【パーツ探訪】藤田雄介さんに訊く「パーツのデザインから建築が変わる」後編
建築パーツや建材を切り口に、建築家の設計哲学を浮き彫りにする「パーツ探訪」。後編では、建築家の藤田雄介さんに、築40年の木造住宅のリノベーション「橋と軸組と」で、お話をうかがいました。
#7 空間の中でさりげないアクセントとなる造作キッチン

「キッチンは、よほどコスト的に厳しくない限りは造作でやるようにしています」
造作だと空間に合わせてジャストサイズで納められるのはもちろんですが、「出来合いのものをいれるとなんだかのっぺりするというか、均一な印象になってしまうような気がして。そこはコントロールしたいと思っているんです」というのも、その理由です。
この住宅でも、キッチン本体は大工工事として製作。家具工事にしないので、コストを抑えられるメリットもあります。キッチンまわりのパーツについてはtoolboxのものを使うことが多く、ここでも天板やレンジフード、タオルバーや、ハンドホース水栓などを採用しています。
目地色にはあたたかみのある茶系の色を選んでいる。洗面にも同じシリーズのタイルを採用。
壁面にもtoolboxのタイル「古窯70角タイル 胡粉(布目)」を使用。一般的な100㎜角タイルよりわずかに小ぶりな70㎜角で、縦糸・横糸が交差してできる布の折り目のようなテクスチャーがあります。
「全体的に手触りがあるというか、質感があるような仕上げを意識しています。今回の建具も同様ですね」
壁側の幅は約1800㎜と限られていたため、シンクとコンロを二列に分けたレイアウトとした。コンロとオーブンはリンナイ。ステンレス天板はtoolboxでオーダー。
水栓はtoolboxの「ハンドホース水栓 アングル混合栓 シャワー切替 ブラック」で、これまでにも何度か採用したことがある。イタリア製で他の海外製よりやや小ぶりで、コンパクトなキッチンでも圧迫感がない。クロームをはじめ全4色のラインナップだが、「マットな黒のほうが若干締まる印象があって」と黒を使うことが多い。
レンジフードはtoolboxの「フラットレンジフード」を採用。高さ20㎝という薄型で、スイッチは底面に取り付けられるため、側面がシンプルに見える。
またキッチンでは、面材にも注目。使っているのは、朝日ウッドテックの「WOODRIUMボード(カウンター)/挽き板」です。これは化粧材に広幅の銘木挽き板を、芯材には植林木を採用して軽量化を図ったもので、一般的にはベンチやテーブル、カウンタートップに使われる内装材。それをあえて面材に使っているのが、ユニークです。
「撥水性が高いと聞いて、キッチンで使ってみようと思ったんです。ラワンとかシナでつくるよりも、しっかりしたつくりになるかと」
WOODRIUMボードの化粧面は、オーク、ブラックチェリー、ブラックウォルナット、ハードメイプルの4種。ここではオークを採用した。側面仕上げは厚27㎜の板に45度にテーパーが入る「LSタイプ」を使用し、そのまま手掛けとしている。
ちなみに化粧材は4種で、側面仕上げには5つの仕上げがあり、今回はテーパーを付けたタイプを扉に使い、斜めになった小口そのものを手掛けにしています。
さらに今回は、「WOODRIUMボード」を天板に採用したダイニングテーブルもつくりました。
「ダイニングテーブルも含め、キッチン全体で統一感を出してつくれたのはよかったですね」

#8 and woodのグレイッシュなフローリング
板幅は190㎜1種で、床が広々と見える。
1階の床には、and woodのフローリング「ダストオーク」を採用しています。
and woodは新潟を拠点に無垢フローリングの製造・調達を扱う会社で、藤田さんは以前からフローリングについて相談していたそう。
プロジェクトの予算や欲しい表情を伝えながら、その空間に合うものを提案してもらっています。今回使った「ダストオーク」は、ナラ材にグレイッシュな塗装を施したフローリングで、藤田さんにとって、初めての採用となります。
小上がり部分は小口が見えないよう、アングルで端部を納めている。小上がりの下は駐車場でもともと床に段差があったため、中途半端な高さにせず、腰掛けられる高さまで上げることに。ダイニング脇のベンチとしても使える。
「既存の柱や梁など、木の軸組が多く現れるので、床も一般的なフローリングの色にすると、少し木質の印象が強くなってしまう。なのでグレイッシュなほうが、軸組と馴染みすぎず、良い感じにニュートラルになると思いました」
「ダストオーク」は、ヨーロピアンオークの強めの木目をあえて潰し、白くホコリで「汚した」ような風合いをもたせたフローリング。不思議と冷ややかな印象にはならず、空間の要素を引き立ててくれます。
#9 赤い鉄骨を引き立たせる、淡いグリーンのリノリウム

2階の床も、フローリングを使うことで木質感が強くなることを避ける目的で、田島ルーフィングの「マーモリウム」(リノリウム)を使っています。リノリウムは塩ビタイルと似ていますが、亜麻仁油(あまにゆ)にコルク粉や木粉、石灰岩などを混ぜ合わせて麻布に塗り、乾燥させてつくる天然素材の建材です。
ロールで購入するのが基本のため、部分使いでは割高になりやすく、藤田さんもある程度まとまった面積を確保できる場所で使うことが多いそう。今回は2階の床に広く使うことで、淡いグリーンの面をつくり、その上に木の柱や鉄骨の「橋」が立ち上がって見えることを念頭におきました。
リノリウムは抗菌・抗ウイルス作用や、脱臭作用をもつことから、住宅ではキッチンや洗面所など、水回りの床に使用されることも多い。最近は面材や天板など家具に使われるケースも見られる。
色はあえて淡いグリーンに。「鉄骨との対比を考え、いろいろサンプルを並べて組み合わせを決めました」
リノリウムの採用は、このリノベーションが初めてではありません。
「クッションフロアだと、ちょっと光沢が強すぎる印象があって。あとリノリウムの質感が割と好きなんですね。広い面積で使うと、その差が顕著になるので」と藤田さんは語ります。

#10 STUDIO DOUGHNUTSのペーパーホルダー
「自分もペーパーホルダーは毎回違うものを選んでいるのですが、STUDIO DOUGHNUTSのものは一度使ってみたいなと思っていて。シンプルなデザインもいいですよね。お施主さんに提案したところ、とても気に入ってくださいました」
色は全3色で、今回はライトグレーを採用。
STUDIO DOUGHNUTSは、家具やプロダクトを含めた空間設計を手掛けるデザインユニット。千駄ヶ谷でLandscape Products が運営するカフェ「Tas Yard」で見かけたことをきっかけに、気に入ったそうです。
丸みを帯びたフォルムが可愛らしく、予備のペーパーを隣に置くことができ、上部には小さな花器を置くなど飾り棚のように使うことができます。
カタログやネットだけでなく、カフェで出会った……というエピソードからは、藤田さんのプロダクト探しのアンテナの広さが伝わってくるようです。
パーツをつくることから、建築を考える

今回、藤田さんの話を聞きながらあらためて浮き彫りになったのは、一つの住宅を構成する「パーツ」への距離の近さです。
「建築はパーツの集積でできているようなところがありますよね。普通だと、そのパーツをどうセレクトして組み合わせるかっていうことになると思うんですけれども、自分の場合は、パーツ自体を設計とかデザインするっていうところから、建築を変えられる部分があるのかな、と考えているんです」
特に建具に関しては、生産と設計、両方に携わって試行錯誤を繰り返しているからこそ、知見が溜まりつつある、と語ります。ただし、建具をオリジナルのパーツとして製作するからといって、すべてを自分でコントロールしたいとまでは、思わないとも。
「よく使うパーツで、いわゆるスタメンみたいなものはいます。ただ毎回使うことにこだわっているわけではなく、メンバーを固定させるよりも、リフレッシュしていきたい。選び方はけっこう感覚的で、『嫌じゃない』というような視点で絞っていくようなところはありますね」

そんなパーツ群の「四番バッター」は、やはり建具。
「建具が境界面で作用するので、そこさえコントロールできれば、あとはなんとかなる、と思っているので」
そして、選ぶパーツはアノニマス一辺倒ではなく、ペーパーホルダーのようにつくり手の個性を感じさせるものまで、さまざまです。
「やはり建具と設計、両方をやっているせいか、一つの建築をつくる時も複数の人格で設計していくようなところがあるんですね。そうした感覚はできあがるものにも影響を及ぼしているような気がします。一つの性格で完璧に統合するよりも、それぞれの性格を生かしたほうがいいかな、という考えがあるのかもしれません」
また、藤田さんのユニークなところは、つくり手との距離の近さ。そのパーツを選んだ理由を聞くと、「人」がきっかけということもしばしばです。ご自身が生産を手がけていることもあるのか、「プロダクトを購入する」ところから一歩踏み込んだ関係性を、つくり手たちと築いています。

たとえば、1階のフローリングで採用したand wood。代表の遠藤大樹さんと知り合ったのは、以前、遠藤さんが以前勤めていた東京のフローリング店だそう。ショールームを訪れた際、「木材にめちゃくちゃ熱い人がいて、それで仲良くなったんです」というのがはじまりでした。

キッチンの面材に使った朝日ウッドテックの「WOODRIUMボード」も、共通の知人を通じて「使ってみませんか」と紹介されたことがきっかけ。同時期に進んでいた別のプロジェクトでも採用しています。
ダイニングでペンダントライトを使っている3RD CERAMICSとは、「戸戸」の陶器のつまみを製作してもらっている関係。ペンダントライトをつくっていることも以前から知っていて、「どこかで使えたら」と思っていたことから、採用につながりました。
「飛騨の森でクマは踊る」との協働も、実際に顔を合わせたことをきっかけに「広葉樹の建具をつくりたいね」というところからスタートしました。試作を重ね、今回の耳付きの広葉樹を使った建具も、そんな関係性の継続のなかから生まれています。

そして近年は、藤田さん自身が「つくり手」として、建築家から声をかけられることも増えています。「戸戸」の製品の購入にとどまらず、最近では「このプロジェクトでこんな建具をつくりたい」と、相談を受けることもあるそう。設計者としてつくり手と関係を築く一方で、自らもまた、ほかの設計者から相談されるつくり手としての顔をもち、生産と設計を往復する独自の取り組みを深めています。
藤田さんにとって、ノイズレスってなんですか?
では、そんな藤田さんにとっての「ノイズレス」は、なんなのでしょう?
藤田さんはまず、既存の建物や敷地、周辺環境といった、あらかじめそこにあるものを「ノイズ」とは捉えていないといいます。
「リノベーションを手掛けることが多いのですが、軸組とか既存の間取りというのは、あくまで与条件であって、ノイズではないんですよね。新築も同様で、ふつうに受け入れるべき要素と思っています。あまり、一つの強いテーマですべてを統一しよう、とは考えていないんですよね」と語る藤田さん。

「すごく主観的な感覚なんですけど、手触り感のあるものを選ぶことが多いんです。その逆で、手触り感がないものには違和感がある。つるっとしていたり、質感がなかったり、無機質だったり。そういうものが、自分にとってはノイズだと思うのかもしれません」
布や陶器、木、金属、リノリウム。今回の住宅に使われた素材や、パーツを振り返ると、実に多様です。ミニマリスティックに一つの表現へ収束させるのではなく、異なるものたちが奏でる豊かな声を、むしろ楽しむ。そんな状態が、藤田さんにとっての「ノイズレス」なのかもしれません。
階段は既存の位置を生かしながら、勾配をやや緩やかに変更。丸鋼で造作した手すりはややくすんだブルーに。
外壁は幅広のガルバリウム鋼板。耐久性とコストのバランスに加え、準防火地域で必要となる防火性能の認定を取得した製品であることも選定理由となった。縦張り、横張りのどちらにも対応する製品で、シンプルな形と色合いも気に入っているという。

外部へ伸びる鉄骨フレームの手すりには、縦桟の代わりにロープを通している。
〈紹介したパーツ・建材〉
toolbox | ハンドホース水栓 アングル混合栓 シャワー切替 ブラック
朝日ウッドテック | WOODRIUMボード (カウンター)/挽き板
and wood | ダストオーク プライウッドフローリング
田島ルーフィング | マーモリウム スプラッシュ ML-3431
STUDIO DOUGHNUTS | PAPER HOLDER
toolbox | 洗面水栓 SK-12:ストレートホース混合栓 ブラック
〈プロフィール〉
藤田 雄介 | Camp Design inc
1981年兵庫県生まれ。2005年日本大学生産工学部建築工学科卒業、2007年東京都市大学大学院工学研究科修了。2008年手塚建築研究所勤務を経て、2010年Camp Design inc.設立(2016年法人化)。住宅を中心に建築設計を行うほか、建具専門メーカー「戸戸」を運営。2024年には、建具を通して境界と空間を考察した著書『建具の手がかり―境界を操作する39の手法(学芸出版社)』を刊行。
Camp Design inc.|「橋と軸組と」プロジェクトページ
戸戸(コト)
〈DATA〉
神奈川県横浜市
敷地面積 100.05㎡
延床面積 79.73㎡(1階 44.185㎡、2階 35.548㎡)
構造規模 木造軸組工法、地上2階建て
リノベーション竣工年月 2025年8月
設計 Camp Design inc./藤田雄介
基本・実施設計協力 長谷川敦大
構造 yasuhirokaneda STRUCTURE/金田泰裕・青山健太
施工 工匠/貴田康平・前田眞之介
