【イベントレポート】「Noizless vol.2」発刊記念|建築設計・デザインにおける「ふつう」を考える会議(前編)

1013日に発売した「Noizless vol.2」。その発刊記念イベントを、119日に株式会社NENGOさん(神奈川県川崎市高津区溝口)のショールームで開催しました。

「究極のふつう」をコンセプトに掲げるNENGOさんと「私にとっての“普通”を知る、選ぶ、暮らす」を探求するNoizless。建築や暮らしにおける“普通(ふつう)”をテーマにそれぞれの立場で語り合いました。

登壇者は、司会進行の濱口智明さん(NENGO・街つくり事業部マネージャー)、山口円さん(NENGO・ポーターズペイントジャパン ブランド統括マネージャー)宇野健太郎(森田アルミ工業・研究開発部 営業2部 取締役部長)、内藤正宏(森田アルミ工業・レクト 建築デザイナー)の4名です。

前編・後編の2回に渡るイベントレポートをご覧ください。

 


 

〈濱口さん〉本題に入る前に、私たちNENGOの紹介をさせて頂きますね。

NENGOでは、リノベーションなどの工務店事業、不動産売買やプロデュースなどの不動産事業、オーストラリアの塗料メーカー“ポーターズペイント”の日本の総代理店などをやっています。

建築・不動産に加え、建材までをやっているのが当社の特徴です。

その中で私は “街つくり事業部”に所属しており、ビルをコンバージョンしてブリュワリーにしたり、ちょっとした宅地開発をしたりということをしています。

濱口智明さん(株式会社NENGO・街つくり事業部マネージャー、一級建築士、宅地建物取引士) 株式会社ゼロワンオフィスにて住まいを中心に建築設計に携わったのち、株式会社エンジョイワークスにて自由設計住宅の設計開発や空き家再生による事業企画などを行う。2021年、株式会社NENGO・街つくり事業部に入社。100年後を見据えた街つくりのため、不動産と建築の両方にまたがり各種事業を展開中。https://nengo.jp/

 NENGOという社名は「100年後の街つくり」から取ったもので、私たちは、100年後も街がいい状態であるために何をすればよいか?を日々考えています。考えているうちに、先程話したいろいろな事業が生まれました。

そして、「100年後の街つくり」を実現するためのキーワードとして「究極のふつう」を掲げています。奇をてらったものはあまり時代を超えていかないと考えているからです。

この「究極のふつう」という考え方が、森田アルミ工業さんが手掛ける建築パーツのセレクトブランド「Noizless(ノイズレス)」と共通する部分がありますので、「普通ってなんだろう?」という話を今日のテーマにして深掘りしていけたらと思います。

では、宇野さんの方から森田アルミ工業さんとNoizlessを簡単にご紹介頂けますか?

〈宇野〉今日は建築や建材業界の方が多いのでご存じの方もいらっしゃると思いますが、森田アルミ工業は社名にある通り主にアルミ製品を扱う会社として誕生しました。

宇野 健太郎 (森田アルミ工業・研究開発部 営業2部 取締役部長) 大阪の一風変わった集合住宅『都住創』で幼少期を過ごす。2005年 東北芸術工科大学(山形)現プロダクトデザイン学科卒。同年から都内の建築設計事務所で不動産を経験。2007年 森田アルミ工業株式会社入社。入社以来、森田アルミのデザイン全般を担当。2015年に東京オフィス、2020年レクト設計、2022年にNoizlessを立ち上げに参画。https://www.moritaalumi.co.jp/

 今年創業51年になった当社は、創業時からアルミ製のバルコニーなどをつくり続けてきたのですが、十数年前から室内で使う建材にも力を入れています。そのきっかけとなった製品が、ワイヤータイプの物干し「pid」です。

建材メーカーは1つのカテゴリーの中で深く掘り下げていく会社さんが多いですが、僕らの場合は1カテゴリーにつき12アイテムくらいに留めていて、その代わりに空間をトータルで提案するスタイルをとっています。

建築の設計の方に支持して頂けるように、“空間全体に調和する建材”をテーマに開発を行っているのも特徴です。

僕が商品の企画をする時には、設計事務所さんを訪問してどういう建築パーツを求めているかヒアリングするのですが、設計をする環境自体を社内につくり、お客さんと同じ釜の飯を食べるとよりよい発想が生まれやすくなるのではないかと考え、2020年に社内に設計事務所「レクト」を立ち上げました。

その設計事務所を担っているのが隣にいる一級建築士の内藤です。

そして、建築の設計をする内藤と一緒に、見えてきた課題を形にしたのが「Noizless」なんです。

 

お客さんに寄り添い、理想の住まいを実現する設計事務所

〈濱口さん〉レクトの立ち上げがNoizlessにつながっている。そのあたりを詳しく聞かせて頂けますか?

〈宇野〉元々レクト立ち上げ前は、内藤は別の設計事務所で仕事をしていて、僕のお客さんだったんですね。新しい商品の企画で相談をしている時に「ちょうど仕事を変えようと思っている」という話を内藤から聞いたんです。「だったら、うちで設計事務所をつくろうと思っているので一緒にやりませんか?」と声をかけたのが始まりです。

そうして隣の席に当たり前のように建築の設計をしている人がいる環境ができ上がりました。

レクトはいわゆるアトリエ系の設計事務所とは違う立ち位置です。施工事例を見て頂くと、家によってテイストが違うのが分かると思いますが、それは「お施主さんの理想を実現すること」がコンセプトだからです。Noizlessが持つ「私にとっての普通」にもつながる考え方です。

〈内藤〉大手ハウスメーカーさんやビルダーさんは量をつくっていくビジネスモデルなので、標準仕様を決める必要があります。でもお施主さんは一人一人好きなインテリアもライフスタイルも違う。私たちはそこに寄り添い、やりたいことや好みを徹底的にヒアリングし、建材選びにおいては「こういうパーツはどうですか?」という提案を繰り返します。

内藤正宏(森田アルミ工業・レクト 一級建築士・建築デザイナー)山梨県甲府市の材木屋に生まれる。2014年 芝浦工業大学大学院理工学研究科建設工学専攻卒。同年 大手住宅系組織設計事務所勤務、2019年 森田アルミ工業株式会社勤務を経て、2021年株式会社レクトを設立。 https://www.rect-a.com/

 もちろん、お施主さんが好きな建材を全部組み合わせたからといっていい空間になるわけではありません。そこを整えてあげたり、一般の人では思いつかないアイデアを提案したりしていきます。その結果、11軒テイストの異なる家ができ上がります。

設計事務所の作品に住んで頂くのではなく、一緒にお客さんが理想とする家をつくっていくスタンスですね。

〈濱口さん〉なるほど。WEBサイトにも「世界に一つだけのあなたの家を造るならレクト」と書いてありますもんね。

〈宇野〉いろいろな設計の考え方がありますが、レクトとしてはそういうコンセプトを選んでいます。ちなみにレクトの事業は軌道に乗っていて、今新規の案件がいっぱいの状態です。かつ内藤は森田アルミの商品企画もやっていて、Noizlessでは内藤が関わった商品も紹介しています。

ところで、レクトを立ち上げる時に内藤には「森田アルミの商品を積極的に使わなくていい」と伝えました。ただ、使わなかった時の理由は聞かせてもらうようにしています。建築の設計者のフィードバックをものづくりに生かしたいからです。

 

情報の氾濫によって混乱している家づくりを整えたい

〈濱口さん〉では、そこからどのようにして「Noizless」が生まれたんですか? 

〈宇野〉僕の周りの家を建てた友人に話を聞いていると、「設計や仕様を決めるのに1年くらい掛かった」とか、「何社も相談に行ったけどなかなか決められない」とか、完成してから「こんなはずじゃなかった」という話を本当によく聞いていたんです。

限られた数カ月の中で、設計の人がお施主さんが満足する家をリードして提案できたらいいんですけど、これだけ情報があふれている中で、お施主さんの方が時間を使って調べまくるので、設計の人よりも建築パーツに詳しくなることは珍しくありません。

それで設計の人が振り回されてしまったり、打ち合わせの時間が伸びてしまったり…というのが日本全国で起こっていることが分かりました。

〈内藤〉10年前は、多くのお客さんが「巾木ってなんですか?」という感じだったんですけど、最近ではインスタなどの影響もあり「薄くて小さい巾木にしたい」という方が増えていますし、品番を指定される方もいらっしゃいます。少し前まではニッチだった巾木が、SNSによってニッチではなくなるところまできています。 

〈宇野〉一方で、森田アルミとしては、家に関わる建材をトータルで提案したいという想いがあるのですが、自分たちの商品で全部を賄うことはできない。そこで、情報の交通整理をすることで世の中に対して貢献したいと考えました。それがNoizlessをつくることになった理由です。

 

答えを決めつけるのではなく、建築パーツを考える手掛かりに

〈濱口さん〉それで建築パーツのセレクトブランド「Noizless」が生まれたんですね。気を付けていることはありますか?

〈宇野〉絶対にやっちゃいけないと思っていたのが、「このアイテムを使えばすべて解決します」みたいな、正解を決めつけることでした。なぜなら、住宅は設計士さんの個性やお施主さんの想いを入れて、それぞれの答えを出すべきだと思うからです。

ただ、これだけ情報がぐちゃぐちゃになっている状況なので、「整理したものがありますよ」というのは伝えていきたい。答えを決めつけるのではなく、手がかりにしてもらえたらと思っています。

 〈濱口さん〉ちなみに、こうして本になっているのを見ると違和感がないですけど、冷静に考えると、一メーカーが他社製品を紹介するという状態も不思議ですよね(笑)。

〈宇野〉掲載しているメーカーさんに協力をして頂けたのは、「家づくりの混乱を解決したい」という想いが多少でも伝わったからだと思います。これが一企業の広告臭がプンプンするようなものであったら多分うまくいくわけがない。みなさんと一緒につくり上げていくものにしようと、最初の段階から考えていました。

 

デザイン・性能・素材の3つのバランスを重視

〈濱口さん〉建材の情報を整理するということですが、選定の基準はありますか? 

〈内藤〉「適正なデザイン」「あるべき性能」「ふさわしい素材」という3つのバランスが取れていることを基準にしてセレクトしています。

「適性なデザイン」というのはさり気なく空間に調和するもの、「あるべき性能」というのは安全で快適な暮らしに欠かせない性能を持っていること、「ふさわしい素材」というのはメンテナンスがしやすくて風合いがよく普遍的であるということ。それらのバランスを大事にしています。

例えばものすごく性能がいい木調の床材だけど、ピカピカしていて本物の木には見えない。それは素材やデザインという点ではバランスが崩れているかもしれません。これらのバランスが整ったちょうどいいものを、私たちは「普通」としています。

〈濱口さん〉一つ気になるのが、施主のリテラシーが上がっていくと、いわゆる“プロ施主”が増えることにつながると思います。設計の方がやりにくくなる心配はありませんか?(笑) 

〈宇野〉実は、建築業界の方から「余計なことをしないでほしい」と言われたことがあります。でも、もっと言われるのかな…と思っていたのですが、工務店さんや設計事務所さんに持って行くと喜んでもらえることが多いですね。

プロ施主が増える驚異よりも、現場が混乱している問題の方がはるかに大きいということなのだと思います。ぜひ情報の整理にNoizlessを活用頂けたらと考えています。

 

 

イベントレポートの前編はここまでです。次回の後編では「ふつう」をテーマにしたNENGOさんの直近の取り組みを紹介します。