくらい、長さが20mくらいあります。イギリスの産業革命の時代に初めて機械化された時の織機をウィルトン織機といいまして、その織機の構造を使いながら僕たちはものづくりをしています。
ちなみに、職人が機械の歯車や1万本くらいの糸を見ながら織っていくので、機械織りではありますが、職人じゃないと織ることができません。超ベテラン職人は「手で織れないくらい大きいカーペットを、機械が手助けしてくれているだけで、基本的には手織りだ」と言っていました。
このやり方だからつくれる密度感やテクスチャーがあり、僕たちはそれが楽しくてつくっています。タフテッドカーペットと比べると値段はかなり張るものですが、ウィルトンカーペットの価値をちゃんとお客様に伝える活動を続けていきたいと思っています。
織物×ウールで生まれる高い耐久性。
〈宇野〉堀田カーペットさんが手掛けるウィルトンカーペット。その魅力について教えて頂けますか?
〈堀田さん〉僕たちが提供しているのはカーペットなんですけど、その先にはカーペットならではの暮らし方があります。やわらかいカーペットを敷くことで暮らし方が大きく変わるので。床に座るとか、赤ちゃんが床で寝るとかはフローリングではやらない感覚だと思うんですよね。
そんな僕らのカーペットは織物でつくることと、ウールでつくることが基本になっていますが、その特長の一つが耐久性です。
つくり方・素材・密度の3つによって高い耐久性が成立するんですけど、織物は特に密度を高めやすいんですね。織られているので表面が剥離することもありません。
土足で使うホテルにおいても、長い所では15年くらい使われていたりします。住宅での耐久性としても、僕たちは「15年くらいが一つの目安」と伝えています。ただ、寝室などのそれ程使わない場所では30年使っていても問題なかったりします。
それから、一般的にカーペットは汚れやすいと思われることが多いですが、羊の毛であるウールは撥水性能が備わっているので汚れが付きにくいんですね。さらに、汚れが落ちやすいのもウールの特長です。掃除をする時に「遊び毛」を吸い取ってあげることで汚れが一緒に取れますし、染みができてもお湯をたらしてタオルで吸い取ることができます。
僕らはいろいろと実験をしていますが、1週間くらいまでの食品の染みであればほぼ落ちます。
〈宇野〉それはなかなか知られていないことですよね。
〈堀田さん〉僕らは長く美しく使えるカーペットを「いいカーペット」と定義しているんですけど、それを実現するためには、現時点では織物でウールがいいと思っています。
3つのカーペットブランドを展開。
〈宇野〉ここからは堀田カーペットさんでどのような製品をつくっているのかをご紹介頂けますか?
〈堀田さん〉まず『WOOLFLOORING(ウールフローリング)』というブランドをやっていて、これは工事が必要な敷き込みカーペットと呼ばれるものです。
この写真はマンションのリノベーションの現場ですけど、この部屋ではキッチンまでカーペットを敷き込んでいます。
こっちはスタジオ。
このような建材としての敷き込みカーペットをもっと広めていくには、エンドユーザーさんに直接魅力を伝えていかなければならないと感じていました。
そこで2016年に『COURT(コート)』というラグのブランドを始め、今全国100店舗くらいでお取り扱い頂いています。
BtoBの会社がBtoCに行く、ということをやりたかったわけではなく、エンドユーザーの方とコミュニケーションを取りたかったんですよね。『COURT』を知ったお客様が僕たちのWEBサイトに訪れてくれて、敷き込みカーペットのことも知る。その機会をつくりたいと思って始めました。
そうして、ちょっとずつ僕たちの伝えたいことがお客様に伝わっていくと、遠方のお客様から「ウォークインクローゼット1室だけカーペットにしたい」というお問い合わせが直接くるようになったんですね。でも、それだと対応が難しいんです。
そこで対応できる商品をつくろうということで、2019年に『WOOLTILE(ウールタイル)』というブランドをつくりました。
「DIY」というコンセプトを入れたブランドをつくることで、もっとカーペットを広く知って頂きたいと思っていたのもあり、この『WOOLTILE』はDIY関連のお店で扱って頂くようにしました。
〈宇野〉一般的なタイルカーペットとは差別化されている商品なんですね。
〈堀田さん〉そうですね。タイルカーペットという見方をされると単価が全然違うので。そうではなく、DIYをされるお客様が「ちょっといいものを自分で施工してみたいよね」という時の限界の単価はいくらだろう?と考えながらつくりました。
新たな会社を設立し、未来に残したい建材を伝えていく。
〈宇野〉エンドユーザーにウィルトンカーペットの魅力を伝えていく取り組み。あとはどんなことをされていますか?
〈堀田さん〉僕たちは会社のバリューを「CARPET LIFE」としていて、それを伝えていくためにWEBコンテンツにしています。
あと「DICTIONARY」というWEBコンテンツもつくっていて、ここにくればカーペットのことが何でも分かる状態をつくっていこうとしています。
それから、今年新しく始めた取り組みとして、中川正七商店さんと堀田カーペットでTactile Material 株式会社という合弁会社をつくりました。
何をやり始めたかというと、「TACTILE HOUSE OSAKA」という宿泊施設をつくったんですよ。堀田カーペットとしては、ここで使われているウィルトンカーペットの本質的な良さを体感してもらいたいと思っています。
TACTILE HOUSE OSAKA 外観及び内観
カーペット以外にも未来に残していきたい建材があると思い、漆塗りの天板や、和紙の襖などを使っています。それらを僕らは「工芸建材」と名付けました。
ちなみに社名のTactile(タクタイル)は触覚という意味です。今は目で見てものを選ぶのがほとんどだと思うんですけど、触ることで分かる工芸の建材の魅力を感じて頂きたいと思っています。
「TACTILE HOUSE OSAKA」では無料の見学も行っていますが、ぜひ泊まって頂いてカーペットをはじめとした工芸建材を体感してもらえたらと思います。
・TACTILE HOUSE OSAKA 大阪府和泉市阪本町162
勝手にセレクト展のイベントレポート第3回はここまでです。第4回では、ケイミュー株式会社の藤田新次さんのお話をご紹介します。
