森を守り、木と共に生きる。環境に配慮された木製玄関ドア(後編)

ユダ木工株式会社の常務取締役・湯田茂人さんと広報・尾崎羽紗さんへのインタビュー。後編ではMIYAMA桧玄関ドアに詰め込んだ想いと技術について伺います。

 

原木から調達して製材する。

──ここからMIYAMA桧玄関ドアについて詳しく聞かせてください。開発をする上で大切にしていた考え方はありますか?

〈湯田さん〉お客さんに「木のドアにして良かった」と思って頂ける製品をつくることに尽きますね。

家を建てる人の多くが鋼製ドアを選びますが、その中でも木目調のシートを張ったタイプの人気が高いようです。本当は木のドアにしたいと思いながら、鋼製ドアを選んでいる人が多いのではないでしょうか。

木製ドアは雨がかりがないことを前提に開発しているため、ポーチに袖壁や長めの庇を設ける必要があり、鋼製ドアと比べて気を遣うことが多いですし、価格も決して安くはありません。

「それでも自分の家には木のドアを使いたい」。そう思って買ってくださるお客さんがいらっしゃいます。その方たちに「やっぱり木のドアにして良かったな」と思って頂ける製品をつくることを何よりも大事に考えています。

 

──MIYAMA桧玄関ドアをつくる過程で苦労したことはありますか?

〈湯田さん〉苦労したのは、デザインをシンプルにすることでした。つくる前は簡単に思えたのですが、やってみるとそれが難しい。最初の頃の試作品は深みがなく薄っぺらくて、食べ物に例えるなら「素うどん」のようでした。その後、目地の寸法や取り方を工夫したり、厚みを出したりすることで表情や重厚感があるドアに仕上げることができました。

あとは材料の調達方法を変えたことです。材料となる国産材の流通は、建物の柱や梁などの構造材がメインに考えられています。一方、我々がつくる建具の材料は造作材といわれるもので、丸太から構造材を取った残りの部分を使うのが一般的なんです。

でも、そのやり方では我々が目指している木製ドアをつくることが難しい。それで、原木から調達し製材をする仕組みに変えることにしました。その実現にはずいぶんと時間がかかりましたね。

製材された乾燥前のヒノキ材 

 

玄関ドアに高い断熱性能を。世界の基準に照準を合わせる。

──ユーザーには分からない部分ですが、材料調達の仕組みを変えることから製品づくりが始まっていたのですね。MIYAMA桧玄関ドアを開発する背景として、何か世の中の課題のようなものは感じていましたか?

〈湯田さん〉先代の頃から当社では海外の木材加工の技法や製品に関心を持っていて、数年に一度ドイツのメッセに木材の加工機械を見に行っていました。その時に住宅で使う木製品の見学もしていたんですが、例えば窓であればサッシは木製を、ガラスはアルゴンガスを注入したペアガラスを使っていたのが印象的でした。日本の窓がまだアルミサッシに単板ガラスだった時代ですから、開口部の断熱に関して日本はヨーロッパと比べてずいぶん遅れていると感じましたね。

それは2000年頃の話ですが、その頃に自社の木製ドアの断熱性能を調べることにしました。するとJIS規格で国内最上位の断熱性能を持っていることが分かりました。理由は簡単。ドアが熱を伝えにくい木でできているからです。
その後、世界でも通用する断熱性能のドアづくりを進めていかなければならないと考え、2018年にはU値1.0W/㎡Kを切る「超断熱ドア(U値0.82W/㎡K)」を商品化しました。

 

 ──住宅の断熱性能は近年ますます重視されていますが、木製ドアの強みを生かしながら進化させていったのですね。断熱以外にも工夫やこだわりはありますか?

〈湯田さん〉例えば玄関ドアは内外の温度差によって変形が生じる場合がありますが、仮にそうなった場合でも高い気密性能を保てるように、戸あたりの位置を前後に調整できる仕様にしています。蝶番を調整する方法よりも均等な力で気密ガスケットにドアを当てることができるんです。一見すると簡単な仕組みですが、ここに行きつくまでにたくさんの試行錯誤を繰り返しました。

さまざまなお問い合わせに対して自信を持って応えられる製品づくりをしなければいけない。日頃から肝に銘じていることですが、この仕組みを導入したことでお客さんからとても喜ばれるようになりました。

私たち営業部門では、いいことも悪いこともお客さんからの声を製造現場と共有し、「チームユダ」として一つの目標に向かってドアづくりを行っています。

それから、都市部でも天然木の玄関ドアの風合いを楽しんでほしいと思い、2003年から防火ドアの研究を始めました。今では防火木製玄関ドアもラインナップに加えています。

 

木製ドアの魅力を伝えるために、メンテナンス情報を発信。

──2011年にMIYAMA桧玄関ドアを商品化してからも改善が繰り返されているんですね。次にドアのメンテナンスの考え方を教えて頂けますか?

〈湯田さん〉ユダ木工では20年前に含浸型の塗料を使い始めましたが、はじめはメンテナンスの情報発信をしていなかったんです。しかし、含浸型の塗料を使った木製玄関ドアとお客さんによるメンテナンスは切っても切り離せないものだと後から気づき、マニュアルを整えることにしました。

今では木製玄関ドアを購入頂いた方にはメンテナンスのスタートキットをお渡ししています。そこにはメンテナンスガイド・塗料・刷毛・サンドペーパーなどが入っています。さらに、メンテナンス方法をより分かりやすく伝えるためにメンテナンス動画をユーチューブに公開するなど、情報発信に力を入れています。

──それだけメンテナンスを重要視されているんですね。

〈湯田さん〉はい。そもそも我々ユダ木工の営業マンの仕事は木製ドアを売ることではなく、木製ドアの魅力を伝えることだと考えています。日本の住宅の玄関ドアの98%が鋼製ドアといわれており、木製ドアの比率はわずか2%しかありません。その比率を3%、4%にしていくことが我々の仕事で、そのためには木製ドアに対する誤解を解き、魅力を発信していく必要があります。

我々はメンテナンスをしながら木製ドアに愛着を深めていく暮らしを提案していますので、メンテナンス情報を伝えることはドアをつくることと同じくらい大事なことなんです。

〈尾崎さん〉メンテナンス方法はユダ木工のホームページ内の「コラム」ページでも紹介しています。サンドペーパーの使い方や養生の仕方、塗料の塗り方や拭き取り方まで詳しく紹介していますので、ぜひ見て頂きたいですね。「夫婦で一緒にメンテナンス作業をしたことで夫婦仲が深まった」というお客様からの声も頂いています。

30年前に設置された木製ドア。真新しい木には出せない風格が表れている。

 

市場のささやきに耳を傾け、ブラッシュアップを続ける。

──家の顔ともいえる玄関ドアを自分でお手入れしながら付き合っていく。木製ドアならではの価値ですね。MIYAMA桧玄関ドアの今後の展開や展望について聞かせて頂けますか?

〈湯田さん〉以前は真鍮のように見えるメッキのドアハンドルを希望される方が多かったですが、最近は真鍮製のドアハンドルを希望される若い方が増えています。錆びないようにクリア塗装することもできますが、「錆びる方がいい」と言って塗装を希望されないことも多い。今そういう価値観を持つ若い世代が増えています。

私たちは経年変化する木製ドアの魅力を日々伝えていこうとしていますが、そういう声を聞くと、「まだまだやり残していることがある」と感じますし、それが明日へのエネルギーになります。ドア自体はロングランなデザインで大きく変わることはありませんが、市場のささやきを聞きながら今後もディテールを改良していきたいですね。

 

──ありがとうございます。では最後の質問になります。『Noizless』では「普通の家(しっくりくる家)とは何か」をテーマにしていますが、湯田さんにとってそれはどんな家でしょうか?

〈湯田さん〉これはユダ木工としてではなく私の主観ですが、いろいろな建築を見てきた中で建築家・伊礼智さんの建物は何度見ても新鮮で飽きることがありません。デザインは当然されているのですけれども、デザインがされている空間には見えない。そこが魅力であり「しっくり」きます。

  

──前編・中編・後編の3回に渡ってご紹介させて頂いたユダ木工さんへのインタビュー記事は以上となります。

来年2024年に創業100年の節目を迎えるユダ木工さん。伝統的な木製建具の製造から始まった同社は、蓄積してきた技術とノウハウを生かし、今では高い断熱性能を持つ木製玄関ドアを主力商品としています。

そのものづくりの背景には、山の環境に配慮した材料調達のプロセスがあり、端材まで無駄なく使う製造プロセスがあります。そうしてつくられたドアには、施主自身がメンテナンスをしながら長く大切に使っていくという新しい価値観も込められています。

一枚の玄関ドアが辿ってきた道のりに思いを馳せることも、家づくりの楽しみになりそうです。

 

→Noizless  MIYAMA檜玄関ドアシリーズ 製品ページはこちら

 


湯田 茂人(ゆだしげと)
ユダ木工株式会社 常務取締役
プロフィール/ 1965年広島県生まれ。
近畿大学 工学部 建築学科卒。
ゼネコンで現場管理を経験後1990年からユダ木工現職に就く。
断熱ドア・防火ドア(防火設備)・玄関引き戸等の研究開発などに長年従事
 
尾﨑 羽紗(おざきうさ)
ユダ木工株式会社 営業部 広報
プロフィール/ 1994年広島県生まれ。
広島市立大学 芸術学部 油絵学科卒。
ユダ木工入社後、WEBSNSでの情報発信を担当する。