【パーツ探訪】藤田雄介さんに訊く「パーツのデザインから建築が変わる」前編

「建築はパーツの集積とも言えますよね。そのパーツをどうセレクトするかというだけではなく、パーツ自体をデザインするところから、建築を変えられるんじゃないかと思って」

こう語るのは、Camp Design inc.を主宰する建築家・藤田雄介さん。

藤田さんは、住宅を中心に建築設計を手掛ける一方、建具のネットストア「戸戸」を運営し、建具はもちろん、レバーハンドルやつまみなどの建築パーツも自らデザインしています。

「戸戸」で生まれたパーツは、自身の建築にとどまらず、多くの建築に採用されており、近年では、建具そのものの設計・製作を依頼されるなど、活動の場が広がっています。

今回、藤田さんのものづくりを探る舞台は、横浜の郊外住宅地に建つ築40年ほどの木造住宅「橋と軸組と」。

子どもたちの独立を機に、4人家族で暮らしてきた家を夫婦2人の住まいに変えるリノベーションです。もともとは部屋数が多く小割りに仕切られていたため、プランを整理して風や光が通る住まいへと再構成。

その際、既存の木造軸組をできるだけ生かしながら、斜材を使わず柱と梁で格子状に組む「フィーレンデール形式」の鉄骨フレームを中央に貫入させました。構造補強を担うと同時に、上下階に光や風の抜けをつくり、住まいの新たな骨格となるこのフレームを、藤田さんは「橋(ブリッジ)」と呼んでいます。

前編では、建具を軸に、藤田さん自身がデザインしたパーツと、選んだ照明プロダクトを紹介。「橋」の印象が室内で強くなりすぎないよう留意した素材使いや、プロダクト選びをお話いただきました。

[プロフィール]1981年兵庫県生まれ。2005年日本大学生産工学部建築工学科卒業、2007年東京都市大学大学院工学研究科修了。2008年手塚建築研究所勤務を経て、2010年Camp Design inc.設立(2016年法人化)。住宅を中心に建築設計を行うほか、建具専門メーカー「戸戸」を運営。2024年には、建具を通して境界と空間を考察した著書『建具の手がかり―境界を操作する39の手法(学芸出版社)』を刊行。




1 光をやわらかく通す、「戸戸」の布框戸

木部は、軸組と相性の良いラワンを使い、柿渋仕上げにした。

1階の小上がりと隣接する客間を仕切るのは、「戸戸」の定番品のひとつ、「布框戸」です。

框戸とは、木製の枠の中にガラスや板などを嵌めた建具のこと。「布框戸」は、ガラスや板の代わりに布を張ったもので、襖のような軽さと障子のような透過性をもち、視線を遮りながら、やわらかく光を通します。

原型が生まれたのは、藤田さんが以前手掛けた団地のリノベーションでした。

既存の柱は、過去に塗り替えられた部分もあり色にばらつきがあったため、全体を見ながら色味を調整した。

「建具で空間を仕切る場面が多い住宅だったことから、間仕切りそのものの質感が重要になると思ったんです。ただ、ガラスだとちょっと違うな、と。お施主さんが洋服をつくっている方だったので、布でできないかなと、試作したのがはじまりでした」

布は框の裏側からゴムで固定し、取り外して交換できるようにしています。また、布も薄すぎるものは向かず、厚すぎない程度の適度な厚みが必要。この住宅では下部に腰板を入れ、上部に通常よりも透け感のある布を張っています。腰板は、軸組に合わせて柿渋塗りで仕上げました。

玄関には、框戸のバリエーションとして、布の代わりにガラスを入れた建具も使っています。板戸は玄関からプライバシーを守る程よい目隠しになり、ガラスでリビングへの採光を確保。適材適所で使い分けをしています。



#2 木とアルミ、半透明ポリカを組み合わせた建具

2階の寝室の建具は、木の框と半透明のポリカーボネート、アルミを使っています。
既存の木造軸組に加え、錆止め色の鉄骨フレームや、細い木材を並べた床・天井など、線の要素が多く現れる2階にはどのような建具が良いのか--藤田さんはこんなふうに考えました。

「框戸のように線を強調するのではなく、面が印象的な建具にしたほうがいいな、と」

一般的な框戸のように框の内側へ面材を納めるのではなく、木の框の表側にポリカーボネート板を取り付け、端部をアルミ材で押さえる納まりに。框の線の印象がおさえられ、かつ、半透明のポリカーボネートをすっきりとした大きな面として見せることができます。

アルミ材は、木の框の見付けをすべて隠さず、木部も見える寸法としています。木の軸組と鉄骨フレームが共存するこの住宅に合わせ、建具にも木と金属の両方を使うことで、空間の骨格と建具をなじませています。



#3 「飛騨の森でクマは踊る」とつくった広葉樹の「耳」を生かした建具

玄関と主室の庭に面した開口部には、「飛騨の森でクマは踊る(通称ヒダクマ)」と製作した、インパクトのある框戸を採用しています。ヒダクマは、岐阜県飛騨市を拠点に地域の広葉樹を活用したものづくりや建築プロジェクトを手掛けるラボ。

「以前からヒダクマとは広葉樹の建具をつくりたいね、という話をしていて、これまでにも何回か試作をしているんです」

一般的に木製建具には、軽く加工しやすいスギやヒノキなどの針葉樹が使われることが多く、固く、また流通量の少ない広葉樹で框戸をつくるのは珍しい試みです。そしてこの建具の大きな特徴は、製材時には切り落とされることも多い「耳」を効果的に使っていること。自然な曲線を残した耳を、ガラスを留める押縁としてそのまま利用しています。

外部建具のため、気密性にも留意。召し合わせ部分にはピンチブロックを入れ、上下にも隙間を抑える処理を施し、ガラスにはLow-Eペアガラスを採用している。ヒダクマのオフィスに採用するなど試作を重ね、今回取り入れた。

「ヒダクマは木の資源循環にも力を入れているので、通常なら切り落とす耳も捨てずに生かしたいというアイデアから生まれました」

今回使ったのは、ナラやホオなど。樹種によって木目や色味が異なるのも、広葉樹を扱う醍醐味だと藤田さんは話します。

玄関の建具は、高さ約2400㎜で製作。飛騨では広葉樹の原木は2.1〜2.2m程度で造材されることが多く、藤田さんも当初はその寸法を前提に考えていたそう。しかしヒダクマとのやり取りを通して、必要な長さに合わせて採材できることが分かり、この寸法で実現した。



#4 「戸戸」のスタンダードのレバーハンドル

形はつくり込みすぎず、握ったときのフィット感と、見る角度による印象の違いを考えてデザイン。

レバーハンドルには、「戸戸」の「木のレバーハンドル」を。
特徴は、持ち手だけでなく、扉に接する軸まわりまで、無垢材でつくっていること。一般的な木製レバーハンドルでは、持ち手は木でも、扉との接合部などに金属部品が見えるものがあります。対して「戸戸」のプロダクトは、内部に鉄製の軸を組み込んで強度を確保しながら、外側には金属を見せないつくりです。

「戸戸」にはこのほか、木や陶器のつまみなどもありますが、実は、バリエーション自体はそんなに増やしていないとのこと。

「つまみなど、10年以上にわたるスタンダードというものも。ただ、使いながら細部を調整したり、要望に応じて仕様を変えるなど、手を加えています」と藤田さんは言います。



#5 陶器の質感を楽しむ、3RD CERAMICSのペンダントライト

ダイニングには、岐阜県多治見市の3RD CERAMICSの陶器製の「ペンダントライト」をセレクト。3RD CERAMICSには、「戸戸」の「陶器のつまみ」の製作も依頼しています。以前からペンダントライトをつくっていることも知っていて、どこかで使ってみたいと考えていたそうです。

「ダイニングの上には「橋」があるので、軽やかな感じの照明を合わせたいと、選びました」

陶器でできたシェードは、藤田さん曰く「ちょっと帽子みたいな」形。表面には焼き物ならではの跡や揺らぎが残っているのも、気に入っているところ。さらに、点灯するとシェードの縁から落ちる光にも独特の表情が生まれます。

「縁に出る光のラインが、少し波打って見えるのもいいですね。昼間、灯りをつけていない時も、見る角度によって表情が変わるのも味わいがあり、今回取り入れて良かったと思います」



#6 照明の「スタメン」、ひぐらし古具店のペンダントライト

対して「スタメン」として定番的に使っているのが、「ひぐらし古具店」の「フランス式/陶器ペンダント照明」です。西荻窪に店舗を構える同店は、古家具や古道具をはじめ、照明、取手やつまみなどの建築パーツを扱い、店舗や住宅の内装・リフォームにも取り組んでいるショップ。

「陶器で質感が似たものはほかにもあると思うんですけど、シェードの形が好みなんですよね」

シンプルかつアノニマスなデザインで、線の要素が多い2階の「橋」まわりでも、しっくりなじんでくれます。

また、色だけでなく、コードの長さを選べたり、納まりがきれいなのも登場回数が多い理由の一つ。今回の住宅では、天井から直接吊り下げると配線が複雑になるため、壁側からコードを引いて設置していますが、コードの種類によっては、長く伸ばしたときにクセが出たり不自然な動きをしたりしてきれいに納まらないことも。

「ひぐらし古具店のものは撚りのあるコードで、今回のような使い方にも向いている。デザインだけではなく、紐もセットで好みですね」

スイッチは、Panasonicの「SO-STYLE」。直線を基調としたシンプルな形とマットな仕上げが特徴で、操作音を抑えた静音設計も特徴。「電気屋さんから、Panasonicは慣れているから取り付けやすいという声も」と、施工性も含めてのセレクト。



〈紹介したパーツ・建材〉

戸戸|布框戸(ぬのかまちど)

戸戸|木のレバーハンドル

3RD CERAMICS|PENDANT LIGHT

 ひぐらし古具店|フランス式/陶器ペンダント照明(大)E26(※電球別売)

Panasonic|SO-STYLE(ソー・スタイル) 

飛騨の森でクマは踊る


〈プロフィール〉

藤田 雄介 | Camp Design inc

1981年兵庫県生まれ。2005年日本大学生産工学部建築工学科卒業、2007年東京都市大学大学院工学研究科修了。2008年手塚建築研究所勤務を経て、2010年Camp Design inc.設立(2016年法人化)。住宅を中心に建築設計を行うほか、建具専門メーカー「戸戸」を運営。2024年には、建具を通して境界と空間を考察した著書『建具の手がかり―境界を操作する39の手法(学芸出版社)』を刊行。

Camp Design inc.|「橋と軸組と」プロジェクトページ

戸戸(コト)


〈DATA〉

神奈川県横浜市
敷地面積 100.05㎡
延床面積 79.73㎡(1階 44.185㎡、2階 35.548㎡)
構造規模 木造軸組工法、地上2階建て
リノベーション竣工年月 2025年8月
設計 Camp Design inc./藤田雄介
基本・実施設計協力 長谷川敦大
構造 yasuhirokaneda STRUCTURE/金田泰裕・青山健太
施工 工匠/貴田康平・前田眞之介